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名探偵の回顧録  作者: 西季幽司
回顧録(一)「蔦マンション一家惨殺事件」
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蔦マンション一家惨殺事件③

「犯人が使ったのだとしたら、指紋は出ないだろう。きっと・・・ああ、それに、ここ。ここを見てくれ」廊下には金本信吾がうつ伏せに倒れている。被害者の頭辺りの床を指差して竹村に見せた。「どうだ? 血痕を拭き取った跡らしきものがあるだろう。廊下にガイシャの血痕が飛び散って、犯人はそのひとつを踏んだんじゃないかと思う。だから、靴跡を残さない為に、綺麗に拭き取った」

「確かに床を拭いた跡がありますね。随分、手慣れたやつのようです。前科者を当たってみた方が良いかもしれませんね」竹村は床に顔を近づけながら言った。まあ、プロはないが前科者の線ならあるかもしれない。

 竹村は顔を上げると、辺りを見回した。

 被害者宅は2LDKのマンションで、玄関から廊下が、台所とダイニングが一緒になったリビングへと続いている。廊下の左手に洗面所付のバス、トイレ、右手に六畳の和室の入口がある。和室は子供部屋として使っていたようだ。そして、リビングの隣に八畳の寝室があった。

 竹村は背後の洗面所の扉を開けた。中を覗きこむ。そして、「ありませんね」と呟いた。なんだろうと思って、竹村の背後から洗面所を覗きこんだ。

「ここにタオル掛けがありますけど、タオルが掛かっていません。被害者が雑な性格だっただけかもしれませんが、犯人が血痕を拭き取るのにタオルを使ったのかもしれません」

「なるほどね」と思った。

 大雑把に見えて細かいところに気が回る男だ。いずれは私を凌ぐような刑事になる可能性を秘めている。だが、まだまだ負ける訳には行かない。そう思ったよ。

「血痕を踏んで幾つか下足痕を残してしまったからだろうな。血痕を拭き取るのにタオルを使い、それを持ち去った。犯人は犯罪慣れした野郎見える。前科者の仕業かもしれない。妙に落ち着いてやがる」

 厄介な捜査になりそうだった。

 これが犯罪捜査を担う捜査官の思考だ。我々はこうして犯人を追い詰めて行く。

「現時点で、他にめぼしいものはないな」

 現場の観察を切り上げた。「取り敢えず近所を当たってみるか」と手分けして、周辺の住人から聞き込みを行うことにした。何故? って、マンションのセキュリティを考えると、先ずは住人から疑ってかかるべきだからだ。

 部屋を出ると、竹村が「うん?」と言って通路にしゃがみ込んだ。「どうした?」と聞くと、「ほら、ここを見てください。血痕を拭き取った跡じゃないでしょうか?」と言う。

 竹村の指差す先をよく見ると、赤味掛かって見える。確かに血痕をふき取った跡に見えた。コンクリート製の床なので、血痕を綺麗に拭き取ることが出来なかったのかもしれない。

「鑑識を呼びます!」若い吉田が部屋に駆け戻った。

 恐らく、靴の裏に血痕が残っていたのだ。部屋にあったタオルで、廊下と通路に残した血痕を拭いた。だが、綺麗に拭きとることが出来なかった。

「馬鹿なやつだ。床を拭くより、靴の裏を拭いた方が早かったのに」

 思わずそう呟いていた。犯罪慣れしたやつのようだが、所詮は素人だ。人を殺したとなると、流石に動転してしまったのだろう。廊下や通路の血痕を拭いて回るより、靴の裏の血痕を拭いた方が早いことに気がつかなかった。犯罪慣れしたやつほど墓穴を掘るものだ。

 吉田が鑑識官を連れて戻って来た。

「流石、竹村さん。足の裏にまで目がついているようですね」と吉田がからかう。

「お前ね~俺のこと、馬鹿にしてない?」と竹村。

「そんなことありません。心の底から、尊敬しています」

「調子の良いやつだ」

「嫌だなあ~タケちゃん」

「俺のことは殿下と呼べと言っただろう!」

 賑やかなやつらだ。

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