6話 歴史の古代魔法具
「だから言っただろ! こいつに転移魔法だけは使わせんなって! 」
「エレ、髪乾かしてあげる」
「えっ⁉︎ エンジェリアちゃん、そっちで着替えてたの⁉︎ 」
「いつもの事だよ。エレは気にした事ないから」
びしょ濡れのエンジェリア姫一行。原因はエンジェリア姫の転移魔法の失敗です。
エンジェリア姫が転移魔法を使って転移した場所は海の中でした。フォル様がすぐに転移魔法を使い目的地である孤児院の奥へ転移したため、濡れるだけで済みました。
「ふにゃぁ。エレは甘えっ子なのー。らぶだからー」
「……僕にしか甘えちゃだめ」
「……フォル以外には甘えないの」
「うん。僕以外に甘えないエレ大好き」
エンジェリア姫は、フォル様に抱きついています。
「……エレ、早く魔法具起動しろよー」
「ぷにゅ。起動するの。どこに当たるかは運次第だけど……できればエレは、甘いものがいっぱいで栄えている場所の方が良いの。甘いものがいっぱいで」
エンジェリア姫は、ルアン様の捜索以上にそっちに目が入ってしまいますよね。ですが、案外その方が良いのかもしれません。欲しい欲しいと思っていると手に入らないという事もあるのですから。
「んっと、エレがルアン様に会うのは確定として、そこがぷるぷる甘々系だと良いのって事で、魔法具の起動できそう」
という事ではなく、すでに自分の中では確定している事実のようです。
エンジェリア姫が魔法具を起動します。
エンジェリア姫一行は、魔法具の中に転移しました。
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エンジェリア姫が転移した先は、巨大な建造物が並んでいる場所です。
現在では見ない建造物ですが、エンジェリア姫には驚くものではないでしょう。
「……」
エンジェリア姫の周囲には誰もいません。皆様、別々の場所に転移したようです。
「……甘いものなさそう」
エンジェリア姫は残念そうに歩いています。
「……エンジェリア様⁉︎ なぜこんなところに」
「ぷにゃ⁉︎ やっぱりいたの。ルアン様、あの説はありがとうなの」
本物のルアン様です。空間に転移してすぐに出会う事ができました。
「いえ、フォル様にもエンジェリア様にも色々とお世話になっておりますから、あのくらいはさせてください。それより、大丈夫でしたか? 」
「うん。遅かったけど、ちゃんときてくれた。今はゼロがエレを助けてくれたから、エレはゼロのお供になっているの」
「そう、でしたか……楽しそう? ですね」
「うん。楽しい……ぷにゃ⁉︎ ゼロのお供なんだから、ゼロについていないと? でも、エレは……フォルが……にゃぁ」
ゼーシェリオン様の元へ行くのか、フォル様の元へ行くのか悩んでいるのでしょう。
「お悩みのエレなの」
「……好きな方へ行けば宜しいのでは? 」
「……エレはフォル気になっるけど、ゼロ心配だからゼロの方に行くの。でも、その前に、出口探さないと。出口ないとエレ達はここから出る事できないの」
空間の出口は、魔力を辿れば見つかるはずです。エンジェリア姫は、魔力を視る事ができるので、魔力を視て出口を探しています。
「……こっちなの。行こ、ルアン様」
エンジェリア姫は、ルアン様の手を握り、出口へ向かいました。
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「俺のエレ」
出口へ向かっている途中、誰かがエンジェリア姫を背後から抱きしめました。
「……ゼロ? 」
「うん。寂しかった。ここは危険だから一緒に帰ろ。俺が守るから」
「……誰? エレがお供してるゼロじゃないの。エレがお供してるゼロは、そんなふうに軽く守るなんて言わないの。それに、エレを独占しようとしながら、いつも妹だという認識が消えていない。そんな独占するような事言わない」
わざわざ説明する必要などないと思いますが、これはエンジェリア姫にとって必要な事なのでしょう。淡々と説明しています。
