9話 淵帝
ゼーシェリオン様達と合流し、人通りのない場所で話し合いました。
「そういう事なの。だから、早く行くの」
「そういう事は分かったが、いきなりすぎるだろ」
「むすぅ。エレはいきなりじゃないの。だから行くの」
エンジェリア姫達は、宮殿へ向かいました。
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張り紙に書かれていた通り、宮殿の中に人はいません。エンジェリア姫達は、堂々と宮殿の中を歩いています。
「意外と豪華なの……意外じゃないのかも」
「意外……はねぇだろ。こういう場所だからな」
「ふにゅ。そうなのかも。それより淵帝の居場所が分かんないと」
「適当に歩いてれば見つかるだろ。ここのどこかにいるのは分かってんだから」
エンジェリア姫は、歩きながら見つけた扉を開けては閉めてを繰り返しています。
しばらく歩いていると、結界魔法が使われている扉を見つけました。
「……怪しさ満点の扉発見。きっとここなの」
「ここだろうな」
「少し待ってて。結界解くから」
フォル様が結界魔法を解いています。扉に手を触れているだけに見えますが、結界魔法を解析し書き換えているのでしょう。
「……これなら即戦力になるかな。魔法の精度といい、これ系の魔法の知識といい、さすがとしか言いようがない」
「……ぴゅにゃ⁉︎ え、エレも……エレもすごいの。得意なの」
「君は……僕の大事な子だから、管理者にするとかは」
大切だからこそ、危険な仕事をさせたくはないのでしょう。エンジェリア姫は、側にいるためにも管理者になりたいと思っていそうですが。
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結界魔法を解き、中に入りました。
「おひさなの。聞きたい事あるの」
「結論から言わせてもらう。この件に関わっていない。利用させてもらいしたが」
「ぷにゅ。ならやっぱり世界管理システムなの。それで、お礼何すれば良いの? 」
「関わってはいないが、利用させてもらった。その魔法具の性能調査をしてもらおう」
淵帝は皇帝としてもそうですが、魔法の天才と有名です。この件で暴走をしないような魔法具でも研究していたのでしょうね。
「ぷにゅ。何すれば良いの? 」
「騎士の訓練用の魔法具にする予定だといえば理解できるだろう。壊す気でいってもらって良い」
「ふにゅ。分かったの。ゼロ、一緒なの。エレは防御魔法とかしかできないから」
エンジェリア姫がゼーシェリオン様に抱きついています。
エンジェリア姫が防御魔法とか以外に使っているところを見た事ある気がするんですが。使いたくないのでしょう。
「分かったから抱きつくな。少し離れて防御魔法使っといてくれ」
「ふにゅ」
エンジェリア姫が収納魔法から魔法杖を取り出しました。
「防御魔法使うの」
エンジェリア姫がゼーシェリオン様に防御魔法をかけました。
「防御魔法使ったの」
「では、こちらも呼ぼう」
淵帝が得意とする召喚魔法ですね。魔物を召喚するという話は見た事がありますが、魔法具や魔法機械の類を召喚するというのは初めてかもしれません。
召喚魔法で魔法具を召喚というより、これは、召喚魔法を利用するための魔法具のようです。
「ゼロがんばれー」
「……面白そうだね。試験役、僕にやらせてよ」
「みゅ? なら防御魔法をフォルに」
「かけても意味ないよ」
妨害魔法の一種でしょうか。エンジェリア姫がゼーシェリオン様にかけていた防御魔法が消えています。
「……むにゅ……」
「防御魔法の代わりのぎゅぅとかって」
「……ぷにゅぅ。喜んでなの」
エンジェリア姫がフォル様に抱きつきます。
「ぷにゅぷにゅ……嬉しいの」
「うん。僕もだよ。良いって言うまでずっとそうしていて」
「ふにゅ」
「初めて良いよ。エレの事は気にせずに」
「了承した」
淵帝が魔法具を起動させます。十ほどある魔法具が襲いかかりますが、一瞬で全て動かなくなりました。
「ぷにゅぷにゅ……これは……束縛のお花の匂いなの」
「良く分かったね。正解だよ。楽しみたかったけど、エレが疲れているから」
