ガラスの灰皿③
「ふうん・・・」残念ながら私の見立ては間違っていたのかもしれない。
「白骨遺体の死因は分かったのですか?」と竹村が聞く。
「ああ、それは――」と鑑識官が教えてくれた。
白骨遺体の頭部に明らかに鈍器で殴られたと見られる裂傷があった。死因は頭部を殴られたことによる脳挫傷と見られている。
「だから、ガラスの灰皿が大事なんだ」
頭骨に残っていた裂傷の形状と、ガラスの灰皿が一致しそうだった。
「死亡推定時刻は何時頃でしょうか?」
「うーん。ホトケさんは地中に埋められた上に、コンクリートを被せられていたからな。はっきりとしないが、十年以上、十五、六年といったところかな」
やはり、村田が服役前に殺した可能性がある訳だ。
「被害者の特定はまだですか?」
「指紋が残っていないんじゃあ、後はDNA鑑定しかないな。被害者の血縁者はいないのか?」
「失踪した時点では、書生らしき人間が一人いただけのようです。結婚はしていませんし、親兄弟もいません。母子家庭で育っており、ひょっとしたら生き別れになった父親がまだ生きているかもしれません。静岡県警の捜査結果待ちです」
松永典久の身元調査は武部を通じて、静岡県警に依頼済みだった。松永の父親が生きていれば、DNA鑑定により親子関係が証明できるはずだ。そうなれば、白骨遺体の身元を松永として特定することが出来る。
「和室にあった血痕から採取したDNAと白骨遺体のDNAは一致している。ガイシャがあの部屋で殺害されたことは間違いない。ガイシャは松永さんで間違い無いと思うけど、決定打がないんだよ」鑑識官が嘆息する。
「灰皿の鑑定が終わったら、結果を教えてください」竹村の言葉に、鑑識官は「分かっている」と言いたげな様子で、手だけ振ってみせた。
「さて、どうする?」竹村に聞いた。
「金本には行方の分からない時期があります。その間、何をしていたのか、探ってみましょう。村田と金本の間に、何か接点があるかもしれません。殺害の動機は、金本が行方を晦ましていた期間にあるような気がする」
竹村の言葉に吉田が反応する。「金本が派遣切りにあった町工場から当たってみましょうか? 何か知っている人間がいるかもしれません」
竹村も吉田も、優秀だ。こういう柔軟な発想が行き詰まった捜査を動かしてくれる。頼もしい後輩たちに恵まれた。私は彼らに豊富な経験を伝授すれば良いのだ。
「ああ、良いな。それで行こう。冴えているね、ヨッシー君」
「止めて下さい。変な呼び方をするのは――」吉田が拗ねると、竹村は「お前もだよ」と言って豪快に笑った。
「いやいや、吉田君は本当に優秀だよ」と言ってあげると、「ありがとうございます。先輩に言われるより、ずっと嬉しいです」と吉田が笑顔で答えた。
松永の死で切れたかに見えた糸を村田という男の存在がつなぎとめてくれるかもしれない。




