第七話「いっちゃん、防空演習で不安になる」
皆様、おはようございます。
学校で始まった防空演習。
初めて被った防空頭巾の重みは、いっちゃんの心に底知れぬ「不安」」を植え付けます。
その夜、ふすまの向こうから聞こえてきた両親の相談。
それは、家族がバラバラになるかもしれないという、残酷な未来の話でした。
その日、午後の授業はなかった。
お昼ご飯後、運動場に児童が集まると校長先生からお話があって、今後、福山でも空襲があるかもしれないので、その時に慌てないために訓練をするということだった。
防空法は三年前の改正で、「空襲時に安全な場所に逃げる」のではなく、「その場に留まり、消火活動を行う」ことが義務化されていた。
まず警戒警報のサイレンが鳴って、その後、空襲警報が鳴る。
警報が鳴ったら、防空頭巾をかぶってケガを防ぐ準備をする。近くの焼夷弾が落ちて、火が上がったら、その場から逃げない。
防火用水の水をバケツに入れ、手渡しで繋いで、燃え盛る火に水をかけるというものだった。
本当の火は起こせないので、立て掛けた板に墨で二重丸をつけたところを目掛けて水を撒いた。
低学年も高学年も関係なく、ひたすらバケツをもらっては次へ渡すという練習を繰り返した。
こんな練習で本当に火が消せるのかわからなかった。
空腹で目が回りそうになりながら、誰も文句も言わずにその作業を繰り返した。
最後に校長先生が、
「空襲は昼夜問わず、いつあるかわからないので、各家庭でも防空壕、防火用水の場所をしっかり確認して消火の練習をしておくように」
と注意があった。
私は訓練したことで、余計に怖くなった。
今の今まで福山には被害は来ないと思っていたからだ。
それに、この防空頭巾を被ると、本当に空襲が来るような気がして、もっと怖くなった。
その日から学校帰りは五年生が一年生と、六年生が二年生と一緒に下校するようになった。
「いっちゃん、一緒に帰ろ」
五年生の明姉がそう言って、手を繋いでくれた。
私は、
「うん」
と頷いた。
不安な気持ちが充満していた私は、明姉と一緒に帰れることになって、少しだけほっとした。
夜、私たち姉妹が眠りについた頃、隣の居間から両親の声が聞こえてきた。
「ほんとに空襲があるんかねぇ?」
「ああ、もう東京や大阪でもあったらしい」
「そうなると子どもたちも危険じゃねぇ」
「街しか攻撃せんらしいで。兄さんに頼んで子どもたちだけでも成羽に居らせてもらうか?」
「ほうじゃね。
明香はもう大きいから、一人でなんとかできるじゃろうし、下の子どもはまだ手がかかる。
伝ちゃんといっちゃんだけ、お義兄さんのところで預かってもらえたら……」
私は耳を疑った。
でも、怖くて何も言えなかった。
私は不安な気持ちのまま、いつのまにか眠ってしまった。
(つづく)
第七話をお読みいただき、ありがとうございました。
「疎開」という言葉が現実味を帯びてきた上山家。
学校帰りに明姉と繋いだ手の温かさだけが、今のいっちゃんの支えでした。
大好きな家族と離れたくない……そんな小さな願いを飲み込んだまま、夜は更けていきます。
さて、食べ物がどんどん少なくなって行く日々の中、近所のおばさんから「甘い」耳よりな情報が。
明日もお楽しみに。




