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いっちゃん(第一部)  作者: Thomas C. Knitter


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第十一話 「いっちゃん、養母と実家に行く」

皆様、おはようございます。


父が亡くなってわずかひと月。

養女先での暮らしに必死だったいっちゃんは、養母に連れられて久しぶりに実家を訪れます。

そこで待っていたのは、あまりにも残酷な「二つ目の別れ」でした。


私が養子になってひと月後、不意に養母が私を連れて上山家に行った。

養母は黒い着物を着ていたので父の四十九日かと思った。

すると、そこには頭を下げたまま、泣いている母の姿があった。

横に伝姉がいた。伝姉の目も泣き腫らしているようだった。

私は伝姉に何かあったのか聞いた。


「明姉が。……明姉が死んだんじゃ」

「え?」


私は何も考えられなくなった。


(明姉が……死んだ……)


理解するのにどれだけ時間がかかっただろう。

ほんの数秒のようにも、ものすごく長い時間のようにも感じた。


「どうして?」


と聞くのが精一杯だった。

伝姉は首を振るばかりで何も答えてくれなかった。

すると母が、


「腸チフスじゃ。お父さんの病気が移ったんじゃ」


と教えてくれた。

病気になった明姉は嘔吐を繰り返し、さらに痩せていった。

そして明姉は死ぬ直前、母に「私が死んだら、うどんをお墓に供えてぇよ」と言ったそうだ。

そう、明姉はうどんが大好きだった。

一緒に遠くの池本さんちまで配給に行った時もうどんのことばかり気にしていた。

あの日のことを、私は忘れることができない。

優しかった明姉のあの笑顔が頭から離れない。

私は呆然とするしかなかった。

ただ一つ、


(戦争が終わったら、明姉にたくさん、うどんを供えてあげよう)


とだけ心に誓った。


――――――――――――

戦後、私が大人になって、自分の子どもの手を引きながら上山家の墓へ参ると必ず、うどんの乾麺を供えた。そうして


「明姉ちゃん、たくさん食べてね」


といつも両手を合わせるのだった。


(つづく)

第十一話をお読みいただき、ありがとうございました。


大好きだったうどんを一度も口にすることなく、空の上へ旅立ってしまった明姉。

あの時、もっと早く配給の場所を知っていれば。

もし自分が勘違いしなければ……。

小さないっちゃんの心に刻まれた悔恨と誓い。

悲しみに暮れる間もなく、福山の空を真っ赤に染める「あの日」が近づいています。


明日もお楽しみに。

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