白骨遺体④
家宅捜索により、白骨遺体が発見された。
三人で武部のもとに報告に行った。報告を受けた武部は、「おっほう~!」と声を上げた。
「竹村、白骨遺体は松永典久なのか?」
ああ、そうかと思った。松永は海外に移住すると言って姿を消している。もともと、天涯孤独、身寄りのない男だ。殺されて床下に埋められていたとしても、誰も気にしない。それに、屋敷の主でもある。埋められていたとしたら、松永の可能性が高い。
「だと思います。被害者の身元の特定には、まだ時間が必要でしょう。綺麗に拭きとられていましたが、遺体のあった和室から血痕が見つかっています。畳や壁に、いくつもの血痕が見つかりました。犯行現場は遺体のあった和室でしょう」
「死因は何だ?」
「まだ分かりません。検死の結果待ちです。遺体は完全に白骨化していましたので、死因の特定には時間がかかるでしょう」
「死因を特定できれば良いがな。で、金本の犯行だろうか?」
なるほど、もっともな意見だ。金本は松永が所有していたであろう壺、いや花瓶か。花瓶を売って金に換えている。松永家にいた書生のような人物が金本だったとすると、松永を殺害して花瓶を奪った可能性が高い。
伊達に捜査一課で係長を勤めている訳ではない。
「可能性はあります。松永家から指紋や毛髪がいくつか見つかっています。それらを照合してみれば、金本が事件に関与していたかどうか、分かると思います」
松永と金本の繋がりが証明できれば、金本の犯行だと考えて間違いないだろう。だが、そうなると、誰が松永を殺したのだ?
壺、いや花瓶か。花瓶を盗まれたことを知った松永が金本一家を惨殺した。そう考えていたが、違ったことになる。
「床板がはがされていたそうだな。誰かが遺体を埋めた後に、遺体を掘り起こした人間がいると言うことだ。松永さんを殺害したのが金本だとして、一体、誰か白骨遺体を見つけたのだろう? その人物は床下に白骨遺体が埋められていることを知っていたことになる」武部が首を傾げる。
これは難題だ。金本一家を惨殺した犯人さえ分からないのに、松永が殺されて床下に埋められていたことを知っていた人物がいたとなると、見当もつかない。
何とも摩訶不思議な事件だ。だが、こういう事件を解決するのが、私の役目だ。
「はい。ただ、白骨遺体を掘り起こした人物の進入経路は分かっています。玄関は施錠されていましたが、寝室は雨戸の建てつけが悪くて、外から雨戸ごと取り外すことが出来ました。恐らく、そこから侵入して、床下を掘り起こしたのでしょう」
「そうか、いずれにしろ、竹村、頼んだぞ!」
武部は椅子から立ち上がると、大きな手でバンバンと竹村の肩を叩いた。
「はい」と竹村が力強く頷いた。
武部は私に向かって、「こいつら、よろしく指導してやってください」と頭を下げた。
言われるまでもない。後輩を育てて行くのも、私の楽しみのひとつなのだ。
「何だか怪獣同士の格闘みたいでしたね」
報告を終えると、口の悪い吉田が言った。
「怪獣同士? 係長はともかく、俺なんて可愛いものだろう。か弱き子羊みたいなものだ」
「何処が⁉ 先輩みたいに太々しい子羊がいる訳ないでしょう」
「俺の何処が太々しいって?」
「何処って、全てですよ。そう思うでしょう?」と吉田に話を振られたので、「謙虚で礼儀正しい若者だと思うよ」と答えると、会話が終わってしまった。
こういう時に巧妙な返しが出来ないところが私の悪いところだ。
程なく、指紋の照合結果が出てきた。屋敷に残っていた指紋のいくつかが、金本信吾のものと一致した。
「やはり、松永家にいた書生は金本信吾だった!」竹村が小躍りした。
これで松永と金本が繋がった。岐山の遺品が何故、金本の手に渡ったのか、説明がついたことになる。
「竹村さん、松永家の書生が金本だったとすると、床下の遺体が誰なのか、自ずと分かって来ましたね」吉田の言葉に、竹村がにやにやしながら、答えた。松永だと言いたいのだろう。「お前、時々、冴えてるね~」
「時々はひどいなあ~」
今度は吉田に少し同情した。
松永家にいた書生が金本で、岐山の花瓶を持っていた。となると、答えは明白だ。金本が松永を殺害し、花瓶を奪い、遺体を床下に埋めたことになる。
「松永の出入国記録を調べなければならないな」
遺体が松永だとすると、海外移住をしたと言う話が眉唾になって来る。松永典久の出入国記録を調べる必要があった。
「ですね」と吉田が早速、入国管理局に問い合わせを行ったところ、予想外の回答が戻って来た。
「竹村さん。出入国記録どころか、松永典久はパスポートを持っていませんでした。パスポート無しで、一体、どうやって海外に移住したんでしょうね」
「海外移住の話が嘘だったことになるな」と竹村が言うので、「海外移住の話が嘘だったのか、あのビルのオーナーが適当なことを言ったのか、そのどちらかだな」とアドバイスしてやった。
決めつけるのは早い。
「もう一度、ビルのオーナーと会って、締め上げてやりましょう」
我々は再び松永家へと向かった。




