34話 謎空間
「またか。これで何件目? 謎の空間の目撃証言」
管理者の仕事でフォル様が大忙しです。とは言っても、エンジェリア姫とゼーシェリオン様から離れたくないからという理由で拠点に行ってはいませんが。
「……ふにゅ。エレも協力したいの……とりあえず、ロストニュース見ているけど、それらしいのない」
エンジェリア姫とゼーシェリオン様は、フォル様が忙しい原因でもある謎空間の目撃証言について、ロスト王家の皆様からの情報がないか調べています。
「……直接行く事ができれば良いんだけど、場所が定かじゃないから」
「ふにゅ。場所が分かれば良いの? エレががんばって調べるの。ゼロと一緒に」
「危ない事しないでよ」
フォル様がエンジェリア姫とゼーシェリオン様を心配しているようですが、エンジェリア姫は全く気にしていなさそうです。
ゼーシェリオン様を引き連れて、「ごー」と楽しそうに言っています。
「……あと遅くならないうちに帰ってきなよ」
「ふにゅ。フォル、そういえば、これ。リプセグの力をほんの少しだけ移した魔原初の複製。お話くらいならできると思うの」
管理者の拠点の外を訪れたあと、フォル様はエンジェリア姫に頼んでいたものです。自分達の行動を間近で見ても良いという事なのでしょう。
「ありがと」
「ふにゅ。ゼロ、いこ」
「ああ」
エンジェリア姫とゼーシェリオン様が、二人だけで謎空間のありかを探しに向かいました。
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強運といえば良いのでしょうか。謎空間の情報を探しに向かっていたはずですが、その謎空間の中に入ってしまいました。
「……ふにゅ? 」
それだけに止まらず、その謎空間で逸れて、エンジェリア姫はゼーシェリオン様を探しています。
「……気のせいなの……ふにゃ⁉︎ 」
「……エレ? 」
「みゃむみゃむ……おさなゼロ可愛い」
何かの魔法でしょうか。六歳くらいのゼーシェリオン様がエンジェリア姫を見ています。
「おさなゼロどうしたの? 可愛いしたいの? 」
「……だいすき。やっと会えた。俺がずっと守るから」
「ふぇ⁉︎ ……守る……幼い……むにゅ。信じられないの」
幼いゼーシェリオン様の事で何か気づいたのでしょう。
幼い頃に離れ離れになり、この言動。エンジェリア姫の記憶の中に、同じようなものがあります。
「……なんて名前だっけ? 神獣達のいる場所の近くにあった研究所。ここはそこなの? 」
「……知らない。俺は、エレと離れ離れになって……ずっと会いたかっただけ」
「……言えない? エレの事を守れなくなるから? 場所くらい知っても良いと思うの」
「……研究所。ずっとエレと一緒にここにいたんだ。なのに突然引き離されて……エレ、酷い事されなかった? 俺が守るから教えて? 」
エンジェリア姫も覚えているのでしょう。その時の事を。
ただ黙って幼いゼーシェリオン様を抱きしめます。
「……ごめん。ごめん」
「謝られても嬉しくないの。あの頃のエレでも、そう言っていたと思う。エレは、ゼロが全てだったから。ありがと、いつも守ってくれて。それと、ごめんね。あんなものを背負わせる事になって」
ギュリエンと呼ばれた場所の事でしょう。かつて起きた主宮襲撃の件にエンジェリア姫とゼーシェリオン様が関わっていた事は、本人達がフォル様とルーツエング様に話していました。
現在ではそれを気にしてはいないでしょう。ですが、ここにいた頃は別です。
「……俺こそごめん。エレが俺を助けるために協力したの知ってるから。俺が守るって言っていたのに……」
「ゼロは守ってくれてるの。今もずっと、エレの事守ってるの。エレのお世話もしてくれてる。一緒に寝てくれてる。エレ、ゼロに大切にされているの。だから、エレがお礼をいっぱい言わないとなんだよ」
「……うん。ありがと。大好き。エレ、俺と一緒に来てくれる? ここの秘密、教える」
