緊急逮捕①
長谷川が益田と言う刑事を連れて来てくれた。一見して、いかにも四課の人間らしい。ヤクザと見間違いそうな強面の刑事だった。
「益田さんです」と長谷川が紹介する。
五十代だろう、髪をオールバックに撫でつけ、武闘の跡を物語かのように右目の目尻に深い傷跡があった。よく見ると、耳の一部が千切れてなくなっているようだ。
「んだよ。こちとら忙しいんだ」益田は文句を言いながら、やって来た。
私の顔を見て、軽く頭を下げた。私は顔が広い。
「お忙しいところ、すいません。この――」竹村は中丸大祐の捜査資料を見せながら、「事件についてご記憶でしたら、詳しいことを教えて頂きたいのです」と頭を下げた。
「うん? ああ、『玄武会』の下っ端が殺された事件か。俺の担当だった事件だな。覚えているよ。何せ、事件の後が大変だったからな」益田が素直に答える。
「事件の後に何かあったのですか?」
「いやな、中丸だっけ? 表向き、あいつを殺害したのは、石塚って言う『黒虎会』系の組織の下っ端の仕業ってことになっているんだが、俺はな、武藤の仕業だと睨んでいる」
「武藤――ですか?」武藤と言う名前に聞き覚えがあった。
「『黒虎会』の幹部の一人よ。あの時、現場にいたことは間違いない。だが、バーにいた目撃者全員が武藤はバーにいなかったと口をそろえていた。あのバーは『黒虎会』の息がかかっているからな、後難を恐れて本当のことを言わなかったんだろう。中丸は駆け出しで知らなかったんだろうが、玄武会系の人間が、あんなバーに飲みに行くなんて、あり得ねえよ。殺してくれと言っているようなものだ」
「中丸を殺害したのは武藤と言う男で、石塚を身代わりに仕立てた――そう益田さんは睨んでいるのですね?」
「おう、兄ちゃん。物分りが良いな。流石は一課のエリートさんだ」
「いえ、ベテランの益田さんがそう睨んでいるのなら、真相はそれで、間違いないと思います」竹村は益田を持ち上げておくことを忘れなかった。
益田はご機嫌な様子で続ける。「ふふ。でな、その後が大変だった。石塚は武藤の身代わりになって刑務所に行った。殺されたのは、駆け出しの下っ端だ。『玄武会』は、ことを荒立てたくなかったらしい。それで手打ちにしたかったようだ。だが、当時、『玄武会』にいた村田って言うのが、血の気の多い、気の荒いやつでな。こいつが、中丸を殺した真犯人が武藤らしいってことを探り出した」
「村田! 村田と言うと、村田勇ですか?」
「そうだよ。兄ちゃん、よく知っているな。『玄武会』で一、二を争う武闘派の村田だ。舎弟の中丸がやられたとあっちゃ、黙っていられなかったんだろう。『玄武会』じゃあ、村田が暴走しないように、随分、気をもんだらしいが、結局、やつは暴発しちまった」
竹村は思い出した。村田勇は十六年前に対抗する組織の暴力団幹部、武藤高士を殺害して服役している。「村田が武藤を殺害したのは、中丸大祐の復讐だったと言う訳ですね。中丸大祐は村田勇の舎弟だったのですか?」
「俺はそう睨んでいる。でなきゃあ、村田が武藤を殺った理由が説明つかん。だがな、村田は中丸を嫌っていて、よく殴りつけていたと言う証言ばかりで、舎弟として可愛がっていたと言う証言はなかった。
武藤殺害の犯人として逮捕された後、取り調べで、村田本人が『俺は一匹狼で舎弟なんかいない』と中丸との師弟関係を否定している」
「ですが、益田さんは中丸と村田が、親しかったと睨んでいる訳ですね。だとしたら、きっと、そうなのだと思います」
「はは。兄ちゃん、あんた気に入ったよ。一課なんかにいないで、うちに来ないか? ガタイもいいし、面構えも良い。うちにぴったりだと思うぞ」
竹村はほめ言葉と受け取ったようで、「ありがとうございます」と頭を下げた。吉田が笑いをかみ殺していた。
これで、中丸大祐を介して、松永典久と村田勇が繋がった。益田に礼を言うと、報告のために一課に戻った。




