4話 魔物の罠
エンジェリア姫が寝ぼけながらも、リゼシーナ様のいるテントへ向かいました。
中に入ると、彼が起き上がっています。
「貴女が私を助けてくれたのですね。感謝します」
「……はい。はじめまして。私はエンジェリアと申します。その、ルアン様が王都で何があったのか、お聞きしてよろしいですか? 」
エンジェリア姫がお辞儀をしてそう言いました。最低限の作法はあの方に教わっていて、できるようですね。
「ええ……あの日は、朝から王都の見回りをしていました。我々は、王都に誰か来ていないか、まだ避難できていない者がいないか確かめるため、王都の見回りを定期的にしています。その王都の見回りの途中、透明な魔物が私を襲いました」
妙な話です。透明な魔物など、存在を確認されていません。透明だからこそ確認できないかもしれませんが、それでしたら他にも被害者がいて、透明な魔物がいるかもしれないと噂が出るはずです。
「その魔物に襲われる中、必死で逃げて、どうにか集落まで着きましたが、その日のうちに意識を失い今に至ると言う訳です」
エンジェリア姫がゼーシェリオン様を見ました。彼女もこの話はおかしいと思ったのでしょう。
「……時間は? 帰ろうとして魔物に襲われた時の時間はいつですか? 」
「夕刻……黄昏時くらいでしょうか? 」
黄昏時は魔物が最も活発となる時間。この時間に襲われる人は多いです。
「……あなたが誰か分かったよ。透明の魔物さん、その正体を見せたら? 」
「何を言っていられるのですか? 私は」
「そんなふうに誤魔化さなくても良いよ。もう分かっているから」
「……エンジェリアちゃん」
彼の身体が光出します。光が消えると、白い魔物の姿へ変貌しました。
「白い、魔物? 」
「変異種? とりあえず、空間魔法具なの! 」
エンジェリア姫が収納魔法から空間魔法具を取り出して、魔物と共に空間魔法具の中に入ります。リゼシーナ様を除いて。
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あたり一面の花畑。エンジェリア姫が大好きそうな景色です。
「知能があるみたいだから、先に聞いておくの。あなたはエレ達の敵? 多くの魔物と同じように、破壊を楽しむだけの存在なの? 」
「……魔物と人は決して愛入れぬ関係。そんな質問をする意図が分からなぬ」
「……そう。分かったよ」
エンジェリア姫、迷っているようですね。意思があり、話が通じる相手とは話し合いで済ませたいというのが姫ですから。
「エレ」
「大丈夫。全てを手に入れたいなんて、そんな事できないって分かってるから」
「そうだ。それが人と魔物のあるべき姿だ」
エンジェリアは、浄化魔法を使いました。魔物は浄化魔法が弱点。白い魔物も例外ではないようです。浄化魔法で浄化され消滅しました。
「……」
エンジェリア姫が宙を見ると、巨大な本が現れました。
「リプセグ⁉︎ どうして」
その巨大な本は魔原書リプセグ。私が彼女に力を貸すための媒体です。
魔原書リプセグが突然光出しました。
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薄暗く、狭い部屋の中、エンジェリア姫は一人でいます。その両手足には鎖が繋がれ、どこにも行く事ができません。
――ここって……
魔原書のおかげでしょうか。エンジェリア姫の内側が聞こえてきました。
エンジェリア姫は、魔法で声を奪われているため、喋る事もできません。
見上げると、天井に窓があります。窓から見る外は暗い。今は夜遅く。
――……廃教。なんでこんなところに。
エンジェリア姫がいるのは廃教の一室。ここにはエンジェリア姫以外は誰もいません。
下を見ると、一輪の花が咲いています。
――ぷにゅぷにゅなの。
エンジェリア姫が魔法で花を介してゼーシェリオン様達を探します。
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氷の大地。息を吐くと凍る極寒の地でゼーシェリオン様を見つけました。
