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『永遠の太陽』

作者: 清村 聖樹

「国はいつか終わる時が来る、永遠などありえはせんのだ」

 これが俺の人生を変えた、始まりの言葉。

 この言葉は黒い髪と黒い瞳の不老の体を持った魔術師の王が、幼い頃の俺に語りかけた何気ない一言だった。豪商の息子であった俺は幼い頃から父に連れられ王宮に出入りており、お優しい陛下は私をとても可愛がってくれて、色々な話をしてくれた。

 その日も、父が大臣らと商談している間にと、陛下が俺をお茶に誘ってくれたのだ。俺は花の咲き誇る王宮の庭でおいしいケーキを食べていた手を止め、首を傾げた。

「どうしててですか? お父さんは陛下が魔術で国を守ってるから、グラスフィリア王国は永遠の平和と繁栄が約束された国だって言っていました」

 俺の言葉に陛下は静かに微笑み、優しく頭を撫でた。大きく何処か乱暴な手つきだったが、俺は陛下に撫でられるのがとても好きだった。

「よくお聞きファランディアス……明けぬ夜がないのと同じように、暮れぬ日もありはせんのだよ」

「あの、ごめんなさい。ボク、よくわからないです……」

「解らずともよい。ただ覚えておいておくれ、今はそれだけでよいからな」

 そう言って陛下は俺の頭をグシャグシャにかき回し、とても楽しそうに声を上げて笑っていた。俺もつられて笑った。二人で腹がいたくなるくらい笑った。

 確かに、幼い俺には理解できなかった。だから、幼い俺は長い時間をかけてでも陛下の言葉を理解する事を追い求める事を決めた。

 長い長い思考の末、俺は成人と共に反対する父と祖父を押しのけ家の跡継ぎを弟に譲ると言い残すと、家を飛び出した。その足で向かうは王宮、俺はあの日の言葉の答えを一人叫んだ。そう、それが正しい答えであると信じて。


「日が暮れるというのなら太陽を追いかければいい。俺が国の太陽である陛下をお守りして、誰もが望む永遠の平和を創るんだ! 全ては国と王の為!!」


 俺は軍に志願し平和で名高いグラスフィリアの中で必死に功績をあげ血反吐を吐くような努力で出世の道を切り開いた。そして、俺は何十年もかかってようやく将軍職を勝ち取り陛下の傍らに立つ事を許された。地位も名誉もすべてそろった、俺は名実ともに陛下の剣になれたのだ。


 そんなある日、陛下は俺を庭に呼び出した。花の咲き誇る王宮の庭、二人分のお茶の置かれた小さなテーブルに二脚の椅子、その片方に陛下は静かに座っていた。不老の肉体を持つ陛下は幼い日に見たときのまま若く美しかった、まるでこの空間だけ時間が止まっているかのようで、唯一の違いは長い年月で俺が老いたという事実のみ。

