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婚約破棄と同時に毒杯を飲ませようとしたのが運の尽きだった第一王子のお話 

「お父様とお母様が隣国へ出かけている今、この国の最高権力者は、この私アルベルトだ。そして私の第一王子としての権力をもって、この場で宣言する!ハンナ、お前との婚約は破棄だ!俺は真実の愛を見つけたんだ!新しい婚約者はこのカレン男爵令嬢だ!」


「アルベルト様・・・、うれしいです!!」


カレン男爵令嬢がアルベルト第一皇子の腕に自分の体を巻きつけた。


「心優しいカレンは、ハンナにされてきた数々の悪事を水に流すことを提案した。婚約破棄によって社会的な罰を受けるだろう、と。だが俺はそんな生半可なことでお前が反省するとは思えない。これまで散々悪事を働いてきたお前のような小賢しい悪女は、苦しみながら自らの行いを後悔するといい。さぁ、毒杯を!」


そう言うと、アルベルト第一王子は騎士団長の息子と宰相の息子に合図した。

二人が私をしっかり拘束したのを確認し、アルベルトは私の口をこじ開け毒杯を流しこんだ。


「ゲホッゲホッ。。。!う・・・。」


「知っていたか?この国で最も屈辱的な刑罰が毒杯だと言われている。なぜか分かるか?安らかな死を与える猶予もないほどの罪を犯した、ということを意味するからだ。」


学園生活がやっと終わり、やっと自分の好きなことが出来ると思った矢先に毒を飲まされるとは。。

せめて自分の尊厳を守ろう。

そう思い、咳が治まった私は出来るだけ背筋を伸ばし、アルベルト達をまっすぐ見た。


「ちっ、最後まで生意気な目つきだ。。。」


静かなホールに時計の音が響きわたる。


どれくらいの時間が経っただろうか?


「ん・・・?」


私はまだ立っていた。

ちょっと気分が悪いけれど、我慢できる程度だ。


「おい、効いてなさそうだぞ?」

「なんでだ?おまえ、まさか間違えて持ってきたのか?」

「いや、そんなはずはない。。。しまった、瓶を壊してしまったから確認しようがない。」

「そしたら誰かが飲んで確かめるしかないのか?おい、お前が持ってきたんだから、責任もって飲めよ。」


私に毒を飲ませた男子三人がひそひそ話し合っている。

どうやら毒薬は、自白剤や媚薬やら、劇薬と一緒に厳重に保管されていたため、間違えた可能性が出てきたようだ。

普通、そんな大事なところを間違えるか?

いや、この3人なら、ありうるか。。。

薬を家から持ち出した騎士団長の息子が、内容を確かめるために飲むことになった。


「やめろよ! ぐっ。。。あれ?」


やはり何も起きない。


「やったな。。。!お前も飲めよ!」


今度は宰相の息子が飲まされた。

やはり、なんともない。


「次はあなたの番ですよ!!!」


最後に第一王子が飲まされた。


「み、みんなも飲むなら、私も運命を共にするわ。。。!」


最後の一口を、第一王子の腕に自分の腕を絡ませていた男爵令嬢が飲んだ。


やっぱり何ともない。


「あれぇ・・・?」

「やっぱり間違えた・・・?」


どうやってこの場を収束させようか?と、みんなで首をかしげていると、突然、騎士団長の息子が苦しみだした。

泡を吹いて倒れる彼を見て、私はとっさに彼の頭を保護する。


「ぐっ。。!」


次に宰相の息子、アルベルト、カレン男爵令嬢も苦しみだした。


みんな順番に倒れてくれたおかげで、なんとか頭を強打しないように体を受け止められた。

でも、相変わらず私は何ともない。


バタバタバタンッ!!!


「こ、これは一体何があったんだ?!くっ、まずは生徒たちの安全確認と保護を!」


学園長が慌ててホールに入ってきた。

続いて来た学園の先生方に指示を出し、学園長は私の元へ来た。

倒れている4人を一瞥すると、私に探るような視線を投げた。


「・・・この状況が君にとって良くないことは分かるね?君には悪いが、しばらく家に帰ることは難しくなるだろう。家の者へ伝達したい事柄があるなら、今のうちにしておきなさい。」


こうして、私はしばらく学園に寝泊まりすることになった。


*************************************


「うーん。。。学年末の舞踏会で、突然、第一王子が婚約破棄を突きつけると同時に毒杯をおしつけてきた、と?」


「はい。」


「たしかに、他の生徒の供述と一致するんだよなぁ。。。」


学園長や衛兵隊長、騎士団長など複数人の大人に囲まれて、私は事情を何度も聞かれた。


「でも他の4人は瀕死の重体になった。今でも話をろくに聞けていない。なのに何で君は元気なんだ?」


「それは私にも分かりません。。。王妃教育の一環として服毒することがあったので、耐性があったのかもしれません。」


「そうだとしたらアルベルト第一王子も耐性があってもおかしくないんだけどねぇ。。。それでアルベルト第一王子の言う、君の罪とはなんだい?」


「申し訳ありません、それも私には分かりかねます。。。」


「うーーーーーん。。」


大人4人が首をかしげてしまった。


「今日はここまでにするか。。。」


「あまり有益な情報を提供できず、申し訳ありません。」


こうして今日も大きな進展なく事情聴取が終わった。

学園長が真剣な面持ちで関係者と立ち話をした後、扉を閉めてくれた。

そして侍女が部屋の隅に置いていった茶器で、お茶をいれてくれた。


「おつかれさま。連日大変でしょう?大丈夫かい?」


事情聴取が終わると、いつも学園長はお茶をいれてくれる。

茶菓子を出してくれることもある。

私は、この時間をいつも何より楽しみにしていた。


「ありがとうございます。・・・とても美味しいです。」


「そう、よかった。君は昔からこの紅茶が好きだったね。少しでもリラックスできれば良いと思って取り寄せたかいがあったよ。ああ、君の家の者から手紙が届いているよ。こんな状況だから、悪いけど検閲させてもらった。あとで読むと良い。」


