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神翼の脱出

佐和山城を包囲する東軍二万の軍勢は、静まり返る城を前に、総攻撃の機をうかがっていた。 「もはや袋の鼠よ。三成の首、この秀秋が一番に挙げてくれん!」 小早川秀秋が功を焦り、軍扇を振り上げたその時であった。


城内から、地響きのような唸りと共に、耳をつんざく鋭い鳴き声が響き渡った。


「ナオト、父上! 光に身を任せよ、神の道が開かれる!」 三成の叫びが響くと同時に、城全体が激しい黄金の閃光に包まれた。 ナオトが手にする不思議な光の糸が、天に向かって真っ直ぐに伸びていく。その光に触れた二千九百の兵たちは、一瞬にして人の形を失い、眩い翼を持つ鳥へとその姿を変えていった。


「な……何だ!? 兵たちが消えていくぞ!」 田中吉政が叫び、福島正則が呆然と空を仰いだ。


さらに、大津や南宮山の方角から飛来した毛利秀元、立花宗茂ら数万の援軍までもが、巨大な鳥の群れとなって佐和山の上空で合流した。 一羽一羽が放つ神々しい輝きが重なり合い、佐和山の空にはまるで太陽が降りてきたかのような、圧倒的な光の渦が巻き起こる。


「家康殿……この戦、神が許さなんだようだな」 ナオトの静かな呟きが、風に乗って平田山の家康の元まで届いた。 ナオトも、父・弘も、ユイカが放つ光の羽に包まれ、重力を振り切って大空へと舞い上がった。


平田山の本陣で、徳川家康は床机しょうぎから立ち上がり、わなわなと震える手で空を指差した。 「正純……見ろ。奴ら、空を……空を飛んでおるのか!?」 家康の顔は驚愕で引き攣り、これまでの自信は一瞬にして崩れ去った。天下を掌中に収めたはずの男が、初めて「人智を超えた理」を前にして、ただ立ち尽くすしかなかった。


「殿、あれは……大阪の方角へ!」 本多正純が叫んだ通り、数万羽の光り輝く鳥の群れは、東軍の頭上を悠然と横切り、夕闇の迫る西の空――大阪城を目指して一直線に突き進んでいった。


地上に残された二万の東軍は、武器を構えたまま、言葉を失って空を見送るしかなかった。鉄砲も、矢も、その神聖なる翼には掠りもしない。


「……これでは、もはや戦など無意味よ」 黒田長政が力なく呟き、槍を地に突いた。


空を行くナオトの視界には、黄金の羽を広げて飛ぶ石田三成の気高い背中が見えた。 歴史の潮流は、今、神々の手によって強引に引き戻され、誰も知らぬ未知の明日へと向かい始めた。

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