8話 デート
古代魔法具の外へ出たエンジェリア姫一行は、リゼシーナ様とルアン様と別れ、魔法具の暴走を調べました。
「……もう夜なの。野宿……フォルとらぶしてねむねむ……」
「僕がいればどこでも良いの? 」
「うん。良いの。だからぎゅぅして」
エンジェリア姫はフォル様に抱きついています。
「布団」
「ぷにゅう」
「……可愛い」
「ぷにゅにゅう」
フォル様はエンジェリア姫で遊んでますね。
「……それにしても、魔法具の暴走の原因が分かんないままなの」
「うん。ここまで原因が分からないと、世界管理システムしか思いつかないけど」
「行くのむずかしいのー」
まだ数時間しか調べていない気がするんですが。元々、世界管理システムが怪しいと考えていたのでしょう。他を候補から外すために調べると言っていたのかも知れませんね。
「ふにゅ。とりあえず、人為的な可能性消すの」
「うん。となると目的地はエクランダか……ゼムだけで行ってよ」
「エレもあまり行きたくないの」
エンジェリア姫とフォル様は特に行きたくないのでしょうね。
エクランダ帝国はエンジェリア姫が、安らぎの聖女と呼ばれる前にいた場所です。エンジェリア姫はかつて、エクランダ帝国の皇帝に大事にされていました。それが原因で、国民がエンジェリア姫を皇帝の愛人だと誤解しています。
「エレ、人いっぱい集まってくるのやだ。淵帝の愛人呼ばわりされるのとか」
「僕は普通に面倒。仕事だったらどこにでも行くけど、仕事じゃないのにあそこ行きたくない。淵帝が管理者だとか変な噂で……いっその事ほんとにしてやろうかな? 」
管理者は基本的にフォル様のスカウト式ですが、そんな理由でスカウトして良いのでしょうか。
「そんな理由でエレは行きたくありません。フォルも行きません」
「行きません」
「……これも仕事のうちだろ」
「……そうですね……はぁ……分かった。行くよ」
「フォルが行くならエレも行くのー」
エンジェリア姫はゼーシェリオン様のお供とか言いながら、フォル様についていくようです。
「うん。一緒に行こうね」
「むにゅ。フォルらぶなの。そしてエレは明日のためにもねむねむさんなの。ゼロ、テントの中入るよ」
エンジェリア姫はゼーシェリオン様の腕を引っ張り、テントの中は入りました。
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「ゼロ、淵帝会いたくない? 」
「会いたいか会いたくないかと聞かれたら会いたくないの方だな」
「……淵帝はゼロを気に入っているの。エレがいつも会っていた事も、お勉強教えてもらっていた事も知ってるの。歓迎はされると思うよ? 」
「それが理由な訳じゃねぇんだが」
テントの中へ一足先に入ったのは、二人でこの話をするためだったようですね。ゼーシェリオン様がエクランダ帝国へ行きたくなさそうというのだけを察したのでしょうね。
エンジェリア姫には、これ以外の理由に心当たりがないのでしょう。きょとんと首を傾げています。
「むにゅ? それ以外の理由? 」
「……別になんでも良いだろ。行けって言われたら行くから」
「ゼロがやなのに我慢するのがやなの。エレはゼロのお供だから」
「お前、いつまでそれを理由にするんだ? 」
「ずっと。エレはゼロが……ふしゃぁー! 」
「……悪かったな。心配かけて」
ゼーシェリオン様がエンジェリア姫を優しく抱きしめました。
エンジェリア姫は嬉しそうにしています。
「ふにゅふにゅ。ねむねむ……ねむねむ? ねむねむさんなの」
「寝ろよ」
「やなの。ゼロともっとお話するの。それに、淵帝に会いたくない理由聞いてないの」
「……そういえば、淵帝って、変な噂あるよな? エクランダに前に行った時子供が話……歌ってたんだが」
エクランダ帝国の国民が淵帝を讃える歌でしたか。エンジェリア姫はそれを知らないのでしょう。
「……みゅぅ? 」
「ちゃんと聞いたわけじゃねぇからな。俺もほとんど知らねぇんだが、なんかあったんだ。世界がどうとか」
