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名探偵の回顧録  作者: 西季幽司
回顧録(二)「消えた篤志家」
24/72

白骨遺体⑤

 悠々自適の生活を送っているらしい斉藤は、相変わらず家にいた。どかどかと乗り込んで来た我々を見て、「け、刑事さん。一体、どうしたんですか? 血相を変えて。そう言えば、お隣さんで、何か見つかったみたいですね。警察官が大勢、出入りしているみたいですけど――」と泡を食いながら言った。

「先日、あなたから松永さんが今、海外にいると言う話をお聞きしました。それは、松永さん、本人がそう言っていたのですか?」竹村が問い詰めると、「いえ、書生さんから聞きましたよ。あれっ? そう言いませんでしたっけ」と白々しく答えた。

「いいえ、まるで松永さん本人から、直接、聞いたような口ぶりでしたけど――」

「す、すいません。何せ、昔のことなので、誰から聞いたかなんて、はっきり覚えていなくて。それに、刑事さんも、誰から聞いたかなんて、尋ねなかったと思います」

 確かに、誰から聞いたのか尋ねなかった。竹村が渋い顔をする。

「聞いたのは書生さんからだったと思います。ええ、間違いありません。そうそう、刑事さん。前に見せて頂いた写真をもう一度、見せてもらえませんか?」

 前回、事情を聴取した際、金本信吾の写真を見せて、松永家にいた書生と同一人物かどうか確認を求めた。斉藤は、覚えていないと答えている。

 竹村が携帯電話に保存してある金本の顔写真を見せると、しげしげと眺めた後で、「今更で何ですけど~あの時の書生さんを老けさせたら、こんな顔になる様な気がします。ええ、間違いない。あの時の書生さんだ」と、前言を撤回した。

「斉藤さん、間違いありませんか?」竹村が呆れながら念を押す。

「ええ、間違いありません」

「どうして、今になって思い出したのですか?」

「刑事さんにもあるでしょう。突然、記憶が蘇って来ることが。この間、刑事さんたちが帰ってから、当時のことを色々、思い返してみたんですよ。そしたら、あなた、刑事さん。突然、書生さんの顔が頭に浮かんで来て、松永さんが海外に移住したと言っていたのを思い出したんです。あはは」

(あはは、じゃないよ)と心の中で舌打ちをした。こいつに振り回されてしまった。私が間違った推理をしてしまったのは、情報が間違っていたからなのだ。間違った情報は、捜査を誤った方向へ導いてしまうのだ。

 とあれ、これで金本と松永家の書生が同一人物であると言う裏付け証言が取れた。我々は、一旦、本庁に戻ることにした。

 帰りの車の中で、吉田が言った。「竹村さん、金本が松永家で書生のようなことをやっていたのなら、花瓶の入手経路は分かりましたが、それが今回の事件にどう繋がって行くのでしょうか?」

 良い質問だ。

「金本が松永さんを殺害して壺、壺で良いよな? 面倒臭い。壺を手に入れた。そして、遺体を床下に埋めた。そこまでは、分かった」

 私も同意見だ。

「はい。ご丁寧に遺体をコンクリで床下に固めていましたからね。さぞや、時間がかかったことでしょうね」

「まあ、やつには、たっぷり時間はあった」と竹村が答えた時、あるひとつの考えが頭に浮かんだ。すると、「さて、金本が殺害されたとなると、その動機が松永さんの殺害にあった可能性が考えられる。金本が殺害されたのは、松永さんを殺されたことに対する恨みかもしれない。お前も見ただろう? 床下を掘り返した跡があった」と竹村が私の考えを代弁してくれた。

「そうですね。金本が今更、床下を掘り返したりはしないでしょうから、金本以外の人物が床下を掘り返して、白骨遺体を発見したことになりますね」

「そうだ。例えば松永さんに恩がある人物がいたとしたらどうだ? 松永さんが金本に殺害されたことを知り、復讐の為に金本一家を惨殺した」

 そうだ。これこそ、私が言いたかったことだ。

「後は遺体が松永さんだと言うことを確認できれば、竹村さんの見立て通りの可能性が高まると思います。流石! 竹村さん」

「煽てるな。俺はパーフェクト・ヒューマンなのだからな」

「パーフェクト・タケちゃんと呼んで良いですか?」

「お前なあ・・・パーフェクト・ヒューマンが嫌ならパーフェクト殿下と呼べ」と竹村が言うので、「パーフェクト殿下。ちょっと、西新井警察署に寄ってもらえませんか? 木村の捜査状況を聞いておきたいので」と言ってみた。木村には蔦マンションの対面のアパートに住む男について調べてもらっていた。例の怪しかった男だ。

 車内が静まり返った。

「いえ、あの、別に・・・パーフェクト殿下と呼んで頂かなくても・・・」と竹村が言う。

 隣で吉田が大笑いしていた。

 うけた。やっと彼らの会話に加わることができた。

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