花で全ての魔法具を切ったのでしょう。
エンジェリア姫は、止まっている魔法具をじっと見つめています。
「フォルすごいの。さすがはエレのフォルなの」
「……ふむ……まだ、改良の余地あり……か」
「ぷにゅぷにゅ。これで候補は世界管理システムだけになったの。フォル、早く行こ」
淵帝が改良を考えている間にエンジェリア姫達はそそくさと退散しています。
「フォル、世界管理システムの場所ってどうやっていけば良いの? エレ一度も行った事ないから分かんない。アスティディアにあるんだよね? 」
「ううん。世界管理システムに関しては、ここと現実では場所が違うみたいなんだ。まずは世界管理システム本体と繋がっている小型魔法機械を探さないと」
「場所は分かっているの? 」
「うん。全部で十箇所。場所は全て把握しているんだけど……」
フォル様が何か言いにくそうにしています。エンジェリア姫は、不思議そうな表情をしてフォル様を見つめています。
「場所がね……ちょっと特殊と言うか……全部一気に行くとエレとゼロあたりは身体がきついかも」
「みゅ? そうなの? 良く分かんないの。とりあえず、一日一箇所でいけば良いと思う」
「それでも大丈夫とは思えないんだけど……君らに待ってろとか言っても聞きそうにないからね」
「良く分かってるの」
フォル様からすればエンジェリア姫とゼーシェリオン様には、どこか安全なところで待っていて欲しいのでしょう。エンジェリア姫は、そんな事絶対にやりそうにありませんが。
「とりあえず今日一つ行くの。どこか分かんないから、フォルが転移魔法使うの」
「うん」
フォル様が転移魔法を使いました。エンジェリア姫の事を少し困った表情で見たあとに。
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「さむさむだけど大丈夫なの」
「むしろちょうど良い……いや、少しだけ暑いくらいの温度か」
一面真っ白な雪景色。見るからに寒そうですが、エンジェリア姫は平気そうです。ゼーシェリオン様やゼムレーグ様が平気そうなのは当然の事なのですが。
「ここのどこにあるの? 」
「洞窟の中。転移魔法でそこまでいけないから少し歩くよ」
「分かったの」
エンジェリア姫達は、この近くにある洞窟を目指して歩きます。
「……雪って真っ白でふわふわで……ベッドにすると気持ち良さそう」
エンジェリア姫が今にも雪の上で寝転びそうにしています。
「変な事考えてないで早く行くぞ」
「むすぅ……エレはゼロのお供だから、ゼロに逆らっちゃだめなの……むすぅ」
「まだそれ言うのか? 」
「ふにゅ。ずっと言うつもりなの」
エンジェリア姫がゼーシェリオン様と手を繋いでいます。
「洞窟発見。ゼロ、洞窟あるの」
「そうだな。さっきからどうしたんだ? いつも以上に子供っぽいんだが」
「……気のせいなの……ふぁぁ……気のせいなの! 」
エンジェリア姫は眠いのでしょう。エンジェリア姫は眠いと甘えたくなる傾向があるので。
「もう少しだけ頑張って。これ終わったら寝て良いから」
「ぴにゅ……がんばるの」
エンジェリア姫が眠そうにしながらも皆様についっていっています。
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洞窟の奥には中型の魔法機械が置かれています。
「……これならエレでも使えるの」
「頼める? 」
エンジェリア姫が魔法機械から情報を得ています。
「……雨? 虹? 良く分かんないの」
「全部の魔法機械から得られる情報をつなぎ合わせる事で場所が分かるみたいだから、一つだと何も分かんないよ」
「ふにゅ。きっときれいな場所なの……フィル、なんか変な問題出てきた」
「……世界の守護」
世界管理システムの主な役割についての問題のようです。エンジェリア姫は、フィル様に教えてもらい正解しました。
「……七色の雨の道だって。意味不明なの」
「……とりあえず、今日はどこで休んで明日別の場所を確認しようか」
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星の音 一章 九話 淵帝