「おお、久しいな、お父上殿はご息災か?」

「お久しぶりでございます陛下、この不肖ファランディアス勘当されて久しく、父の事は一切存じ上げません、どうぞお許しください」

 椅子に座らず俺は頭を垂れた。

「そうか、そうであったな……すまんなファランディアス。さぁ、積もる話もある、そう畏まらず、座って一緒に茶を飲もう」

「いえ、私は一介の軍人、陛下と同席するなど畏れ多く……」

 陛下はため息をつき呆れた口調で不機嫌そうに言った。

「いいから座れファランディアス、融通のきかん奴だ。これは命令だファランディアス、今すぐ、私の前に、座れ」

 命令という言葉に軍人である俺が逆らえない事を知っていて、昔からこの方はこういう言い方をするんだ。

「…………命令とあらば従いましょう。失礼いたします陛下」

 しぶしぶ椅子に座った俺を見て満足したのか頷きながら優雅にカップに口をつけた。

「うむいい子だ、最初からそうすればよいのだ。さぁ、お前の好きな物ばかり揃えたのだ、存分に食え」

 そう言っていくつもの小皿に盛られた茶菓子をニコニコと進めてきた。俺はそのうちの一つを掴みもそもそ食べはじめる。

 俺があまり嬉しそうに見えなかったのか陛下は顔を覗き込むように言った。

「どうした、具合でも悪いのか? あまり食が進んでおらんが……」

 俺は口の中に残っていた菓子を飲み込み恨めしげに言った。

「陛下……大変ありがたいのですが、私はもう子どもではありません。菓子をもらってそこまで喜べません」

「む? なんと! そうであったな、うっかりしておった! お前ももう三十路を過ぎたのだったな。どうにも私の中でお前はいつまでも幼子のままでなぁ、すまんすまん」

 そう言って陛下は豪快に笑い、茶菓子を一つ口に放り込んだ。

 そうだ、この人はこういう人なのだ。誰にでも優しく、それでいて力強い兄貴肌で常に国と民の事に心を砕き、戦争で焼け出され平和を求めてやってくる難民たちに心を痛めている。そんな陛下こそ、この世の太陽となるべき方なのだ、この方こそ世界の救世主となるべきなんだ。

 俺は背筋を伸ばしまっすぐに陛下を見つめていった。

「陛下……このファランディアスお話ししたい議がございます」

 お茶のカップに口をつけていた陛下は苦笑を浮かべながらカップを受け皿に戻しておどける様にワザとらしく椅子にそっ返りながらおどけて言った。

「許す。申してみよ、将軍」

 俺は椅子から降り、再び頭を垂れ、長年思い描いていた夢を告げた。陛下ならきっと解ってくださる。

「陛下、私は世界がすべてこのグラスフィリアのように平和になればよいと思っております。世は戦乱にございます、野には焼け出された者たちが平和と安息を求めてこの国へ向かって列をなしているのです」

 陛下は初めて神妙な顔をして頷いた。

「その事に関しては私も心を痛めている、逃げ延びた者には出来る限りの補助もしておる。だが、争いの元を断てぬ以上、我らは受け入れ仮初であっても安息を与える事しか出来ぬのはお前とてわかっておろう」

「はい、陛下のご慈悲は十二分に理解しております。ですが、それだけでよいのでしょうか」

「……何が言いたいのだ?」

 あぁ、この時をどれだけまったか、陛下貴方ならきっと解ってくださる。俺は深く頭を垂れしっかりと声高に宣言した。

「世界には逃げられなかった者たちもおります。その者たちにも真の平和は与えられるべきなのです! 陛下、今こそ虐げられている民草を争いより救い出す時です。世界は陛下の名の下に平和と安息を手に入れるのです!」

 頭を上げると、陛下は幼い頃によく見せてくれた優しい笑顔を浮かべていた。この慈愛に溢れた笑顔と、穏やかで優しく響くその声が俺は大好きだった。

「……なんとなく解っていた。いつか、お前がそう言いだすと」

「ならばっ!」

 陛下は首を小さく横に振った。

「私は、賛成する事ができない」

「なぜです陛下っ!? 貴方は世界の太陽となれる方なのに、貴方が成果をあまねく光で照らせば争いは無くなり世界は楽園となるのです、なぜ賛成してくださらないのですっ」

 俺はいつも争いで傷ついた人々を想っていた貴方なら喜んでくれると思っていたのに、見上げる陛下の顔は心なしか沈んで見えた。違う、俺は陛下にそんな顔をして欲しかったわけじゃない。

「陛下……なぜです?」

 なぜ、解ってくれない。俺は貴方を信じているのに、貴方はなぜ俺を信じてくれないのか。

 俺はただただ、陛下の言葉が悲しかった。


 これが貴方からの言葉への答えだと言うのに


 見上げる先の陛下は微笑まれていたが、その笑顔はとても寂しそうに見えた。

「ファランディアス、お前は昔から賢かったな。だが、昔お前に言ったように永遠などありはしないのだ。いや……永遠などあってはいけない」

「何を……っ 永遠の平和こそが人々の願い! ならば世界がグラスフィリアの統治下に置かれれば世界は平和に……」

 陛下は俺の言葉をさえぎり、静かに首を横に振った。

「そんなやり方では争いは終わらない、平和など訪れない」

 そんなこと言わないでくれ。貴方の口からそんな言葉聞きたくないっ。

 陛下は小さくため息をつき、真剣な眼差しで私の目を見据えた。

「答えを急いてはいけない。ファランディアス周りをよく見よ、平和と何か、よく考えなければならない」

「陛下……貴方なら解ってくださると信じていたのですっ!」

「すまないファランディアス、私を……許してくれ」

 謝罪を述べる陛下の顔は苦渋に満ちていた。

「私は王だ。全ての者の王でなければならぬ。解ってくれ、それがグラスフィリアの王なのだ。たのむ、解ってくれ、お前だけの王にはなれぬのだ……っ」


 これは、否定?