「そうですか、お手数をおかけしました。」


「君は・・・、いや、なんでもない。今日も疲れただろう。ゆっくり休むといい。また明日。」


*************************************


同じ頃、瀕死状態にあった4人が目を覚まし始めていた。


「キャーーー!!」

「うわああああ!」


それぞれ鏡を見て絶叫したという。


特にカレンは、独り言を常につぶやいていて、とても正常な様子ではないという。


「どうして?なぜ私の姿が戻ってしまっているの?ここは【花乙女】の世界じゃないの?」


意識を取り戻した3人男子はすぐにカレン嬢を探した。

しかし、彼らはうわごとを繰り返す肌の荒れたポッチャリした中年女性しか見つけられなかった。


「カレン!!!え?だれ?」

「カレンちゃん・・・!彼女をどこにやった?」

「カレン嬢!すみません、ここにカレン嬢がいると聞いてきたのですが。。」


カレン嬢の本当の姿は、前世の記憶を持った冴えない中年女性だったのだ。


「まさか、これが・・カレン?」

「うそだ。。。」


4人の甘い恋物語は終わってしまった。


*************************************


「花冷えの日が続いておりますが、いかがお過ごしでしょうか。今年は桜をあまり見ることができず、そのまま花の季節が終わってしまいそうで残念です。去年、お父様と桜の下でお話ししたことが懐かしく思い出されます。・・・と。これで伝わるでしょう。」


私は、お父様に任務終了をお伝えする手紙をしたためた。

続いて王妃に手紙をしたためる。


「過ぎ行く春が惜しまれる頃となりましたが、木々の芽吹く季節にお会いできるのを楽しみにしております。」


これで王妃はわかってくださるでしょう。

第二王子の権力が芽吹くよう、即位に向けて行動を始めるはずです。


*************************************


数日後の新聞に、カレン嬢が心神喪失でへき地の修道院へ送られることになった、と記されていた。

お父様からの手紙で、第一王子、騎士団長の息子、宰相の息子は、体調が回復次第、魔物討伐の前線へと送られると知った。

あの四人が戻ってくる日は、おそらく来ない。


1年前、王妃から計画を持ち掛けられたときに最初は悩んだ。

でも、これで良かったと今は思う。

我が家の苦しい財政状況も改善されて、弟を貴族院へ通わせることができる。

アルベルト様と愛のない結婚をしなくてすむ。

そして、あの3人が政治の中枢にいつづけても、きっと良いことは少なかった。


コンコンコン


扉から学園長が覗いていた。


「ハンナ公爵令嬢、お父上から手紙が来ている。君の潔白が証明できたそうだよ。明日から君は自由の身だ。」


「学園長! ありがとうございます。」


「潔白が証明できて良かったね。今日までよく頑張った。」


「はい。。。ありがとう、ございます。」


「・・・ねえ、もう貴族院を卒業したし、今回の件も落ち着いたから、また子供の頃のようにニクスと呼んでくれないかい?なんか学園長っておじさんみたいで。。。」


「ふふふ、ニクス様。では、私もハンナと呼んでください。」


「ありがとう!ねえ、ハンナ嬢。僕は今回、本当に心配したんだよ。君のことだから、なにか無茶をしたんじゃないか、って思ってさ。でも結果的には、こんなに一緒に時間を過ごせて喜んでいる自分もいたんだ。不謹慎だよね、ごめん。またいつか、遊びに来てくれるかな?」


「ニクス様。。。もちろんです、私もニクス様と過ごす時間がここでの唯一の楽しみでした。」


「ああ、またそんな言い方して!他の人だったら誤解しちゃうよ?」


「もう私はフリーの身ですし、ニクス様なら誤解されても構わないのです。」


「えっ?!それって・・・。」


「ふふふ」


「・・・ハンナ嬢、実はね、明日、餞別を渡そうと思っていたんだ。でも、今以上に良いタイミングがない気がするから、これ、受け取ってもらえるかな?」


学園長は、頬を赤らめながらポケットから小さい箱を出した。


「これ・・・。」


「叶わぬ恋だと思って諦めていたのに、こんなことになるなんてね。小さい頃から、僕は君だけを見てきたんだ。だから、いつか一緒に人生を歩んでいけたら、と思っていたんだ。」


「ニクス様・・・。」


「もちろん、以前より話し合ってきた教授職の話は受けても良いし断っても良いからね。色々、落ち着いたら返事をもらえると嬉しいよ。」


「ニクス様、ありがとうございます。本当に、本当に嬉しいです。。。私の初恋は、あなたでした。教授職も、婚約者の仕事と両立できるか両親は心配しておりましたが、私はお受けするつもりでした。」


「そうなのかい?ご両親がお返事を濁していたから、僕はてっきり。。。」


「いいえ、いいえ、私の幸せはあなたと共にあるのです。大好きな研究も続けられるなら、言うことはありません!」


「そうか。。。ありがとう!すごく嬉しいよ。」


こうして、私は貴族院へ教授として戻ることになり、研究を続けることになりました。

そして2年後に、私とニクス様は結婚しましたとさ。

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