37話 困難な道
かつて栄えた王国。エンジェリア姫が、一人で本を読んでいるとその本にその王国が書かれていました。
「……アスティディア」
「エレ、どうかしたのか? 珍しく何か考えてそうな感じ」
「エレがなにも考えてないように言うななの。アスティディア王国。かつて栄えた御巫が建国した王国。ゼロも気にならない? 」
御巫が建国したというのに興味を持っているのでしょう。エンジェリア姫はゼーシェリオン様に期待に満ちた瞳を向けています。
「気にはなるな。アスティディアって世界管理システムの創設者が建国した国だろ? 」
「ふにゅ。だから余計に気になるの。だから行ってみようよ。フォルは忙しいから二人で。アスティディアは普通の王国だから安全だと思うの。行きたいの」
エンジェリア姫が行きたそうにしているからなのでしょう。ゼーシェリオン様が外へ出る準備をしています。
「……ぷにゅ」
「道中何かあった時のために魔法具をいくつか持っておくか。エレ、おすすめ」
「ふにゅ。エレのおすすめは浄化魔法具と結界魔法具と防御魔法具なの。とりあえず防御固めるのが良いと思うエレなの」
エンジェリア姫がゼーシェリオン様におすすめの魔法具を渡しています。
「エレが頼んでおいてあれだけど、本当に良いの? 勝手に行って」
「少しくらい良いだろ。その代わり、あまり遅くならねぇうちに帰るぞ。心配させるから」
「ふにゅ。早く行って早く帰るの」
ピクニック気分のエンジェリア姫とゼーシェリオン様が転移魔法でアスティディア周辺へ転移しました。
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目の前に広がる沼地。この沼地を渡る以外アスティディアに行く方法がないと書かれた看板。
エンジェリア姫が嫌そうにしています。
「……これ渡るの? やだよ? 」
「俺も」
エンジェリア姫とゼーシェリオン様が立ち止まっていると、一人の青年に声をかけられます。
「こんなところで立ち止まってどうしたんだ? 」
「ぷにゃ? ルーにぃなの。ぎゅむぎゅむ? なでなで? 」
フォル様の友人のイールグ様です。エンジェリア姫は、イールグ様に頭を撫でてもらっています。
「沼地行きたくない。入らずアスティディアに行く方法知りたい」
「あるにはあるが、一日くらい変わるぞ」
「沼地に入らない方法知りたい」
「魔法使えば良いだろう」
エンジェリア姫とゼーシェリオン様は浮遊魔法が苦手です。羽根で飛ぶのもエンジェリア姫が苦手なので、終わりが見えない沼地を抜けるのは困難でしょう。
エンジェリア姫が瞳に涙を溜めてイールグ様を見ています。
「……どちらか片方だ」
「ならエレで」
「エレにするの」
イールグ様がエンジェリア姫を抱っこして浮遊魔法を使います。ゼーシェリオン様は、自分で羽根を出して飛ぶ事にしたようです。
「ルーにぃ、ありがと。でも、どうしてこんな場所にいたの? 」
「アスティディアに帰るところだったんだ。たまには転移魔法を使わずに帰ろうかと思ったら二人がいた」
「そうだったんだな。俺らもアスティディアに行きたいから一緒に行って良いか? 」
「聞かなくても行って良い。だが、アスティディアに行くまでは危険地帯が多い。気をつけろ」
エンジェリア姫が泣きそうな表情を見せています。そんな危険な場所だとは思っていなかったのでしょう。
「俺も行きたいって思ってたんだ。そんな気にすんな」
「……ふにゅ」
「……エレ、下は見ないようにする事を勧める」
「みゅ? 分かったの。というか、これってどれくらいで沼地終わるの? エレは楽だから良いけど、ゼロとルーにぃがずっと飛んでないとなの」
エンジェリア姫が心配そうにしています。万が一ここで魔物に遭遇しないようにと防御魔法をかけています。
「この速さだと大体一時間くらいだろう」
「ふにゅぅ。フォルにしばらく帰れないかもだけどルーにぃ一緒だから心配しなくて良いって連絡入れておくの」
