立派なヤクザ②
「そうか・・・そうやって思い続けてくれているだけで、大祐はきっと満足しているよ。彼女に会うことがあったら、そう伝えてやってくれ。俺はもう、会う機会なんて無いだろうが、一度、彼女と会ってみたかったな」
「中丸はな、長沼さんに、『俺に親はいないが、兄貴とお前がいる。この世で、俺のことを理解してくれるのは、二人だけだ』と言っていたらしいぞ。兄貴と言うのは、村田、お前のことだろう?」
「ふん!」と村田が鼻を鳴らした。
「どうだ。中丸大祐が舎弟だったことを、いい加減、認めてはどうだ?」山本が問うと、村田は「ああ、良い話を聞かせてもらったからな。大祐のことは認めてやるよ」と答えた。そして、「あいつはな、俺と似たような人間だ」と言った。
二人共、父親が誰だか分からないような、ふしだらな女を母親に生まれた。親の愛情を知らず、家に出入りする、母親のひものような男どもから虐待を受けて育った。二十歳を前に、道を踏み外し、立派な極道者へと成り下がった。
「俺はな、舎弟なんぞ、取らないって決めていたんだ」兄貴分だった広瀬の薫陶を受けて、いっぱしのヤクザ者となった村田だったが、人とつるむことが苦手だった。
「まさか、この年まで生きていられるなんて、思ってもいなかった。どうせ直ぐに、鉄砲玉として華々しく散って行くもんだと思っていた。路地裏で冷たくなって死ぬのが俺の人生だと思っていた。だから、誰かとつるもうなんて、考えもしなかった。それが――」
広瀬から、「二、三日でいいから、預かってくれ」と頼まれたのが、中丸大祐との出会いだった。丁度、松永との間で問題を起こして家を飛び出し、行く当ての無かった頃のことだ。村田は「ねぐらが決まるまで二、三日預かるだけのつもりだった」と可笑しそうに言った。
「直ぐに子犬のように、俺に懐いてな。蹴っても、殴っても、くっついて離れなくなかった。それを見た広瀬の兄貴が、『お前もそろそろ舎弟を取ってもいい頃だ』なんて言うものだから、大祐の野郎、兄貴のお墨付きをもらった気になりやがって、益々、俺にまとわりつくようになってしまった。その内、俺も、段々、追い払うのが面倒くさくなっちまった。そのまま放っておくことにした」
仏頂面を押し通していた村田が、中丸の話をする時は、笑みを浮かべていた。一匹狼だった村田にとって、初めての舎弟は、煩わしさと嬉しさが同居する、くすぐったい存在だったのだろう。
「中丸大祐は保護司だった松永典久さんとトラブルを起こした。そのせいで、松永さんは保護司を辞めることになってしまった。中丸はそのことを、随分、悔やんでいたようだな?」
「あの日――」村田は遠い目をして言った。「大祐が妙なことを言い出した。『兄貴、俺がいなくなったら、松永さんのこと、お願いして良いですか?』ってな。『いなくなったらって何だ~!? ああ! 人にものを頼むなんて、十年、早いんだよ』と言って、ぶん殴ってやったんだけどな。あの夜、あいつは呆気なく、死んじまった。俺に一言も無しでな。
あの野郎、何もかもを一人で背負い込んで、バーに乗り込んで行きやがったんだな。一言、言ってくれれば、俺が代わりに死んでやったのにな」
「中丸に松永さんのことを託された訳だ。だが、お前が中丸の仇を討って服役している間に、松永さんは殺されてしまった。やったのは金本だ。だから、お前は金本を探し出して、一家を皆殺しにした。そうだな?」
鋭く、核心に切れ込んでみたが、村田はにやにやと不敵な微笑みを浮かべるだけで何も答えなかった。
「肝心なことは、黙秘か・・・」
「刑事さん。今日の話は良かったよ。ありがとう。礼ついでに、ひとつだけ教えてやるよ。大祐と松永さんの話だ。大祐がかっとして殴りつけたのが原因で、松永さんは保護司を辞めたことになっている。だがな、それは事実じゃない」
「事実じゃない?」
「松永さんに出会う前、大祐が荒んでいたことは間違いない。暴走族に入って暴れ回っていた。族同士の抗争でとっ捕まって、少年院送りになった。所詮はくだらねえ、ガキ同士の喧嘩よ。少年院を出て、行くところが無くて、保護司になってくれた松永さんの家に転がり込んで、面倒を見てもらっていた。その頃の話よ。大祐が病院送りにした暴走族のメンバーが、大挙して仕返しにきやがった。大祐のことだ。返り討ちにしてやるつもりだった。
ところが、松永さんが出てきて、暴走族との間に入って止めようとした。もう、これ以上、大祐に問題を起こさせたくなかったんだろう。根っからのお人よしだ。でも、まあ、保護司には向いていたのだろうな。大祐なんぞに係わり合いにならなきゃあ、ずっと保護司を続けていられたのに――」




