カレン男爵令嬢のからくり
カレン男爵令嬢は、これまで「花の乙女」として注目されていた。
「花の乙女」は、我が王国の言い伝えで、神の声を聞ける救国の少女を指す。
王国の危機に現れ、人々の願いをかなえ、平和をもたらす聖女のような存在だ。
「その痛みがなくなるように、私も一緒にお祈りします。」
「あなたの願いが叶うように、私も一緒にお祈りします。」
当時、まだ平民だったカレン嬢は、そのように言っては相談しに来た人と一緒にお祈りしたという。
そしていつしか、カレン嬢が一緒にお祈りしてくれると願いが叶うという噂が広まった。
「いいえ、私が一緒にお祈りしたからではなく、きっとこれが神様のご意向だったのですわ。」
「私はただの小娘ですわ。神様が見守ってくださったのでしょう。」
あくまでも「神様」という立場をたてて、本人も説明するものだから、やがて噂は変化した。
「カレン嬢は、花の乙女なのではないか?」
平民の間で広まる評判を無視できなくなった王族は、彼女を貴族学園へ入学させることにした。
凶作が続き、不安も不満も高まりつつある王国の情勢を調整するという意味合いもあったのかもしれない。
カレン嬢は金策に困っていた男爵の義子となり、一年ほどの貴族教育を経て貴族として社交界にデビューした。
しかし、学園で思わぬことが起きた。
アルベルト第一王子、騎士団長の息子、宰相の息子の三人が、彼女と常に行動を共にするようになったのだ。
それぞれ婚約者もいるのにかかわらず、だ。
それだけ聞くと悪い話に聞こえるが、実はそうではない。
というのも、この3人には王侯貴族や婚約者も手を焼いていて、扱いに困っていたのだ。
その3人の問題児の性格や言動が良い意味で少しずつ変わりはじめたのだ。
側妃生まれで乱暴だと言われていたアルベルトが落ち着き、脳みそも筋肉で出来ている騎士団長の息子が勉強をはじめ、内気すぎて会話ができなかった宰相の息子と話ができるようになったのだ。
「彼女は本当に【花の乙女】かもしれない。。。」
学園の関係者もそう話すようになり、カレン嬢の噂はさらに広がっていった。
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「今日もハンナ様は高貴でお美しかったですね。私など、足元に及びません。。。どうしたら教室で私にもご挨拶をしていただけるでしょうか?」
「本当ならカレン様がお渡しくださるはずの資料を、お仕事があるとのことで教員経由でいただきました。やはり、私のことをお嫌いなのでしょうか?」
いつからだろうか。
カレン男爵令嬢はそんな話をアルベルトにするようになった。
「なに?!ハンナがお前をいじめてるのか?」
「いいえ、いいえ、ハンナ様は悪くありません。きっと私が至らないのです。」
そんな会話が何度も繰り返されるようになった。
「ハンナのやつめ。。。前々から俺を見下していると思っていたら、カレンにまで嫌がらせしやがって。。ぜってぇゆるせねぇ。。」
「くふふ、順調にハンナにヘイトを稼げていますね。」
「なんか言った?」
「いえ!私のために怒ってくださるアルベルト様も素敵だなぁと思っただけですわ。」
「ふへへ、そうかよ?まったく、カレンはしょうがねぇなぁ!」
こうして二人は、ハンナの罪を想像の中で膨らませ、正義感と背徳感に溺れるように恋にのめりこんでいった。