 陛下は俺を拒絶した?

 俺の中で何かが音を立てて崩れだした。今までの人生の全てが意味を失っていく、俺の存在さえまるで無意味に思えてきた。

 目の前が揺らぐ、何も見えなくなる……。


 俺の存在が消えていく


 気が付くと俺は陛下に背を向け走り出していた。後ろから陛下の叫ぶ声が聞こえる、だがもう振り返る事は出来ない。目から温かい何が零れおち、前がよく見えない、俺はどこへ向かって走っているのかさえ分からない。

 このままじゃ俺の存在が消えてしまう、そんなのは嫌だっ!

 俺は俺を存在させるために、俺は理想を追いかけるんだ、永遠の平和を『永遠の太陽』を俺は創り上げてみせる……たとえそれが陛下と反目する事であったとしても、そうでなければ俺はこの世界に必要なくなってしまうっ。



 俺が一声上げると俺の理想に共鳴する者たちが枚挙して俺の下に集った。そして同じ数だけの部下たちが俺の下を去った……。

 そして、鎧を身に纏い剣を手にした『永遠の平和』を望む人間たちの、反乱と言う名の革命が争いを知らないグラスフィリアを駆け巡った。


 目指すは玉座の簒奪


 それしか無かった。陛下がいるかぎり俺の理想は追えない、あの方は『永遠の太陽』となる事を拒まれたのだ、だから、俺が新たな王となり陛下に代わり『永遠の太陽』となるのだ!

 攻め込んだ城はあっけないくらい簡単に落ちた。戦いを知らないグラスフィリアの兵は脆く、逃げる事を知っている諸侯たちは不穏な空気を感じ取ったのか我先に国から逃げ出し、城は今だかつてないほど静まり返っていた。

 幼い頃から出入りしていた、いつも笑顔の溢れる温かい場所であった王城には、もう誰もいない……。

 ほんの少し離れていただけなのに、まるで何年も離れていたような懐かしさが込み上げてガランとした廊下の一つ一つを確かめるようにゆっくりと玉座へと向かっていった。

 王城の調度品は一つも残っていなかった、敷き詰められていた質のいい絨毯も壁に掛っていた絵画も、美しい花を飾っていた花瓶も何もかも無くなっていた。

 玉座の間の扉を押しあけるとそこには重厚な造りの玉座が一段高い所に鎮座してた。そして、俺は目を疑った。

 王座には、正しい主が座しており、侵入者である俺をしっかりと見据えていた。

「待っていたぞ」

「お逃げに……ならなかったのですか?」

 唖然としてしまった。陛下がここにいるのが信じられなかった、逃げようと思えば魔術師である陛下だ、誰よりも容易く戦火を逃れる事ができたはずなのに……なぜ?。

 見つめた先の陛下の顔は酷く穏やかでいつものように優しい笑顔を浮かべていた。

「私はこの国の王だ。この国があり続ける限り、私は王としてこの王座に座り続けなければならない」

「……っ! 下働きは愚か、諸侯たちでさえ貴方を捨て国を捨て逃げ去った。この空っぽの城の中で王として全うすべき物があるとお思いか? それでも貴方は貴方を守らない国の為に王としての責務を果たすとおっしゃるのですか!」

 陛下は小さく首を振り、怒りで肩を怒らせている俺とは対照的に穏やかに言った。

「責務であると言えば否定はしない。だがな、王としての誇りや責務だけでここにいるわけではない。私とてお前と同じ、この国を愛している国民の一人……この国を離れたくはないのだ」