「……何言ってんだ? 俺はいつもの俺だよ」
「本物ならお供に突っ込むの。エレの記憶のゼロもお供に突っ込んでたの。そんなもんにした覚えないとか……という事は、この空間で少しだけ記憶と人格を……人格だけかも……」
正体を確定するためなのでしょうか。こんなふうに説明していたのは。これだけで何か分かるのは、さすがはエンジェリア姫です。
「魔法具の故障……暴走に一票なの」
「……エンジェリア様、魔法具見つけました」
エンジェリア姫の予想通り、原因は魔法具の暴走なのでしょう。
エンジェリア姫は、魔法具をルアン様から受け取り、暴走の原因を調べます。
「……直ったの」
暴走状態が収まると、幻蝶により生み出されていた幻覚、エンジェリア姫を抱きしめていたゼーシェリオン様が消えました。
「……ふにゅ。これで良いの。もうすぐ出口だからがんばる」
「……エンジェリア様、リゼ達も何かしらの魔法具の罠にかかっている可能性はあるんでしょうか? 」
「可能性ならあると思うの。こういうのだったら、互いを良く知っていれば大丈夫だと思うけど……何か弱みにつけ込まれれば……」
ゼーシェリオン様の事を心配しているのでしょう。過去の後悔に関わる事であれば、受け入れてしまうかもしれないと。
「……とりあえず、出口へ向かうの。考えるのはそのあとー」
「そうですね。ここで考えていても何もありませんから」
「そうなの。そういう事なの。だから、エレはとりあえず、出口を探してフォルとにゃむにゃむしてからゼロを探すの……って、そろそろ出口気がするのに」
出口は出口ですと書かれているわけではないので分かりにくいのでしょう。出口はここですが、エンジェリア姫でしたらきっと気づくでしょう。
「……向こうかな? でも……みゅぅ」
「……ここであっていると思います。魔力はここに集まっています」
「……ぷにゅ。それなら、ここでゲートらしきものを出すの。それでみんながどこにいるのか確認する」
エンジェリア姫は、魔力を通して他の空間のゲートを創り出します。
「多いの⁉︎ めちゃくちゃ多いの⁉︎ 」
空間の量を今知ったのでしょう。エンジェリア姫は、無数にあるのではないかと思われるゲートを見て驚いています。
「……これは……どうすれば……とりあえず、何か熱反応的な何かがある場所だけに絞らないと。そのあと、もっと詳しく見ていけば良い気がする」
エンジェリア姫は、誰かがいる空間だけに絞ります。
「熱じゃ分かりにくいから、普通に自然以外の魔力がある場所にしたの。これでリゼねぇも見つかる気がする」
「……あっ、これではないでしょうか」
「ふにゅ。なの。このゲートの中に手を入れれば転移できるの。早くリゼねぇのところ行ってあげて。出口から、外を繋げば出れるから」
ルアン様がリゼシーナ様のいる空間を見つけたようです。ルアン様が手をゲートに入れると、ゲートの中に転移しました。
『エレ、そっちも出口についたんだね』
「みゅにゃ⁉︎ フォルなの。エレのフォルなの。らぶなの」
エンジェリア姫はすぐにフォル様の声に反応しました。フォル様もエンジェリア姫と同じような方法で他空間へ干渉したのでしょう。
「ぷにゅ。ルアン様がリゼねぇのところ行ったの。エレは、ゼロお探し中」
『ゼロの居場所なら分かってる。その事で君に話しておきたくて』
「みゅ? 」
『ゼロに何かあったみたい。空間を繋げるよ。おんなじ場所に出れるとは限らないから。大人しくしとけとまでは言わないけど、気をつけて』
フォル様がエンジェリア姫のいる空間とゼーシェリオン様のいる空間と繋げました。ここに手を入れるだけで、空間には転移する事ができます。
「フォルも気をつけてなの」
『うん』
エンジェリア姫とフォル様は、同時にゼーシェリオン様のいる空間へ転移しました。
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星の音 一章 六話 歴史の古代魔法具