「そうなんだ。エレは知らないの。でも、どうしてそんな歌あるんだろうね。淵帝を讃えるとかだとしても、何か別の何かある気がする」
「そうかもしれねぇな。それより、そろそろ本当に寝た方が良いんじゃねぇのか? 明日も早いからな」
「……ふにゅ。分かったの」
少し不服そうですが、ゼーシェリオン様を抱き枕にしてエンジェリア姫は眠りました。
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エンジェリア姫はエクランダ帝国へ行けば目立ってしまう。それを避けるために、エンジェリア姫を変装させる事になりました。
「ぷにゅぅ」
髪飾り型の魔法具で髪の色と長さを変えます。腰までの金髪。
眼鏡型の魔法具もつけています。
「これはこれで可愛い。エレ、その格好のまま一緒にデートしない? 」
「ふにゅ。デートらぶ。ゼロ、エレはフォルと一緒に行動するの。ゼロはゼムとフィルと仲良ししていてね」
エンジェリア姫がフォル様の腕に抱きつきました。
「そういえば、エクランダって入国するのに面倒なんだよね。フィル、そっちは任せたよ。いつも通りに」
「うん」
「エレ、行こっか」
エンジェリア姫とフォル様は先にエクランダ帝国の近くに転移魔法で向かいました。
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管理者の仕事という程で、入国は楽々完了したエンジェリア姫とフォル様は、宣言通り二人で楽しそうにデートしていました。
エクランダ帝国はこの世界では珍しい、いまだに栄えている場所。
「久しぶりの商店街なの。楽しい」
「うん。何か欲しいものある? なんでも買ってあげる」
「欲しいものよりもフォルとのデートの方が重要なの。綺麗な景色の場所とかも良いけど、これもこれで」
エンジェリア姫がフォル様の手を握り、周囲の景色をきょろきょろと見ています。
「エレ、ちゃんと前見て。転ぶかも知れないから」
「転ばないの。もし転びそうになってもフォルがいるから大丈夫なの」
「それはそうだけど……まぁ、今日はデートを楽しんでもらいたいからいっか」
「フォル、あれ、あれ見て、淵帝様が今日は使用人達を全員休ませているんだって」
わざわざ分かりやすい場所に張り紙を貼っておくというのがいかにも罠らしいです。
「……エレ、こっちに面白そうなものあったから行ってみようよ」
「みゅ? ふにゅ」
フォル様がエンジェリア姫を人通りの少ない裏道へ連れて行きます。
「みゅ? こんな場所に面白いものなんてあるの? 」
「……」
「みゅ? みぃにゃ? 」
エンジェリア姫が不思議そうにしていますが、フォル様は気にせず、人がいない場所へエンジェリア姫を連れて行きます。
「……この辺で良いかな。エレ、分かってる? あれ」
「分かってるの。だから、エレは堂々と行けば良いと思うの。お呼ばれされているのに、お断りなのはエレの中では違うの。お呼ばれしたら、ちゃんとお呼ばれ応じるのがエレなの」
「……君が決めたなら何も言わないよ。その代わり、ゼロ達と合流してから」
「ぷにゅ。ならゼロ達がくるまではいっぱい遊ぶの。いっぱいフォルらぶしておくの」
「……それは良いけど、この話を人が多い場所で堂々としないでよ。また面倒ごとになるから。ここで仕事関連とか、今回のこういうのとかがあると面倒なんだよ」
淵帝が管理者であるとかいう噂のせいでしょうね。本当に面倒そうに言っています。
「……ぷにゅ。分かったの。ここではこっそり何も言わずに、ただ楽しくやっているの」
「うん。そうして。ゼロ達と合流したあとも、人がいない場所で話すよ」
「ぷにゅ。ゼロ達と合流しても、何も言わずに人通りのない場所へ行ってお話するの。って言っている間に来て欲しいんだけどこないの」
「うん」
エンジェリア姫とフォル様は、ゼーシェリオン様達がくるまでの間、デートを楽しみました。
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星の音 一章 八話 デート