葆光彩磁花瓶④
高沢が出て行くと、吉田が興奮した面持ちで言った。「先輩、暴力団が出てきましたね。村田と松永をつなぐ接点が、見つかったかもしれません」
ああ、そうだ。良い着眼点だ。間違いない。村田と松永はその少年を介して繋がっていたのだろう。
「だな。村田は金本じゃなくて、松永と繋がっていた。どうやら、俺たち、鉱脈を掘り当てたみたいだな。どうだ? 俺と組んでいれば、出世間違いなしだろう」
「あら~竹村さん、出世に興味があるんですね?」
「無いよ。でも、お前の下で、こき使われるのは嫌だからな」
「大丈夫ですよ。僕が上司になったら、好きなところに飛ばしてあげます」
「おう! ありがとう。せいぜい、頑張って出世してくれ」
二人が無駄話をしている内に、高沢が分厚いファイルを持って戻ってきた。「当時の資料は全部、この一冊にまとめてあります。何処かに名前があるはずです」とテーブルの上でページをめくり始めた。やがて、「あった。これです」と保護観察対象者の犯罪歴や生い立ち、家族構成、家庭環境などが書かれた資料を二人に見せた。
――中丸大祐。
と書かれてあった。
「ごめんなさいね。彼が殺された事件については、よく存じ上げませんの」若者が死亡した事件については詳しくないと言う。だが、暴力団の抗争で殺されたのなら、警察に捜査資料が残っているはずだ。名前さえ分かれば、事件の詳細は調べることが出来る。
「大丈夫です。こちらで調べれば分かると思います」我々は礼を言って、高沢家を後にした。
「よくやく村田と松永の接点が見えてきましたね」と車中で竹村が私に言った。
「ああ。中丸大祐、彼がその接点だろう。間違いないよ。よくやった」そう褒めてやると、「ありがとうございます」と竹村は嬉しそうだった。
警視庁に戻ると、早速、組織犯罪対策第四課に足を運んだ。
吉田は都内の独身寮に住んでいる。組織犯罪対策第四課には顔なじみの先輩寮生の長谷川がいた。彼に頼んで、中丸大祐の殺害事件に関する当時の捜査記録を見せてもらった。
「うちにはヤクザ顔負けの強面の人間が多いが、お前の相棒も負けていないな」竹村を見て、長谷川が吉田の耳元で囁いた。
長谷川自身は、真面目なサラリーマンにしか見えない。組織犯罪対策第四課の刑事だと言っても、信じてもらえないだろう。
「ですよね~」と吉田が笑う。
竹村は捜査記録を独り占めにして、むさぼり読んでいた。二人の会話が耳に入らない様子だった。
「おいっ! あったぞ。被害者の名前が中丸大祐となっている」
十七年前、広域指定暴力団「玄武会」の構成員だった中丸は、一人で、バーで飲んでいたところ、黒虎会系暴力団「武闘派連合麒麟」の暴力団員数名と鉢合わせした。些細なことで口論となり、喧嘩になった。
多勢に無勢、中丸は麒麟のメンバーに袋叩きにされて死亡した。致命傷はバーにあったワイン・ボトルで頭部を殴打されたことによる脳挫傷だ。犯人の石塚は逮捕され、刑に服している。
「竹村さん! 『玄武会』が出て来ましたね。これで、松永と村田が中丸を通して繋がったことになりませんか⁉」吉田が興奮して叫んだ。
村田は「玄武会」の構成員だった。
「同時期に、村田と中丸が『玄武会』にいたことは間違いない。二人は顔なじみだったはずだ」竹村は捜査資料から顔を上げると、長谷川に向かって、「当時のことを、よく知っている捜査員を誰か紹介してもらえませんか!」と丁寧だが吠えるように言った。
「あ、はい」竹村の迫力に気圧され、長谷川が頷いた。




