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名探偵の回顧録  作者: 西季幽司
回顧録(一)「蔦マンション一家惨殺事件」
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板倉岐山の壺②

 金本信吾の経歴について分かって来た。

 新潟の出身で、高校を中退して東京に働きに来ている。「時流」では実家と絶縁状態だと言っていたようだが、父親と弟が新潟に健在だ。

 父親はろくに働きもせず、家庭内で暴力を振るうような男だったらしい。

 金本が高校に通っている時に母親が病没している。甲斐性の無い亭主を抱え苦労したようだ。死因は癌だったが、金本は「親父に殺されたようなものだ」と言い、母親の死後、家を出ている。以降、実家に戻らず、父親は勿論、弟にも会っていない。確かに絶縁状態だった。

 高校を中退し上京、品川区にあった部品工場に職工として雇われたが、派遣切りが世間を賑わせた時、職を失っている。同時に、住んでいた会社の寮を追い出された。

 その後、暫く足取りが掴めない。

 会社の寮を追い出された後、一旦、北区の安アパートに住民票を移しているが、そこも暫くして家賃を滞納し、追い出されていた。以来、住所不定となる。アルバイトで食いつなぐか、浮浪者のような生活をしていたのかもしれない。

 そして、十五年前、金本は突如、足立区にあった蔦マンションを購入している。岐山の壺を売った金で、マンションを購入したことは間違いない。だが、新潟を出て、食うや食わずの生活を続けていた金本が、どこから博物館級の逸品を手に入れたのか不明だった。

 消息が不明だった数年間、金本が何処で何をしていたのかが捜査の焦点となった。

 香川県警経由で金本美紀の妹に話を聞いてもらうことが出来た。

「姉が殺されたと聞いて、ああ、やっぱりと思いました」と妹は答えたと言う。誰かに恨みを買っていたと言う意味ではなく、「姉は我儘で自分勝手な性格でした。誰かから恨まれていたとしても不思議ではありません」と言うことだった。

 学生時代、成績の悪かった美紀は学業に興味を失い、高校に上がる頃にはすっかりグレていた。美紀がグレたお陰で、教師だった両親は窮地に立たされた。実の娘がグレてしまい、教師としての資質を生徒の父兄から問題視されてしまったのだ。

 結局、母親は勤めていた小学校を退職に追い込まれ、父親も平の教員のまま出世と無縁であったと言う。妹は「こんな事件を起こして、死んでからも、私たちに迷惑をかける」と言って泣いたと言う。

 金本美紀は被害者だ。好き好んで殺された訳ではないだろう。

 姉とは全く連絡を取り合っていない。年老いた両親がいるのに、全く顔を見せない。結婚したことも、子供が生まれたことも、葉書一枚、寄こして知らせて来ただけだ。両親は孫の顔さえ見ていないと言うことだった。

 結局、妹の口から事件に関連がありそうな話を聞くことは出来なかった。

 金本の捜査は行き詰まってしまった。途方に暮れる竹村に「金本の線がダメなら、板倉岐山の線から当たってみれば良い」と助言してやった。

「なるほど!」と竹村も直ぐに私の意図に気付いた様子だった。

 板倉岐山は有名人だ。岐山の関係者を洗って行けば、金本に行き着くかもしれない。

 我々は板倉岐山の線から金本との接点を探ることにした。「俺がハンドルを握る」と竹村の運転で、晩年、板倉岐山が住んでいたと言う北区に向かった。

 車中で、「板倉岐山についてネットで調べてみたんですけど、岐山の壺って、素人の僕が見ても繊細で綺麗でした。億の値がつくのも頷けるような気がします」と吉田が言った。

「お前に芸術の良さなんて分かるのか?」と竹村が突っ込んだ。

「僕に芸術は分かりませんが、それでも岐山の凄さは分かるような気がしました。竹村さんこそ、芸術とは無縁の人でしょう。岐山の壺を見て、何も感じないかもしれませんね?」

「芸術に無縁とは何だ! 俺は鋼の肉体にインテリジェンスを兼ね備えた、パーフェクト・ヒューマンだと言っただろう。何時になったら覚えるんだ?」

「あはっ、笑えます。壺だけに、ツボにはまるな」

「くだらん! 駄洒落になっていないぞ」

 彼らといると退屈しない。

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