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名探偵の回顧録  作者: 西季幽司
回顧録(二)「消えた篤志家」
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緊急逮捕③

 アパートを訪ねると、今日も村田は部屋にいた。中を見せたくないようで、今日も靴を履いて通路に出て来た。

(こいつ、まだ証拠品を部屋に抱えてやがる)私はそう直感した。

「向かいのマンションで起きた殺人事件について、また、少々、お話をお聞かせ下さい」と言うと、「構いませんが、私は何も知りませんよ」と狂気を含んだ目を向けて来た。子供なら泣き出してしまうだろう。

「お宅の部屋はマンションの真向かいですよね。中を拝見してもよろしいですか?」

「中ですか? それは困るな」

「何か、見られて困るようなものがあるのですか?」

「私が疑われているのですか? 殺された人と私とは、何の関係もありませんよ」

「いえね、マンションに設置されている防犯カメラに、事件当日の朝、不審な人物が録画されていたのです。その不審人物とあなたの背格好がそっくりなのです」

「そんな・・・背格好が似ていると言うだけで、犯人扱いですか? それに、私は入り口の暗証番号を知りませんので、マンションに入ることは出来ません」

「おや、私は防犯カメラに、あなたに似た背格好の人物が写っているといっただけで、入り口の防犯カメラとは言っていませんよ。それに、あのマンションを入り口が暗証番号を入力してドアを開けることを何故、知っているのですか?」

「・・・」内心、しまったと思ったのだろうが、村田は表情を変えなかった。

(なかなか、肝の据わったやつだ)と舌を巻いた。

「それにね、今は歩容認証と言う技術があるんですよ。画像から、人の歩き方を分析することで、カメラに写っている人物と同一人物であるかどうか、判定することができるのです。あなた、歩く時に、やや右肩を上げて歩きますね。あなたの歩き方を防犯カメラの映像の人物と比較すれば、同一人物かどうか、直ぐに分かります」

「・・・」村田は無言のままだった。

 余計なことをしゃべれば、自分に不利になることが分かっているのだ。

「だんまりですか? まあ、良いです。家宅捜索令状を取って、またお邪魔することにします。今日のところは、これで結構です」

(これで十分だろう。餌は巻いておいた。後は食いついてくれるのを待つだけだ)と思った。

 西新井署に戻る車の中で、木村に「悪いな。最近、竹村たちと一緒で、お前の面倒を見てやれなくて」と言うと、「僕は大丈夫ですよ。日頃、十分、薫陶を受けていますから。良い機会ですから、しっかり彼らを指導してやってください」と嬉しいことを言ってくれた。

 竹村たちもそうだが、後進が育って来ている。頼もしい限りだ。

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