7話 海に囲まれた大陸
海に囲まれた大陸にある巨大な王国。エンジェリア姫が転移した場所です。
露店が並んでいる場所を歩いているエンジェリア姫は、さまざまなものに目移りしています。
「……リプセグ、ここで有名な甘いものって何? 」
ゼーシェリオン様を探すという目的を覚えているのでしょうか。このように気楽にいるところもエンジェリア姫らしいのですが。
このあたりで有名な甘味は海色ジューリでしょうか。ぷるぷるの食感で、ここでしか買えない有名な甘味でした。
昔の話ですが。
「……ふにゅ」
エンジェリア姫が、海色ジューリの店に寄りました。この空間では、メニューを見て、欲しいものを言葉に出せば出てきます。
その当時の人々がどんなものを持っていたのか、食していたのか。それらも大事な歴史ですから。それを知る事ができるようにしているのでしょう。
「海色ジューリをおひとつなの」
エンジェリア姫の前に海色ジューリが出てきます。
「……ぷにゅぅ」
程よい甘さに、あとに残る風味。それを堪能しているようです。
「……ぷにゅぅ」
エンジェリア姫は、海色ジューリを食べ終えました。
「すきなの……って、ゼロを探さないと。エレはゼロのお供なんだから。リプセグ、ゼロの居場所知りたいの」
エンジェリア姫には地図を見せても分からないと言われるのがオチでしょう。なので、口頭ではありませんが、光る文字で案内します。
正常な魔原書さえ持っていれば、魔原書を開かなかったとしても、文字を見せる事くらいはできますから。
「ふにゅふにゅ。こっちを右……こっちを右……右が多いの」
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エンジェリア姫が向かった先には、幼いエンジェリア姫に瓜二つの少女達がいました。
少女達は何かを囲むようにしています。その中心、少女達が隠しているものの場所へエンジェリア姫は走って向かいました。
「ゼロ! 」
少女達が隠していたものは、ゼーシェリオン様。エンジェリア姫は、眠っているゼーシェリオン様の手を握りました。
「ゼロ、起きて」
「どうして、起こそうとするの? ゼロはエレ達と一緒にいてくれるって言ったの」
「ゼロが一緒にいてくれるのはエレだけなの。そんな魔法具の偽物とじゃなくて。ゼロ、エレだよ。起きて。エレがいるの。起きなきゃやなの」
エンジェリア姫はゼーシェリオン様を懸命に起こします。ですが、ゼーシェリオン様にその声は届きません。
「邪魔しないで! ゼロはエレのものなの! 」
少女達が一斉に魔法を使います。巨大な氷の塊がエンジェリア姫に襲い掛かります。
「ゼロ、おーきーて! 」
エンジェリア姫は、襲いかかる魔法を気にせずにゼーシェリオン様を起こします。
エンジェリア姫の周囲を透明な花が包み込み、巨大な氷の塊は侵入してきません。
「ゼーロー、おーきーてー……エレ、ゼロがいないとやなの。エレはゼロのお供なの。ゼロがいないとやなの」
「……エレ? なんで泣いてんだ? 」
「ぷにゅぅ」
エンジェリア姫は、目を覚ましたゼーシェリオン様に抱きつきました。
「泣いてないの。らぶなの」
「なんで……なんでそっちを選ぶのよ! 」
少女達が再度氷魔法を使おうとします。ですが、突然全ての少女達が消えました。
「……フォルらぶなの」
フォル様が魔法具の暴走を止めたのでしょう。エンジェリア姫は、ゼーシェリオン様に抱きつきながら、すやすやと寝息をたてています。
「……エレ? 」
「おはよ」
「ああ……悪い。ルアンを探すはずがこんな事になって」
魔法具を元に戻したフォル様がゼーシェリオン様の元へきてエンジェリア姫をもらっています。
「謝るならエレに謝りなよ。僕は何もしていないから」
「……エレ寝てる」
「うん。歩き疲れたんじゃないかな。少し寝かせてからここを出る? 」
「そうだな。少し寝かせてやるか」
エンジェリア姫は気持ちよさそうに寝ています。ゼーシェリオン様が目を覚まして安心したのでしょう。