エンジェリア姫が連絡魔法具を取り出してフォル様にメッセージを送ります。
「ふにゅ。送ったの。ルーにぃが一緒だからフォルも心配しないと思う」
「……エレ、魔法具落とすなよ? 」
「落とさないの。エレは魔法具全てが大事なんだから落とすわけないの。念のためしまっておくけど」
エンジェリア姫は魔法具を落とす事はないでしょう。時々置いて忘れる事はありますが。
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沼地を飛ぶ事一時間。沼地を抜けて、エンジェリア姫達は休憩中です。
「疲れた。エレ、癒し」
「ふぇ⁉︎ 癒し魔法? 」
「ぎゅぅが癒し」
エンジェリア姫がここまで飛んできたゼーシェリオン様を癒すために抱きつきました。
「ルーにぃもお疲れ? エレの癒し必要? 」
「この程度で疲れない。癒しは……エレがしてくれるならもらおう」
「ぷにゅぅ。癒しなのー」
嬉しそうなエンジェリア姫がイールグ様に抱きつきます。
「次もまた大変な場所なの? どんな場所? 」
「正解の床を見極めて進む場所だな。正解の床は僅かな時間だが、模様が変わる。そこを見極めれば良い」
「ゼロが得意なの。ゼロ、エレをちゃんと案内するんだよ」
「……エレのためなら、案内がんばる」
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一休みしてからエンジェリア姫達はアスティディアを目指して歩みを再開しました。
「……下は見ないようにするの」
空中にある板を歩いていくようです。エンジェリア姫はゼーシェリオン様と手を繋いで、ゼーシェリオン様に正解の板を見極めてもらいます。
「……こっちだな」
一瞬だけ水玉模様が現れる板を、ゼーシェリオン様が的確に見抜いてエンジェリア姫を誘導しています。
エンジェリア姫は極力下を見ないようにしながらついて行っています。
「ルーにぃ速いの」
ゼーシェリオン様がエンジェリア姫の事を見ているからでしょう。イールグ様がすたすたと正解の板を渡っています。
「……焦らなくて良い。ここを抜けたら待ってるからゆっくり来い」
「ぷにゅぅ。ゼロ、ゆっくりで良いから安全にいくの」
「分かってる」
ゼーシェリオン様は自分のペースで進んでいます。
エンジェリア姫は周囲を見渡しました。
「……どうしてアスティディアの周辺がこんなふうになってるんだろう。ここって、安全な場所だって聞いた気がするんだけど」
「安全、か。アスティディアができたあとはそうだっただろうな」
「元々は違うの? 」
「……そうだな。ここはかつて、こんな国なんてなかった。アスティディアは一人の御巫候補が、この地に起きた災厄を乗り越えた先でできた国だ」
エンジェリア姫とゼーシェリオン様は覚えていないのでしょう。その災厄と呼ばれているものが何かというものを。
「……フォルはアスティディアの事をなにも話していないんだな。かつてここで起きた事もなにも」
「……」
「別に話していない事になんとも思っていない。むしろ、知らない方が良いだろう。変に気にする事になるよりはな」
「……エレは、気にしても知るべき事は知った方が良いと思うの。だから、フォルが話さないからを理由に、エレとゼロになにも言わないはなしなの」
フォル様が故意的に隠している事をイールグ様は話さない。エンジェリア姫はそれを理解していたのでしょう。
「……俺からはこれ以上詳しくは話せない。話してやりたいが、俺もあの件に関してはほとんど知らない。俺がきた時にはもう全て終わっていたんだ。だから、知りたければ御巫候補に聞け」
「……ふにゅ。それならそうするの。なら、尚更こんなところでもう帰りたいなんて思わずにアスティディアへいくの」
「……エレ? 」
あまりに面倒な場所ばかりで、もう帰りたくなってしまっていたのでしょう。
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星の音 最終章 一話 困難な道




