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名探偵の回顧録  作者: 西季幽司
回顧録(二)「消えた篤志家」
30/72

ガラスの灰皿⑤

 吉村昭信(よしむらあきのぶ)は四十前後、中島の後継者として加工技術を伝授されていると言う。四角い顔に茶色の染めた髪を刈り上げ、鼻筋が捻じ曲がっている。若いころ相当、やんちゃだったことが見て分かる。

 金本のことを尋ねると、「ああ、何度か競馬場で会ったよ。今はやらないけど、昔はよく通っていたから」と山田と中島の顔を交互に見ながら答える。

 今は改心して、ギャンブルから足を洗い、仕事に精を出していることをアピールしたいのだろう。そして、「そう言えば、最後に会った時に金を貸して、そのままになっている。あの野郎、借りパクしやがった」と忌々しそうに言った。

「金本さんはお金に困っていたのですね?」

「下手の横好きでね。パチンコ、競輪、競馬に競艇と、ギャンブルは何でも手を出していた。でも、あいつが勝っているのを見たことなかったね。当然、金に困っていたさ。そう言えば最後に会った時、やばい相手から金を借りてしまったとか言っていたよ」

「やばい相手? 暴力団か何かですか?」

「詳しくは聞かなかったけど、そうだろうね」金本と村田の接点を見つけたような気がした。

 その後、さっぱり姿を見かけなくなったと言うことで、吉村から聞くことが出来た話は、それだけだった。竹村と吉田は礼を言って、有限会社ヤマケンを後にした。

 車に戻る。

「金本が松永さんを殺害して、遺体を床下に埋めたとして、後は、誰が遺体を掘り起こしたのかだが・・・」と呟くと、「金本が松永さんを殺したとは限らないのではありませんか?」と竹村が聞いて来た。

「いや、松永さんが海外移住をしたと近所で言って回った人物が金本であったとすると、当然、やつは松永さんが死んだことを知っていて、嘘をついたことになるんじゃないかな。金本が犯人なのは明白なような気がする」と言うと、「ああ、言われてみれば確かに」と竹村は納得した様子だった。

 こうした後輩への指導も、私の重要な任務なのだ。

「一体、誰が松永さんの遺体を掘り起こしただろう?その人物は松永さんが殺害され、床下に埋められていたことを知っていた。いや、床下に埋められていたことを知らなかったとしても、松永家に遺体があることを知っていた」

 私の指摘に竹村は驚いた様子で尋ねて来た。「松永家に遺体があることが分かっていたと言うのですか?」

「床下に遺体が埋められていなければ、金本は松永家をとうの昔に売り払ってしまっていたはずだ。松永さんは身寄りが居なかった。そして、金本は松永家の事情に詳しかった。実印や通帳を持ち出して、松永さんの財産を処分してしまうことが出来たはずだ」

「なるほど」と吉田も感心した顔をする。

 少々、饒舌になってしまうが、ここで私の考えを披露しておくのも悪くなかった。出来れば彼ら自信に気づいてもらいたいのだが。

「金本は松永さんを殺害したことの復讐で殺されたのかもしれない。もう一度、松永さんの過去を洗ってみる必要があるな。彼、仕事はしていなかった。いや、保護司をやっていたんだった。何時、どれくらいの期間、保護司をやっていたのか? それに・・・」

 話の展開が早過ぎたようだ。竹村が私の話を遮って言った。「ちょ、ちょっと待って下さい。ひとつずつ確認して行きたいのです。金本一家は松永さんを殺害したことに対する復讐で殺された可能性があると言うことですが、それを証明するためには、先ずは白骨遺体が松永さんであることを証明しなければなりません」

「彼は天涯孤独、親族はいない・・・となると・・・」

 ひとつの考えがひらめいた。

「となると?」

「ひとつ、方法がある。松永さんが売り払った岐山の花瓶を調べてみるっていうのはどうだろう?指紋が残っているかもしれない」

 いいぞ。こうやって彼ら自信で気がついて、一歩ずつ前進して行けば良い。

「どうですかねぇ・・・指紋なんて、二、三ヶ月も経つと消えてしまいます。松永さんが所有していたのは十年以上も前ですし、それに花瓶は転売されています。松永さんの指紋が、果たして残っているかどうか・・・でも、調べてみる価値はあるかもしれませんね」

 否定はしたが、やってみる価値はあると思っていた。

「花瓶の所有者に当たってみましょう!」と吉田も言ってくれた。

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