 俺は無言で剣を引き抜き、陛下の眼前に構えた。陛下は一瞬剣に目を向けると再び微笑を浮かべ俺をまっすぐに見上げて言った。

「暁が訪れれば、いつか必ず落日もやって来る。ファランディアス、私はお前にそう教えた、“永遠などありえはしない”と」

「いいえ陛下、私が太陽を沈ませたりはいたしません! 貴方こそ世界の太陽となるべきお方なのですっ、なぜ、わかってくださらない」

 俺は陛下に剣を突き付けなおも叫んだ。

「どうかお願いです陛下、私の理想を理解してください。今ならこの剣を鞘に戻すことが出来るのですっ」

 陛下は口を閉ざし静かに俺を見つめた。俺は祈るように見つめ返した、陛下お願いです首を縦に振るだけでいいんだ、そうするだけで俺は貴方にこれで傷つけなくてすむのだ。

 再び剣に目を向けた陛下は、静かに玉座から立ち上がり何も言わず剣を構える私の手を握られた。

「陛下? 一体何を……っ!!! おやめください陛下!!」

 剣から伝わる鈍い感触と赤く染まる刃、苦しそうな呻き声……そんな、嘘だっ! 目の前の陛下の体は私の握っていた剣により貫かれていた。


 陛下は自害なされたのだ。


「へ、いか……そんな、陛下? 陛下!! あ、ぁああっぁ…陛下ぁぁあああああああぁああ!!」

 見る見るうちに足元に血だまりが出来ていく、剣を抜こうとしても陛下の手が今なお俺の手を力強く握りしめ身動きが取れない。

「陛下!! なぜ、なぜです!?」

 体を貫かれているはずなのに、それでも陛下は微笑んで俺を落ち着かせようとするかのように優しく諭すように言った。

「本当はな、お前の理想も私は善いと思っていた。だが、祖国を失った者たちはどうなる? 祖国を失うという事がどう言う事か、お前にわかるか? 私にはわからない……だから、私は『奪う王』ではなく『受け入れる王』でありたかったのだ。わかってくれファランディアス、私は王なのだ。全ての者に等しく王でなければならないのだ……がはっ」

 陛下は激しく咳き込み苦しそうに血を吐きながら呻いた。

 最後に顔を上げた陛下の目は涙で溢れて、その頬に幾筋もの軌跡を残しながら流れ落ちていた。陛下は自身の血で濡れた片手を私の頬に添え、泣きながら言った。

「ファランディアス・ガーグ、我が忠義なる将にして最愛なる友よ、古い太陽が沈まねば、新しい太陽は昇れないのだ……古い私は沈まねばならない」

 そう言い終わると陛下は握っていた手を離し、そのまま剣を抜き体は再び玉座に座られた。俺はその場に力なく崩れ、陛下の足元に膝まづいていた。

 ふと見上げると薄く眼を開けた陛下と目があい、陛下は泣きながら微笑み小さく絞り出すように言葉を出した。

「すまない……ありがとう」

 そう言うと静かに目を閉じ大きく一つ息を吐くと陛下はそれきり目を覚ます事は無かった。

 俺は陛下の血に染まった剣を握りしめ陛下の亡骸を前に、ただただ陛下の言葉を思い出しては考えていた、陛下の言葉の意味を……。

「私が間違っている、そうおっしゃるのですか?」

 その問いに答える声は、もういない。


 俺が、殺した


 その日から、俺は新しい太陽となった。

 だが、陰りはすぐに訪れた。陛下の死後、この国に人がいなくなった。誰もが戦火を逃れるため国を捨てたのだ。

 民の姿が消え、暮らす者がいなくなった町や家は荒れるしかない、そうだ、俺の愛した祖国は荒れてしまったのだ。

 国の象徴であった『守護樹グラスフィリア』も王の不在を嘆いているのか、それとも王を殺した俺を責めているのか、その豊かな緑は枯れ果て、それに倣うかのように国の豊かな実りは姿を消し、歴代の魔術王たちが残した国を守る結界も維持する役目を負っていた陛下の死後に消失し、それを狙っていたかのようにやってくる侵略者は後を絶たなかった。

 それでも俺は必死にこの国を守った、この国が俺の全てであり、俺が望む未来の形だからだ。俺は国を守るため剣を血で汚し続け戦いに明け暮れたが、それでも広大な国土は少し筒削られ、とても守り切れない。

