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名探偵の回顧録  作者: 西季幽司
回顧録(一)「蔦マンション一家惨殺事件」
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怪しい男③

「まあ、美紀ちゃんもね。無口で気が効かないし、見た目だって、ほら、ぽっちゃりと言えば聞こえは良いけど、太っているくせに胸なんかこんなに小さくて、この商売、向いているとは言い難かったわ。

 それでも、あんな子が良いって言う、物好きの親父がいるもんだから、うちに置いていたんだけどね。全く、どこが良いのか・・・お兄さんだって、こう言うのが好きでしょう?」

 椿はそう言って、豊満な胸を両手で揺らして見せた。目のやり場に困る。

「それで、旦那さんに恨みを持っていた人物はいませんでしたか?」

「恨み? さあ、いないんじゃない。人付き合いが滅茶苦茶、悪い人だったから。恨みを買うほど親しい人なんていなかったと思う。ドケチで、お金の貸し借りなんてなかっただろうしね。一人で、バーの隅で、黙って飲んでいるような、陰気でセッコイ男だったから、誰も相手にしなかったわ」

「では、奥さんの方はどうです? 誰かに恨まれていたとか、或いは奥さんを巡って三角関係になっていた男性がいたとか、ありませんか?」

 竹村の質問に、椿は「あははは――」と大きな口を開けて笑った。「お兄さん、美紀ちゃんの写真、見せようか? そりゃあね、世の中、物好きな人間がいると言いましたけどね、代わりはいくらでもいる様な子よ。うちもね、あの子が戻って来なくったって、全然、困らないわ。三角関係なんて、ある訳ないわよ」

 身も蓋も無い言い方だ。

「では、二人をよくご存知の方をどなたか知りませんか?」

「いやだあ~お兄さん。二人を一番良く知っているのは、私だと思う。二人共、友達なんかいないわよ。旦那は実家とは絶縁状態だそうだし、美紀ちゃんも家出娘で、実家には帰れないって聞いたわ。美紀ちゃんのご両親、学校の先生だって言う話よ。躾が厳し過ぎたのかしらねえ~ああ、そうそう、確か、妹さんがいたわと思う。同僚だった子で、美紀ちゃんと仲の良かった子なんていなかったから、私を覗けば、親しい人って、妹さんくらいしかいないんじゃない」

 戸籍から金本美紀に妹がいることは分かっていた。既婚で、旦那の仕事の関係だろう。現在は香川県高松市に住んでいた。

「金本美紀さんに妹さんがいることは、こちらの調べでも分かっています。色々、お話を聞かせて頂いて、ありがとうございました。何か、事件について思いついたことがあれば、こちらのご連絡下さい」と言って竹村は一課の内線番号を教えた。

「お兄さん、お名前、何だっけ? 今度は仕事じゃなく、プライベートで飲みに来てよ。サービスするわよ」椿が言うので、竹村は「何かあれば、こいつ、吉田に連絡して下さい」と誤魔化した。

 逃げるようにバーを後にした。

 雑居ビルの階段を降りながら、吉田が文句を言った。

「ひどいなあ、竹村さん。僕を生贄にするなんて。ママさんに気に入られたみたいですね」

「俺の魅力はワールド・ワイドだよ。うひひ」

「英語ですか。竹村さん、肉体派のくせに、時々、インテリめいたことを言いますよね」

「誰が肉体派だ。俺は鋼の肉体にインテリジェンスを兼ね備えた、パーフェクト・ヒューマンなのだよ」

「無理して英語、使わなくて良いです」

 相変わらず仲が良い。

「それにしても、ガイシャが妊娠していたなんて、初耳だったな」と私は口にした。

 妊娠していたとなると、色々、違った面が見えて来る。ママは否定したが、金本美紀に男がいたのかもしれない。こうして捜査の過程では、色々な可能性を考えてみる。

「そうですね。そろそろ、検死報告書が上がって来ている頃でしょう。確かめてみましょう」

 我々は一旦、西新井警察署に戻ることにした。

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