再会、そしてもう一つの戦場
大坂城本丸の庭に、眩い黄金の光が降り注いだ。 数万の鳥の群れは、一斉に庭石や白砂、そして天守の瓦の上へと舞い降りる。羽ばたきの音がやむと、光の粒子が立ち上り、その中から次々と人間の姿が実体化していった。
「……三成殿!」
真田幸村が、信じられないものを見るように目を瞠った。 光の渦が収まった場所に、確かに石田三成が立っていた。かつて関ヶ原で見た時よりも、その顔つきには神妙な覚悟が刻まれている。 三成の隣には、青年・ナオトと、その父・弘、そして幼い少女・ユイカが、呆然とした表情で周囲を見回している。
「真田、幸村殿……貴殿は、無事であったか」 三成の声は、数年の時を経てなお、変わらぬ響きを持っていた。
その時、奥御殿の回廊から、息を切らして淀殿が駆け寄ってきた。 「三成! 治部少輔、あなただったのですね! 生きていらしたのね!」 淀殿の目からは大粒の涙が溢れ、その傍らには、成長した秀頼が驚きと期待の混じった顔で三成を見つめている。
三成は淀殿の前に跪き、深々と頭を下げた。 「淀殿様、秀頼様……この三成、再びお役に立てる日が来るとは……」 しかし、その言葉の途中で、ナオトが周囲を見回し、異変に気づいた。
「あれ? おかしいな……この城、なんかデカくなってないか?」 ナオトは首を傾げた。関ヶ原の直前に見た佐和山城とは、規模も雰囲気も全く違う。 庭の先に聳える巨大な天守、そして、壁に立てかけられた無数の槍や弓。
「幸村さん、これは……佐和山じゃないですよね?」 ナオトの問いかけに、幸村は微かに眉をひそめた。 「佐和山? 若者よ、ここは豊臣の本拠、大坂城ぞ。関ヶ原から……もう十年以上が経っておる」
「え……十年!?」 ナオトは絶句した。隣の弘も、顔から血の気を失っていく。 「関ヶ原の後、俺たちは佐和山で……佐和山は東軍に攻められて……」 三成が言葉を詰まらせると、後藤又兵衛が口を挟んだ。 「佐和山は関ヶ原の直後に落城し、治部少輔様は京都で処刑されたはず……それが、なぜここに?」
三成、ナオト、弘、ユイカの四人は、周囲の武将たちの言葉に、ようやく自分たちがとんでもない「時」を飛び越えてきたことに気づいた。 彼らの頭上には、空を埋め尽くした数万の鳥たちが、再び黄金の光となって降り注ぎ、その光景は城内の混乱をさらに深めていた。
「ここは……大坂城。そして、今は……大坂冬の陣の直前!?」 ナオトが信じられないといった様子で叫んだ。 その視線の先には、城壁の向こうに広がる、無数の徳川の旗印が見える。 関ヶ原の小さな戦場とは比べ物にならない、桁違いの数の敵が、まさにこの大坂城を包囲しようとしていたのだ。
「そんな……俺たちは、過去じゃなくて……未来に、飛んで来ちゃったのか!?」
絶望的な未来。だが、その隣で淀殿は、三成の生還という奇跡に涙を流し続けている。 そして、幸村は、呆然とするナオトの背後に立つユイカの神秘的な光を見て、確信した。 この少年たちがもたらすものは、単なる混乱ではない。 滅びを待つ大坂に、今、奇跡という名の「希望」が舞い降りたのだと。