 戦いの末、残ったのは誰もいない広大な荒れ野と疲れ切った兵士たちの山、かつて『この世の楽園』と呼ばれていたのが嘘のようだと誰もが嘆き、終わりない戦いに疲れた革命の戦士たちはいつしか国を去り始めた。

 たとえ最後の一人になろうと、俺は沈まぬ太陽にならなければならい、太陽を追いかけ続けなければならない。


 そうでなければ、俺の存在に意味がなくなる


 大樹から落ちた大量の落ち葉で埋もれ始めている王城。埃をかぶった玉座、俺は陛下が今でもそこに座っているような気がして、俺の代わりに王を弑逆した剣を玉座に鎮座させていた。

 絶えない戦の間の一時の帰城、俺は玉座に軽く寄りかかるようにして床に腰かけぼんやりしていた。疲れていたのだ、心底、何を守るために戦っているのか時々わからなくなりそうになっては、戦の合間に城に戻りここに腰かけた。自分でも無意味な事をしているとわかっていても、なぜかここへ足が向くのだ。

 ふと俺の視界に夕日が映った、赤く燃える夕日に染まる赤がね色の雲、小さな煌めきを放つ星々が夜の訪れを知らせる。

「太陽が……沈む」

 気が付くと俺は僅かに残った腹心の部下たちの制止も聞かず、無我夢中で沈もうとしている夕陽を追いかけて走っていた。


 沈むな、沈んではならない、俺が追いつくまで沈む事などあってはならない!


 いったいどれくらい走り続けたのだろう、太陽はすっかり地平線の彼方へと沈み、空には満点の星空が広がっていた。

 俺は倒れる様に地面に突っ伏し、苦しい息を必死に整えようと浅く呼吸を繰り返した。

 俺は、一体何をしてるんだ? 俺が太陽に追いつけるはずもなかったんだ、こんな矮小な手足だけでどうやって落日を止める事が出来ようか。

 俺の理想はなんだったのだろう……永遠の平和が欲しかっただけのはずなのに、陛下にお仕えしたかっただけなのに、国を愛していただけなのに、いつからくるってしまったのだろうか、何がいけなかったのだろう。

 ふと、陛下の言葉が頭をよぎった。

『ファランディアス周りをよく見よ、平和と何か、よく考えなければならない』

 答えを急ぎ過ぎてしまったのだろうか。

 俺は、太陽のない夜空を見上げ一人呟いた。

「陛下……私は間違っていたのでしょうか? 私の愛する祖国は私の理想とはかけ離れてしまいました、緑豊かなあの頃の面影もありません。私の目指した平和とは何だったのでしょう」

 今いる森も、季節は夏だと言うのに木々には一枚の葉もついておらず、人々で賑わった城下町もただの焼け野原と化していた。

 この世の最後の楽園と謡われた平和の地はすでに焦土とかしている。

「ただ……望んだだけなのに、守りたかっただけなのに……あぁ陛下、貴方に会いたい! なぜ、こんな事にっ!!」









俺は知らなかった


国を失う悲しみ、この身を焼かれるような痛み


俺は知ろうともしなかった


平和とは押しつけるものではない、まして与えられるものでもない


俺の望む平和は自分勝手な平和だった


陛下は、それを知っていたのだ


陛下の教えを無下にしたのも俺だ


俺は己の手で太陽を沈ませてしまったのだ


全ては俺が引き起こした落日


俺の愚かな過ちで愛する祖国は滅んでしまった




ただ、貴方を愛していただけなんだ


貴方の側で誇れる事をしたかっただけなんだ


     『フィリアス』


貴方をそう呼びたかっただけなんだ





ごめんなさい


貴方を愛した


俺を許してください


( ゜Д゜) こ、これはホm……ゲフンゲフン


 あー、とりあえず、長々とお付き合いありがとうございます!

 これは一つの事を深く愛し人生のすべてをそれに注ぎ込んだ男の話といいますか、悲しい破滅の話ではありますねー。

 一応、このまま終わるのも後味悪いのでフォローしておきますと、これには書いてませんが、この後『将軍』は十年以上先ではあるもののちゃんと救われる予定です。



 これは私が大学に入った頃に書いた作品を大幅に加筆修正したものです。オリジナルはもっと短い作品で、ちょこっと思い入れのある作品でもあります。


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