「……にゃぁ」
「猫? 」
「こんなに可愛い猫他にあげたくない……ってそうじゃなくて、ゼロ、魔法具の暴走に関して調べたいんだけど良いかな? ここまで魔法具が暴走しているのは偶然ではないと思うんだ」
魔法具の暴走自体が非常に珍しい事です。それが立て続けに起きるという事は偶然ではないでしょう。しかも、暴走する可能性が非常に低いような魔法具まで暴走しているので、故意的に以外は考えられません。
「暴走の原因を探るってどうすれば良いんだ? エレやフィルなら魔法具を調べれば何か分かるかもしれねぇが」
「あの二人でも暴走した魔法具を調べて何か見つかるなんて事ないよ。地道に魔法具の暴走がどこまで起きているのかとか調べていかないと」
「そういうものなんだな」
「そういうものだよ。それとか、魔法具の暴走を故意的にできる相手を調べる。かなり少ないから、こっちの方が楽だけど、危険度は高いんだよね。今回はこっちだけど」
すでに候補を絞っているのでしょう。フォル様の仕事の一つでもあるので。
「……エレ、可愛い」
「すやぁ……にゃぁ」
フォル様がエンジェリア姫の頭を撫でています。エンジェリア姫は、頭を撫でられているのを気づいているのでしょうか。心なしか嬉しそうにしています。
「ゼロ、魔法具の件はあとで候補者を教えるよ。エレ達も聞いておいた方が良いと思うから」
「……エレ、にゃんにゃんにゃの」
「……起きてんのか? 」
「寝言じゃない? 寝言まで可愛い……この子のためにも、早く魔法具の暴走を止めないとだね」
エンジェリア姫は魔法具を愛していますから、魔法具の暴走に不安を感じているのでしょう。フォル様は、それに気づいていて、エンジェリア姫を安心させるためにも急ぎたいのでしょうね。
「そういえば、魔法具の暴走の原因って、故意的以外に何があるんだ? 」
「そうだねぇ……外部からの干渉だとすれば、影響力の強い魔法具からの妨害信号でも送られてきているとかかな。内部の問題は、今のような状況だとないけど、普通に故障が一番多いかな。これ、一応魔法具技師試験の出題範囲だから覚えておいて損はないよ」
一番最難関と呼ばれる回の魔法具技師試験のですね。合格さえすれば、かなり優遇される特別な試験。それでなければ、暴走原因など試験で出題されません。
「魔法具技師試験か……受けてはみたいんだよな。時期と場所が毎回変わって予告ないから受けられねぇけど」
「基本的に資格持ちが弟子に教えているからね。君もエレに聞いたら? 魔法具技師試験合格者で試験管の資格も持ち合わせているんだから知っていると思うよ」
エンジェリア姫が魔法具技師の資格所持者ではありますが……
「お前も持ってんだろ。つぅか、影響力の強い魔法具ってなんなんだ? 」
そうですよね。フォル様も資格持っています。フィル様もでしたか。
そう考えると、ゼーシェリオン様が試験時期を知らないのは不思議なものですが。
「うん。あの子とおんなじの持ってるよ。僕も満点合格者の一人だから。それで、影響力の強い魔法具だったよね。魔法具ではないけど、世界管理システムはそれに入るのかな。他にもいくつか思いつくけど、どれも有名な魔法具技師達の最高傑作と呼ばれるものかな。あの子やフィルは違うけど」
エンジェリア姫とフィル様は普通に作っても影響力の強い魔法具を作る事ができますからね。作らないだけで。
「……なら、それも今回の件の可能性としてはあるんだな。そっち調べれば良いだろ。人が干渉するなんてありえねぇような話なはずだから」
「両方調べているよ。人に関しては調べるのに人手がいるから頼んでいるだけ。魔法具に関してなら、一人で調べられるから」
「……ぷにゅぅ。フォルなの。らぶなの……」
エンジェリア姫が起きました。
「エレ、帰ろっか」
「うん。フォルらぶなの」
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星の音 一章 七話 海に囲まれた大陸