第十六話 「いっちゃん、福山から迎えが来る」
皆様、おはようございます。
農家での暮らしも半年が過ぎ、実りの秋を迎えました。
約束通り稲刈りの手伝いに訪れたいっちゃん。
そこで運命の転機が訪れます。
田植えが終わってからの半年、夏の間は、毎日、かまどのご飯炊きと掃除、子守りの日々が続いた。
それでも、奥さんのお乳は出たので、おもゆを飲ませる必要もなく、置き屋にいる時より楽だった。
何より、農家のお米はおいしかった。
そして、半年後、秋の稲刈りの時期になった。
私は、主人と奥さんに連れられて、またこの大きな屋敷にやって来た。
「よう来た」
農家の主人から歓迎を受けた。子供たちはすぐに、
「れいこちゃん、あそぼ」
と言って、私の手を引っ張った。私はそのまま子供達と夕方まで遊んだ。
稲刈りも明日で最後という晩ご飯の時、そこの主人がこんなことを言い出した。
「ところで、れいこちゃん。あんたは、どうしてこんなところへ来んしゃった?」
それは門司に着いて以降、誰からも聞かれなかった言葉だった。
私は戸惑い、すぐに言葉が出なかった。
「……」
「いや、言いたくないなら言わんでよか。親は戦争で死んだとか?」
私は首を横に振った。
「じゃあ、どうしてばい?」
「……私の母は生きてます。でも父が亡くなって養女に出されたんです。でもそこでいじめられて耐えられなくって家出して汽車に乗ったら、いつの間にか門司に着いてました」
「ほう、それじゃ、あんたはどこの人?九州訛りはないと思っとったっちゃんね」
「……福山」
「福山ゆうたら広島県?」
「はい」
「ずいぶん、苦労してきたっちゃね。あんた知っとったと?」
そう言うと、世話になっている家の主人が、
「知らんかったっちゃ。そうか、そりゃ、悪かったね。早う、聞いてあげたらよかった。聞いた以上は、悪いようにはせんけんね。まぁ、任せんしゃい」
と言われ、私は嬉しい気持ちと、もしかしたら、また山本の家に帰られかればならなくなるのかという不安な気持ちが入り乱れて複雑な気持ちになった。
それからしばらくは、また元の農家で子守りと家事手伝いをしながら暮らしていたが、ある日、福山から二人の男性が私を訪ねてきた。
一人は児童相談所の職員で、もう一人は『岡本三郎』という人だった。
私は山本家へ連れて帰られるのではないかと怯えた。
しかし、児童相談所の人は、
「心配しなくていいよ。君にとって一番いいところへ帰してあげる」
と言った。そして、
「この岡本さんはね、君の妹の香代子ちゃんの養父さんだよ。この人と一緒に、とりあえず福山まで帰ろう」
と言った。香代子の養父と名乗るおじさんはとても気の優しそうな人で、この人なら一緒に帰っても大丈夫かなと私は思い、福山に帰ることにした。
帰ることが決まると、その家の子は泣いた。
「れいこちゃん、おらんくなるん?」
私はもう少し、ここに居たいと思ったが、これ以上、ここに居てもどうしようもないこともわかっていた。何より、母に会いたかった。会って、これまであったことを話したかった。
私はその家の子が泣く声を背中で聞きながら、岡本のおじさんと児童相談所の人と一緒に汽車に乗って福山へ向かった。
(つづく)
第十六話をお読みいただき、ありがとうございました。
「私の母は生きています」
その一言が、止まっていた時間を動かしました。
泣き声を背に、いっちゃんは福山へ向かいます。
明日もお楽しみに。




