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名探偵の回顧録  作者: 西季幽司
回顧録(一)「蔦マンション一家惨殺事件」
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怪しい男①

 蔦マンションにはエントランスとエレベーターに防犯カメラが設置されている。事件当日の防犯カメラの映像を確認したところ、死亡推定時刻の七時九分に、怪しい人物がマンションに入る姿が記録されていた。

 体格から男性のようだった。黒っぽいパーカーを着て、フードを目深に被っていた為、顔は分からない。下は浅黒いスラックスを履いていた。防犯カメラの位置を知っているのか、常に顔が映らないように行動していた。

 マンションに入るには壁にあるテンキーに暗証番号を入力しなければならない。男は暗証番号を知っていたようだ。躊躇うことなくテンキーに暗証番号を入力していた。手袋をはめており、テンキーに指紋が残っていなかった。男が証拠を残さないように配慮したものだろう。

 どうにも怪しい男だ。

 エレベーターの防犯カメラに男は映っていなかった。エントランスからマンションに侵入してから階段を使ったようだ。これも、やはりエレベーターの中に防犯カメラがあることを知っていたからだろう。用心深い男だ。しかも、マンションの内情に詳しい。

 八時十三分、男がマンションから出て行く姿が、再びエントランスの防犯カメラの映像に残っていた。男の素性と、マンションに入ってから出て行くまでの一時間、何処で何をしていたのか、明らかにする必要があった。

 私の慧眼は、男のポケットに膨らみがあることを見抜いていた。何かを持ち帰ったのだ。

 被害者宅には被害者のものと見られる財布が、食卓の上に手付かずで残されていた。部屋を物色した形跡はなく、金銭目的による犯行の線は薄かった。怨恨による犯行の線で、捜査が進められることになった。

 私は竹村、吉田と共に金本美紀が勤めていた北千住のバーに聞き込みに行くよう指示を受けた。夫、信吾は無職とあって、話を聞くことが出来る親しい知人が見つかっていなかった。

「ヤマさん。外部犯の可能性が出てきましたね」竹村が言った。

「金銭目的とは思えない。怨恨の線が濃厚だ。となると、外部の人間の犯行だろうな。嫌われ者一家で、しかも交友範囲が狭そうなのだ。意外に簡単に容疑者が見つかるかもしれない」と見立てを示してやると、「そうですね~」と竹村は感心した様子だった。

「先ずは被害者の女性が勤めていたバーからです。行きましょう」

 妻の美紀の勤務先を訪ね、被害者一家に恨みを抱く人物がいなかったかどうか聞き込みを行うのだ。

「今日は僕が運転します」と吉田。

 竹村は運転が好きなようで、「阿呆か! お前に運転させる訳ないだろう。今日も俺、運転するのは俺なの」と吉田の提案を却下した。

「竹村さん、運転が荒いから、酔っちゃうんですよね」

「良いよ~酔って、吐いて、寝ていてくれたら。後は、俺がちゃんと聞き込みをやっておくから。うひひ」

「そんな、我慢します。タケちゃん」

「タケちゃんと呼ぶなと言っただろう。俺のことは殿下と呼べ、殿下と」

 良いコンビだ。

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