33話 秘密の真実
エンジェリア姫とゼーシェリオン様が眠っている間に、フォル様が一人で管理者の拠点の外を訪れました。
そこは何もない場所。枯れ果てた大地が広がっています。
『これは』
「……似てるだろ? あそこに。ここは実験場だったんだ。ある実験が失敗した結果がこれ。僕らは、人がいないからというのと、この世界から実験の痕跡が外に出ないように監視している。その任務こそが管理者という組織が作られた理由だから」
管理者はギュゼルの後釜。このような秘密があったとは初耳です。
「……元々、管理者の仕事はこの場所の監視が主で、他はギュゼルの仕事を受け継ぐ形になるはずだったんだ。けど、実際にこの場所を調査するにつれて、現在の管理者達にはその任務は荷が重すぎるという事になった」
淡々と明かしてくれるこの話は、管理者の機密事項に当たる事でしょう。
現在の管理者はフォル様が迷われている神獣達を寄せ集めて作られた組織です。かつてのギュゼルの仲間であるルノ様以外はまともな教育すら受けていません。
『……ギュゼルの皆様でしたら、任せられたのですか? 』
「どうだろう。デューゼあたりなら任せられたかもしれない。ここは、何かあった時に個々の判断力と僕らで言う最低限の護身術が必要になってくるから。多分、普通に任せていただろうけど。僕らは、こういう任務を受ける事を初めから理解して、それで自ら望んでなった」
『覚悟の違いですか? 』
「ううん。そのために必要なものを全て習得していたかどうかの違いだ。あの子らは、管理者が居場所なんだ。僕が行き場所のないあの子らに与えた居場所。でも、ギュゼルは違う。ならなくても良い。わざわざ危険に身を投じる事なんてない。そんな中で、選んでくれたんだ」
それを理解していると納得するとでは話が違うのでしょう。しかも、自分の判断一つで変わっていた達知っているのであれば尚更。
「……それはあの二人もおんなじなのかな。他の道を選ぶ事だってできた。なのに僕なんかについてきて……好きになってくれて……分かってはいるんだ。あの子らの選択に任せるべきなんだって、でも……」
それはこれからやろうとしている事を言っているのでしょう。
何も知らずにいればエンジェリア姫とゼーシェリオン様は、ずっと笑って暮らせるようになるのでしょう。それが良い事かどうかはお二人が決める事ですが。
「……あれが実験で生まれた成れの果てだ。人の子で行われていなかったのが不幸中の幸いだろう。高度な自己再生機能を持つ生命体というべきか、魔法機械というべきか。元は魔法機械で実験により魔法機械である部分を失った」
それは大量にいて真っ黒い魔物とも見えますが、もやもやとした生物とは思えない姿をしています。
「これをあそこに近づけないようにするのも僕らの役目なんだ。と言っても、これを担うのは僕とフィル、それに事情を知っているルノだけ。さっきも言ったけど、他の管理者には荷が重いだろうからこの事を知らせてすらいないんだ」
今は再生中でしょうか。フォル様は元魔法機械を無視して進んでいます。
『どこへ向かわれているのですか? 』
「……あの子らでもここで魔力を戻す事ができないんだ。今向かっているのは、魔力を戻す事ができる場所。もう少しかかるから、知りたい事があるなら答えられる範囲で教えるよ」
フォル様がなぜ私にこのような事を教えてくださるのか分かりませんが、その理由に原初の樹というのがあるのは間違いないのでしょう。
『……私の本来の使命は一体なんでしょう。私も、本来の使命が別にあるという事くらいしか知りません。彼のお方と関係のあるあなた様でしたら何か知っているのではないでしょうか』
そう。私も何も知らない一人でした。ただ、自らの使命を忘れてエンジェリア姫を見守るだけの存在。それが私です。
「……まぁ良いか。多分、僕もこの会話は思えてないから教えても。原初の樹はあの子を守るためと世界の維持のために生み出した。そこに存在するだけでその役目は果たされている。もう一つ、世界の記述者としての役目も」
存在しているだけで果たす事のできる使命。だからこそ、我々は知らなくても問題なくいられたのでしょう。エンジェリア姫が特別だという事だけ覚えていれば。
「そろそろかな。他に聞きたい事はないの? 」
『……なぜ彼女なんですか? もっと能力の高いものはいくらでもいるでしょう。そんな中で、なぜこのような運命をあの子に背負わせるのですか? 』
「……いないよ。そんな相手。基礎能力とかを見ればいるかもしれない。そもそもあの子は防御魔法と結界魔法に優れているとでも思ってる? それはあの子の一部だよ。ほんとのあの子は……君は、唯一姫を知ってる? かつて神域にいたたった一人の姫」
私が生まれる前の話でしょう。そのような記録はありません。
「あの子はその姫の生まれ変わりだ。今は使えないけど、あの子にはその姫と同等の才がある」
『それだけですか? 』
「……初恋、だったんだと思う。あの子は、上位種様が大切な預かり物と言って押し付けてきた子で、初めのうちは面倒だとも思ったけど……あの子の大胆な行動が愛おしくて……愛らしくて……目を離せなくなったんだ」
それは嘘ではない。その発言も表情も全て嘘ではない。今までは、嘘ではないにでしょうとは思いつつ、本当にそうだろうかと疑いが多少はありました。
ですがこれは違います。その疑いすらありません。
「ああ、ここだよ。ここに魔力を注がない限り、元に戻る事がないんだ」
箱、ですね。中身は入っていません。
「……この中には魔力が入っているんだ。今は入ってないのは異常なだけ。それと、この中に魔力を入れられるのは僕とフィルだけ」
『生命魔法、ですか? 』
「うん。そうじゃないと悪用されるから。万が一の事態を招かないよう、僕とフィルで作った魔法具。すごいでしょ? 僕の兄は」
フォル様が箱に魔力を注ぐと、箱の中に魔力の塊が現れました。
この箱の中に魔力が入った事により、この世界に魔力が充満していきます。
「これで終了。リプセグ、さっきの話だけど、あれだけは教えないで。あの話は、自分で思い出せないなら思い出さない方が良いんだ」
『分かりました。あの話については、フォル様以外は見れないようにしておきます』
「ありがと……あの二人、まだ起きているとかないよね? 」
フォル様は、エンジェリア姫とゼーシェリオン様に部屋でゆっくりしてと言ったあとに来ているので、現在は夜遅くです。エンジェリア姫が寝ているような時間です。
ですが、エンジェリア姫はフォル様と一緒に寝たそうな表情を見せていました。
『寝ていない、でしょうね。あの寂しそうな表情を見る限りは。ゼーシェリオン様も一緒になって起きていると思われます』
「だよね。僕もそう思うよ。あの子、自分が寝る時間でも僕がいないと寂しいから寝ないとか言って起きてる時あるから。僕が帰ってくると速攻で寝るけど」
『そこが可愛いのではないのでしょうか? 』
「それはそうなんだけどね。行く時は寂しそうにして帰ったら嬉しそうに抱きついたまま寝る。あの反則級の可愛さが癖になるんだよね」
いつになく楽しそうにしています。エンジェリア姫には悪いとは思いますが、それに関しては完全同意ですね。
「まぁ、あまり遅くまで焦らすのも悪いというか、早く寝ろって思うから帰らないと」
『朝起きれなくなりますからね』
エンジェリア姫は昔からずっと朝が弱いので、起きられないのは良くある事ですが。
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星の音 三章 最終話 秘密の真実