幼くない方のゼーシェリオン様の事が気がかりではあるのでしょう。ですが、幼いゼーシェリオン様の秘密を知りたかったのか、ただ側にいてあげたかったのか。エンジェリア姫は幼いゼーシェリオン様についていきました。
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なにもない部屋。
エンジェリア姫がゼーシェリオン様と過ごした場所の一つです。あまり良い思い出はないとは思いますが、大切な人と一緒だったという事だけは確かなのでしょう。
「……懐かしいね。と言っても、エレだけだと思うけど」
「俺はずっとここにいたから、懐かしいはない……エレ、俺はずっとここでエレが来てくれるのを待ってたんだ。あの日、フォルが俺とエレを救ってくれた。あの日だけじゃない。ずっと、俺らを守ってくれていた。なのに、フォルは俺らのために……ごめん。異常現象から生まれた俺らはこれ以上話せない」
ここはフォル様の魔法による場所ですから、幼いゼーシェリオン様だけでなく、この空間そのものが他の誰かの意思が起こした異常現象なのでしょう。
幼いゼーシェリオン様は、その誰かの意思についても知っていそうですが、それを話せば空間が保てなくなるのでしょう。
「……エレは何を話しても良いの? 」
「ああ。エレはこの空間に関与していないから」
「……フォルはエレにゼロが持っているそれを渡されたくない。でも、ゼロはそうじゃない。それは、魔法の性質が引き起こした異常。エレとゼロの想いが重なり合って起きた奇跡とも言えるもの。であってる? 」
「……半分くらい。この間違いに関しては指摘して良いか。エレは自分の持つ能力を理解していないんだ。かつて星の御巫は癒しと奇跡の姫と呼ばれていた。エレにはその力が生まれつき備わっているんだ。それを無意識に使ってる」
フォル様の言っていた才に関する事でしょうか。星の御巫は未来と過去を視る御巫と呼ばれているのは存じていましたが、そのように呼ばれていた時代があったとは。
エンジェリア姫もそれを知らなそうにしています。幼いゼーシェリオン様はエンジェリア姫が生み出したものでありながらエンジェリア姫とは離されているのでしょう。
「……みゅ? 」
「エレでもここまでは理解できないか。いくら唯一姫の生まれ変わりであるとは言っても、全てを知るわけじゃないと……いや、唯一姫も非常事態にだけだったから、エレも変わらないか」
「……唯一姫? 唯一姫ってなに? 」
唯一姫。フォル様も言っていましたがエンジェリア姫には知られないようにと言っていました。これも、エンジェリア姫が思い出すまでは読めなくした方が良い内容でしょう。
「……知らないなら知らないままで良いよ。俺が言わないといけないのは、一つだけだから」
「みゅ? 」
「フォルに諦めさせないで。俺とのこの会話が全部忘れたとしても、フォルの事を救うために。エレにしか頼めないんだ。エレは奇跡を起こすような魔法を使えるから。今の状態じゃ、使えるか怪しいところだけど、一度なら可能性があるんだ」
エンジェリア姫には心当たりがないようできょとんとしていますが、幼いゼーシェリオン様は真剣です。
「……ふにゅ。良く分かんない事ばかりだけど、ゼロの頼みなの。それに、フォルのためならエレはがんばるの。その奇跡もきっとエレが見つけ出さないといけない事だから聞かないよ。ゼロはエレを信じていて」
「信じる。というか、俺はずっとエレを信じてる、これまでもこれからも。それに、エレは俺がついているから、安心して堂々としてろ。その方がエレらしく成功させるからな」
「ふにゅ。ゼロがついているの。ちょっとの失敗なんてゼロがどうにかしてくれるの」
安心しきったエンジェリア姫の表情が、どれだけゼーシェリオン様を信頼しているのか物語っています。
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星の音 四章 一話 謎空間




