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名探偵の回顧録  作者: 西季幽司
回顧録(一)「蔦マンション一家惨殺事件」
19/72

松永久秀の末裔④

「覇王の都の地名としては相応しくない。信長は、尾張政秀寺の和尚に改名を頼んだそうだ。和尚は、岐山、岐陽、岐阜という三つの地名を提案し、その中から信長が岐阜を選んだと言われている。そもそも岐山とは、山の麓に都を置いた古代中国の周王朝が殷王朝を滅ぼして、天下を統一したことから、縁起のいい地名とされているそうだ」

「お詳しいですね」

「常識だよ。ガイシャは、松永さんから壷を手に入れた。仮に、松永さんが冗談で、私は松永久秀の末裔で、この壷は松永久秀のお宝だと言ったとしたら、ガイシャがそう信じ込んだとしても不思議ではない」

「なるほど」竹村と吉田が揃って感心した。

「ガイシャは朝早く、尋ねて来た犯人にドアを開けて応対している。顔見知りの犯行だと考えて間違いない」

「エントランスの防犯カメラに映っていた不審者は事件とは無関係なのでしょうか?」

「それがガイシャの顔見知りだったのかもしれないぞ」

「松永さん?」

「その可能性もあるだろうな」

 私はここで松永が犯人である可能性を示した。金本は松永から壺を手に入れた。ひょっとしたら盗んだのかもしれない。松永から壺を奪って姿を消した。そして、壺を売り払って大金を手に入れた。

 金本の行方を突き止めた松永はマンションを急襲し、一家を惨殺した。

 現時点でも最も確度の高い見立てだと思った。竹村と吉田は私の見立てを聞いて、目を丸くしていた。事件捜査はこうして真実に近づいて行くのだ。

「通報の件はどうでしょう? 犯人は犯行後、被害者の携帯を使って通報しています。何故、そんなことをしたのでしょうか?」吉田が尋ねる。

「そうだなあ・・・金本一家を殺害することが目的であって、逃げ回るつもりが無かったのかもしれないな。そう考えると、犯人逮捕は意外に早いかもしれない。被害者の携帯電話を使ったのは、単に、一番、身近にあった電話だったからかもしれない」

「なるほど」と吉田が感心する。

 ここで、もうひとつ爆弾を彼らに落としてやった。

「ガイシャがどうやって板倉岐山の壺を手に入れたのか? 町工場をクビになり、その日の生活にも困っていたようなやつが、岐山の壺を売って大金を手に入れた。松永さんが板倉松子の邸宅を買い取ったことが分かっているから、恐らく、壷は板倉家にあったものだろう。松永さんの家にいたと言う書生のような若者がガイシャだったとしたら?」

「松永さんと金本が繋がる訳ですね!」

 二人の驚き方から、私の落とした爆弾の大きさを知ることが出来た。松永家にいた書生が金本だったとすると、彼が壺を盗んで姿を消したという推理が現実味を帯びて来る。松永は海外へ移住した。そして、屋敷の管理を任された松永が壺を勝手に売り払ったのだ。

 帰国した松永はそのことを知って、復讐を企てた。それが今回の事件だ。

「ああ、そうだ。どうだい? 事件の全容が薄っすらとだが見えて来ただろう?」

「ええ、ええ」と竹村は激しく頷くと、「松永家を捜索することが出来れば、その書生のような人物の指紋や毛髪を手に入れることが出来るかもしれません。それが金本のものと一致すれば・・・」と言い出した。

 それは私も考えた。だが、空き家とは言え勝手に立ち入れば立派な不法侵入だ。そう簡単には行かない。不法な手段を使って手に入れた証拠など、裁判で使える訳がない。それは竹村だって分かっているはずだ。

 全ては推測の域を出ない。

「何かいい手はないか・・・」と三人で頭を抱えた。

「あの・・・」と吉田がおずおずと手を上げた。授業じゃない。「何だい? 何でも自由に言ってもあって構わないよ」と言うと、「先ほどから板倉岐山の壺とおっしゃいますが、あれ、花瓶ですよ」と言いにくそうに言った。

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