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名探偵の回顧録  作者: 西季幽司
回顧録(三)「黙秘」
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取り調べ③

 翌日、再び村田の事情聴取に臨んだ。

 取調室では、まるで昨日の再生動画を見ているような光景が続いた。

「黒虎会系暴力団『武闘派連合麒麟』の息がかかったバーで中丸大祐が殺された。事件の主犯が武藤だと知ったあなたは、中丸大祐の復讐の為に、武藤を殺害した。違いますか?」

 前日、僅かに反応があった中丸大祐との関係を追及して見た。だが、村田は口を噤んだまま、何の反応も見せなかった。

 私と視線すら合わせようとしなかった。

「村田さんよ。頼むから、何かしゃべってくれよ」と哀願してみたが、村田は視線すら投げかけてこなかった。

 何がそこまで村田に沈黙を強いるのだろうか。

 結局、その日も、村田黙秘のまま、事情聴取を終えた。

「くそっ!あの野郎」闘志が燃えてきた。

「何故、村田は黙秘を続けているのでしょうか?」と木村が私と同じ疑問を口にした。

「何だろう?」と考える。考えられることは、村田が口を開くことによって、誰からに迷惑をかけてしまうことを恐れている――ということだ。

 一体、誰に?

「あるとすれば組関係だろうな」

 村田はかつて広域指定暴力団「玄武会」の構成員だった。

「玄武会の誰かが、事件に絡んでいるということですか?」

「そうとしか考えられない」

「金本一家を殺害したのが村田ではないということでしょうか?」

「いいや。それはない」と私は断言した。

 金本一家殺害の証拠をあれだけ持っていたのだ。村田が無関係だとは思えない。

「そうですねえ・・・」

「誰かを庇っているのでないなら、黙秘を続けることが、やつに有利に働くからだろう」

「どんな利点があるのでしょうか?」

「それが分かれば、やつの口を割らせることができるのだが――」

 私の苦しい戦いは続く。正直、犯人逮捕後に、これだけ苦労をさせられるのは初めての経験だった。私もまだまだ成長の余地があると言うことだ。

 また次の日、話題を変えて、今度は「松永さんの屋敷の寝室の床下で、白骨遺体を掘り起こしたのは、あなたですね? あなたの仕業だと言うことは分かっています。寝室で幾つか、毛髪を採取しました。今、DNA鑑定を行っているところです。あなたのDNAと一致するはずだ」と鎌をかけてみた。

 寝室から採取された毛髪は、全てDNA鑑定が終わっており、村田のものと一致する毛髪は無かった。

 今度も村田は動揺を見せず黙ったままだ。「弁護士を呼べ」とさえ言わないのだ。姿勢を正し、前を見据えたまま、固く口を閉ざしたままなのだ。

「証拠は上がっているんだよ‼ お前がやったんだよなあ~? 金本一家を惨殺したのは、お前のだな!?」声を荒げて怒鳴りつけても効果がない。

「村田さん、いい加減、何かしゃべってもらえませんかね? 黙っていても、罪を免れることなど出来ないことは、あなた自身、よく分かっているはずだ」と一転、泣き落としを試みたが、これにも反応がなかった。

 ただ、時間だけが空しく過ぎて行った。

 焦燥と疲れで、流石の私も理性を失いつつあった。

 村田の取調べが続く。

 鑑識も遊んでいた訳ではない。村田の容疑を固める為に、夜を徹して鑑定が行われていた。蔦マンションの防犯カメラの映像に残っていた怪しい人物と村田の歩容認証が行われた。背格好は勿論、やや右肩が上がった歩き方から、防犯カメラの人物と村田は90%以上の確率で一致していると言う鑑定結果が出た。

 鑑識の鑑定結果を受けて、早速、村田に詰め寄った。「あんた、何故、事件当日の朝、マンションに行ったよな。今はな、歩き方で誰なのか特定することができるのさ。防犯カメラに残っていた人物とあんたが同一人物であることが証明された。あの日の朝、マンションを訪ねた不審者はあんただった。入り口に防犯カメラがあることを知っていただろう? いや、マンションの何処に防犯カメラがあるのか、事前に調べておいたはずだ。暗証番号はどうやって知ったんだ? マンションの住人を脅して聞き出したのか?」

 口調に構ってなどいられなかった。とにかく、村田を落とさなければならない。

「・・・」村田は黙秘を続けたままだ。

 歩容認証が一致したと聞いても、まるで動じる気配がなかった。

「マンションに侵入して、何処に行った? 金本家だろう。あんた、あの家に行って、家族三人、めった刺しにした。違うか⁉」

「・・・」

「ふざけるな⁉ 何か言えよ!」

「ダメです!」村田に掴みかかろうとする私を、木村が羽交い絞めにした。木村は柔道の有段者だ。羽交い絞めにされると、身動きひとつ出来なかった。

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