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いっちゃん(第一部)  作者: Thomas C. Knitter


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5/12

第四話 「いっちゃん、お弁当を届けに行く」

皆様、おはようございます。

福山での生活にも慣れてきた昭和17年。

1年生になった伝姉が、ある日、学校にお弁当を忘れていってしまいます。

母から「お使い」を頼まれた5歳のいっちゃん。

美味しそうな焼き鮭の匂いに包まれて、いっちゃんの大冒険(?)が始まります。

昭和17年。

戦時中とはいえ、まだ空襲もなく、福山の街は落ち着いていた。

時々、戦死された方の家族が遺骨を抱えて歩く姿も見かけたが、5歳の私にはどこか他人事のように思えた。

この年、伝姉は国民学校の1年生になった。学校に通う伝姉が大人っぽく見え、私は

(自分も早く1年生になりたい)

と思っていた。


ある日、伝姉がお弁当を忘れて学校に行った。母は鮭を焼いて、ご飯の上に載せ、蓋をして風呂敷に包むと、私に言った。


「これを伝ちゃんの学校まで持って行って。お母さんは用事があって行けんから、お願いね。いっちゃんの分は、ちゃんと作ってあるから、帰ってきたら食べなさい」

「うん、わかった」


そう言って、風呂敷に入ったお弁当を持ち、私は国民学校へ向かった。

歩いていると、焼いた鮭の香ばしい匂いが漂ってくる。お腹がグーッと鳴るが、『伝姉が待ってる』と思いながら必死に我慢して歩いた。

しかし、河原まで来ると誰もいないのを確認して、私は土手に腰を下ろし、風呂敷の紐を解いた。


(ちょっとならいいよね)


ひと口食べると、思わず声が出た。


「おいしい~」


そこからは箸が止まらず、気づけばお弁当は空になっていた。

『やっちゃった』と思ったが、なんとかなるだろう、と楽観的に考え、家に帰ることにした。

玄関の前で、風呂敷に入った空のお弁当箱に気づく。さすがにこれを持って入ったら怒られる。子ども心にそう思った私は、庭の植え込みの木の中にそっと隠した。


「よしよし、これで大丈夫」


何食わぬ顔で、私は玄関の扉を開けた。


「ただいま」

「おかえり、ご苦労さん。いっちゃんのお昼ごはん、そこにあるから食べなさい」

母は何も気づいていない。私は、用意してくれた焼き鮭をおかずにご飯を食べた。


「やっぱり焼いた鮭は、おいしいな~」

「いっちゃんは鮭が好きじゃなぁ」


母の笑顔に安心し、食後はだんだん眠くなった。

しばらくウトウトしていると、玄関の扉がガラッと開き、伝姉が泣きながら帰ってきた。


「うわ~ん、お弁当、忘れたぁ」


ドキッとした私は、一気に目が覚めた。母が尋ねる。


「いっちゃんがお弁当、届けてくれんかった?」

「いっちゃん、来んかった」


『マズい』

とっさに私は立ち上がり、その場から逃げようと背を向けたが、後ろから、


「いっちゃん!」


と母の大きな声が聞こえ、ビクッとして振り返る。

泣いている伝姉と、あきれた顔の母が目に入った。


もちろん叱られたが、その詳細は、いっちゃんの名誉のためここでは書かない。


――――――――――――


後日談だが、大人になって母とこの話をすることが何度かあった。

私は自分のやったことは棚に上げて、


「お母さん、小さい子にお弁当のお使いを頼む時は、先に好きなものを食べさせてからにしないとダメよ」


と説教じみたことを言った。

母は笑顔で、


「そうじゃのう、そうすりゃあよかったのう」


と何度も私の話を聞いてくれた。

あの頃は食料も少なく、大変だったはずなのに、母は懐かしそうに話を聞いてくれた。


(つづく)

第四話をお読みいただき、ありがとうございました。


誘惑に勝てずにお弁当を食べてしまい、空の箱を植え込みに隠す……。

いっちゃんなりの必死の「完全犯罪」でしたが、泣きながら帰ってきた伝姉の姿に、万事休す。

叱られた思い出さえも、大人になってから母と笑い合える宝物になる。

そんな家族の絆がまぶしいお話でした。

さて、賑やかな上山家には、さらにもう一人の家族が加わります。


明日もお楽しみに。

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