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名探偵の回顧録  作者: 西季幽司
回顧録(一)「蔦マンション一家惨殺事件」
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蔦マンション一家惨殺事件①

 一家惨殺殺人事件が発生、名探偵がその犯人を暴き出そうとするが・・・というお話。犯人は誰か? という謎以外に楽しめる要素を準備した。

 私は名探偵、霜村陽昇(しもむらひしょう)

 断っておくが、本名ではない。通り名、芸名みたいなものだ。良い名だろう。霜が降った村に陽が登る。静寂から動への変化、幽玄さ、暖かさや希望すら感じさせてくれる。

 ただ変わった名前をつけてしまった為、まともに名前を覚えてもらえない。

 さて、世間を騒がせた蔦マンションの一家惨殺事件について解説しよう。あの事件で、私が何を考えて、どう推理したのか。どういう思考回路で事件を解決したのかが分かる画期的な試みを、読者は目にすることになる。


 九月十三日、午前八時四十八分、警察官がマンションの一室で遺体を発見した。

――足立区島根にある蔦マンション四階の四○五号室で人が死んでいる。

 匿名の通報を受けて、西新井警察署から警官が駆けつけた。

 マンションの住人の名は金本信吾、四十二歳。四〇五号室には他に妻の美紀、三十八歳と娘の葉月、三歳が住んでいた。

 部屋のドアに鍵は掛かっていなかった。

「金本さん、開けますよ!」と警官がドアを開けると、廊下に血塗れで男が倒れているのが目に入った。

 一家の主、金本信吾だ。既にこと切れていた。

 腹部に一カ所、背中に三ケ所、鋭利な刃物による刺し傷があった。遺体の状態から、ドアを開けて応対に出たところ、いきなり襲われたようだった。部屋の中に逃げ込もうとしたところ、犯人に追いつかれ、背中を複数個所刺され、廊下で息絶えたものと思われた。

 金本信吾の遺体を越えてリビングに進むと、更に悲惨な光景が待っていた。

 リビングに金本の妻、美紀の遺体があった。ソファーに座っていたところを、いきなり犯人に襲われたようだ。こちらは首に一カ所、刺し傷があるだけだった。深々と抉られ、傷口がぱっかりと割れ、夥しい量の出血がピンクのパジャマを真っ赤に染めていた。

 そして、リビングの隅に幼児の遺体があった。こちらは小さな胸が、鋭利な刃物でひとつきにされていた。

 死亡推定時刻は早朝、六時から八時の間、三人の殺害に同一の凶器が使用されたことが、検死により分かっている。信吾、美紀、葉月の順で殺害されたと見られ、最初の被害者だけ刺し傷が多いのは男であったからだろう。何故かって? なあに、簡単なことさ。抵抗を恐れて、何度も刺したのだ。

 女子供は苦しまないようにひとつきで致命傷を与えている。冷酷な殺害方法から、捜査員の間では、プロの仕業ではないかと言う意見があったようだ。

 私? まさか。正直、被害者一家はプロを雇って殺害しなければならないような大物には見えなかった。動機は怨恨、それしかないと考えた。

 こういう具合に、あの時、私が何を考え、どう推理を巡らせたか分かるように記述してある。楽しんでくれたまえ。

 蔦マンションは築二十三年の古いマンションだが、セキュリティはしっかりしている。唯一の入口であるエントランスには、壁にキーパッドとインターホンが設置されていた。キーパッドに四桁の暗証番号を入力するか、インターホンでマンションの住人を呼び出して、部屋から開錠してもらわないとエントランスのドアは開かない。

 暗証番号は三か月に一度、月初めの日の午前零時に更新され、住人にのみ伝えられている。避難用に各階に防犯扉があり、外壁に非常階段が設けられているが、防犯扉は内側からしか開かない。

 部外者がマンションに侵入することは不可能と思われた。

 こういうセキュリティがしっかりとしたマンションは、返って侵入が楽だったりする。考えてもみたまえ。三か月に一回、暗証番号が変わったら、覚えきれないだろう。誰だってド忘れすることくらいある。入り口で暗証番号を忘れたふりして立っていれば、住人の誰かが教えてくれる。

 さて、何故、私が事件の発生を知って、現場に駆け付けることが出来たのか。しかも、現場に立ち入りことが出来たのかと言えば、当時、私は警察関係者だったからだ。名刑事として警視庁で知られた存在で、この事件も、難解な事件になりそうだった。この事件を解決できるのは、お前しかいないと指名を受けた。だから、私は真っ先の現場に駆け付けることが出来たのだ。

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