――ゼロ、エレのゼロ……お話聞けなの。エレをお供にしたんだから気づけなの。
『……エレ? どうしたんだ? つぅか、どこにいるんだ? 』
ゼーシェリオン様が、凍っている花をから声を届けます。
――廃教。なんなんだろう。急にこんな場所に転移させられて。しかも、服とかも当時のものになってる。これって、リプセグの暴走、なのかな。
『あの魔原書は古代魔法具の中でも安定性が高いはずなんだが……原因を考えているくらいなら、脱出方法を考える方が先か。エレ、脱出方法って分かるのか? 』
――……紋章を使うよ。でも、エレにその記憶がなくなるから、ゼロがちゃんと聞いといてよ。
エンジェリア姫の左の瞳に花と星と蝶の聖星の紋章、浮かび上がります。
――……記憶を元にした空間。記憶にないもの。記憶と違うもの。ありはしない異物。魔原書の空間だから、魔原書があるはずだよ。それに触れて書き直せば、自由に空間の出入りができる。
エンジェリア姫の左の瞳から聖星の紋章が消えます。
――……分かった? エレはフォルを探さないとだから。フォルらぶだから。
そう言いながらもフォル様以外にも探してあげています。
――フィルなの。フィル、フィルー。らぶー、じゃなくてフィルー
フィル様の居場所は、何も見えませんね。暗い場所なのでしょう。
『エレ? ……喋れない? 大丈夫? 』
――うん。それは大丈夫……それより、ゼロと繋げるから、ゼロから脱出方聞いておいて。エレそろそろお疲れになってきているから急ぎ気味なの。ゼムも探してあげないとだから。
『……あとで迎え行く』
――うん。
エンジェリア姫、少し嬉しそうな表情をしています。迎えに行くというのが嬉しかったのでしょう。
四方八方に氷の壁。ここからは出られないと言いたくなるような場所にゼムレーグ様はいました。
――ゼム……ゼムー。
『エレ? ここ花あったんだ……一輪だけ』
――多分、フォルとフィルが繋いでくれているの。それより、ここから出られる? ……魔法……
『……大丈夫。ゼロは受け入れてくれる。嘘でも良いから、そう言って、くれる? 』
――……ゼロは、ゼムも魔法がだいすきだよ。ゼムが魔法を使って、かっこいい姿、だいすきなんだよ。だから、喜んでくれる。受け入れてくれる。
エンジェリア姫であれば、ゼーシェリオン様に直接言ってもらうという事もできたでしょう。それをしないのは、それを面と向かっていってほしいという願いでもあるのでしょう。
『……ありがとう』
――ゼロに繋げるから、脱出方を教えてもらって。エレはフォルを探すから。
枯れた植物。全壊した建物。フォル様のいる場所は、ギュリエンと呼ばれる場所。
――……フォル。
『……』
――フォル、聞こえる? エレなの。エレなの。フォルをらぶでフォルがらぶなエレなの。
『……エレ⁉︎ ……どうしたの? 』
――ここから出る方法ゼロに繋げて……
『……ごめん。心配させて。大丈夫だよ。教えて、ここから出る方法』
――……うん。
エンジェリア姫が全員を繋げました。全員を繋げた事で、魔力消費量が激しく疲れたのでしょう。
繋げたまま眠ってしまいました。
『エレ? エレー……えっ? まさか寝て……なわけはねぇよな? さすがに』
『……ありえるかも。エレがいる場所があそこなら、早く迎えにいかないと』
『……廃教。安らぎの聖女……ゼロ、ごめん。オレ、エレのためなら』
『使えば良いだろ。肩を並べられるようになってやるから……じゃなくて、なってんだから気にすんななのか? 俺がゼムと同等とは思えねぇが』
『そんな話良いから早く出ようよ。あの子の側にいたい。もう、あそこで泣かせたくなんてないから……出るの最後になった人は一日エレのお願い全部聞くって事で。こうすれば、やる気でるでしょ? 』
早く合流したいのは皆様変わらないのでしょう。そこに、より一層急がなければならない理由まで作って。
エンジェリア姫が寝ている間に、ゼーシェリオン様達は、魔原書を探すようです。
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星の音 一章 四話 魔物の罠