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いっちゃん(第一部)  作者: Thomas C. Knitter


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10/11

第七話「いっちゃん、防空演習で不安になる」

皆様、おはようございます。


学校で始まった防空演習。

初めて被った防空頭巾の重みは、いっちゃんの心に底知れぬ「不安」」を植え付けます。

その夜、ふすまの向こうから聞こえてきた両親の相談。

それは、家族がバラバラになるかもしれないという、残酷な未来の話でした。


その日、午後の授業はなかった。

お昼ご飯後、運動場に児童が集まると校長先生からお話があって、今後、福山でも空襲があるかもしれないので、その時に慌てないために訓練をするということだった。

防空法は三年前の改正で、「空襲時に安全な場所に逃げる」のではなく、「その場に留まり、消火活動を行う」ことが義務化されていた。


まず警戒警報のサイレンが鳴って、その後、空襲警報が鳴る。

警報が鳴ったら、防空頭巾をかぶってケガを防ぐ準備をする。近くの焼夷弾が落ちて、火が上がったら、その場から逃げない。


防火用水の水をバケツに入れ、手渡しで繋いで、燃え盛る火に水をかけるというものだった。

本当の火は起こせないので、立て掛けた板に墨で二重丸をつけたところを目掛けて水を撒いた。

低学年も高学年も関係なく、ひたすらバケツをもらっては次へ渡すという練習を繰り返した。

こんな練習で本当に火が消せるのかわからなかった。

空腹で目が回りそうになりながら、誰も文句も言わずにその作業を繰り返した。


最後に校長先生が、


「空襲は昼夜問わず、いつあるかわからないので、各家庭でも防空壕、防火用水の場所をしっかり確認して消火の練習をしておくように」


と注意があった。


私は訓練したことで、余計に怖くなった。

今の今まで福山には被害は来ないと思っていたからだ。

それに、この防空頭巾を被ると、本当に空襲が来るような気がして、もっと怖くなった。


その日から学校帰りは五年生が一年生と、六年生が二年生と一緒に下校するようになった。


「いっちゃん、一緒に帰ろ」


五年生の明姉がそう言って、手を繋いでくれた。

私は、


「うん」


と頷いた。

不安な気持ちが充満していた私は、明姉と一緒に帰れることになって、少しだけほっとした。


夜、私たち姉妹が眠りについた頃、隣の居間から両親の声が聞こえてきた。


「ほんとに空襲があるんかねぇ?」

「ああ、もう東京や大阪でもあったらしい」

「そうなると子どもたちも危険じゃねぇ」

「街しか攻撃せんらしいで。兄さんに頼んで子どもたちだけでも成羽に居らせてもらうか?」

「ほうじゃね。

 明香はもう大きいから、一人でなんとかできるじゃろうし、下の子どもはまだ手がかかる。

 伝ちゃんといっちゃんだけ、お義兄にいさんのところで預かってもらえたら……」


私は耳を疑った。

でも、怖くて何も言えなかった。

私は不安な気持ちのまま、いつのまにか眠ってしまった。


(つづく)

第七話をお読みいただき、ありがとうございました。


「疎開」という言葉が現実味を帯びてきた上山家。

学校帰りに明姉と繋いだ手の温かさだけが、今のいっちゃんの支えでした。

大好きな家族と離れたくない……そんな小さな願いを飲み込んだまま、夜は更けていきます。

さて、食べ物がどんどん少なくなって行く日々の中、近所のおばさんから「甘い」耳よりな情報が。


明日もお楽しみに。


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