32話 成功魔法
精霊の国を訪れたエンジェリア姫達。
精霊の国も妖精の国と似たところがありますが、大きな違いがあるとすれば、ここが特殊空間だという事でしょう。
彼のお方が創られた特殊空間というだけあり、銀色に輝く蝶やエメラルドの美しい葉が茂る木々。宝石のような花々など、見るものを圧倒するような景色です。
「……相変わらず美しいの。でも、魔力がない」
「うん。エレ、頼める? 」
「ふにゅ。ゼロ」
エンジェリア姫とゼーシェリオン様は、妖精の国同様、両手を繋ぎます。
「星の音よ」
「月の華よ」
「その星の音に魔の音色と月の華合わさり、美しき旋律を奏でろ」
「その月の華に魔の華と星の音色合わさり、美しき華々を舞い散れ」
エンジェリア姫とゼーシェリオン様はまだ一番効果のある呪言を身に付けてないのでしょう。探り探りやって成功した時のような驚き方をしています。
「……ほんとに君らはいつも」
フォル様もこの成功の仕方は予想外だったのでしょう。手に取る事のできない魔力ですが、フォル様は別です。
自分から集めようとせずともその掌に魔力が集まっています。
「心地良い。自然に帰っているわけでもなく……これは、かつての神域と呼ばれる場所のようだ」
「ふにゅ? そんな場所があるの? 行ってみたいの」
「行けないよ。この世界には存在しない場所だから。この世界というか……この時代? でも、いつか行きたいね。みんなでそこで一緒に……」
なんでしょうか。どこか懐かしいものを見るような、ですが、それとも少し違うような、儚げな表情を見せています。
「ふにゅ。エレはフォルとらぶできてみんなと一緒ならどこでも良いけど」
「……そっか。僕もだよ。行ってはいみたいけど、君らと一緒にいるのに場所なんて関係ない。ただ、僕の隣で笑っていて欲しいんだ。泣かないで欲しいんだ。ただ、それだけなんだ」
エンジェリア姫とゼーシェリオン様がフォル様に抱きつきました。
「らぶなの。すき。一緒が良い」
「……らぶ」
ゼーシェリオン様は気恥ずかしそうです。
「魔力が戻ったから次の場所行くの? エレなぜかいつもよりも疲れてないからもう一箇所行く事できるよ。人間の国の方も調べる? 」
「そうだね。君らが大丈夫ならもう一箇所行こうか」
フォル様が転移魔法を使い、人間の国へ向かいました。
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人間の国は相変わらずの賑わいようです。しかも、他の種族と比べて魔力を使う事が少ないのでこの事態に気づいていない人がほとんどです。
エンジェリア姫達にとっては都合の良い事でしょう。
「早速やってみるの? 」
「だな。すぐ終わらせて遊ぼう」
「魔の音色を奏でろ」
「魔の華よ舞い散れ」
あまり効果を上げすぎない方が良いと判断したのでしょう。短縮してわざと効果を弱めているようです。
「ふにゅぅ。なぜかこっちの方が疲れる」
「不思議だな」
「ふにゅ」
「君らにあった方法じゃないんじゃない? 魔法の性質とか考えて」
フォル様がエンジェリア姫を抱っこしてあげています。疲れたエンジェリア姫をこれ以上歩かせないためでしょう。
「……ずるい」
「君は自分で歩いて。なんか買ってあげるから」
「……ずるくない……エレにあげる髪飾りを一緒に見て欲しい。俺一人だと毎回同じのばかりだから。ついでに服も。最近買ってあげられてないから」
エンジェリア姫は普段自分で何か買う事がありません。全てゼーシェリオン様かフォル様が選んでいます。昔は、フィル様がフォル様に頼んでついてきてもらいながら買っていました。
ゼーシェリオン様は、エンジェリア姫のものを自分が選んで、それを身に付けてもらうのが好きなようで、衣類に関してはほぼ全て一人で選んでいます。
「……みゅ? 」
「ああ、そういう事。良いよ。エレが今まで身に付けてこなかったのだと、清楚系とかかな」
「……エレには、可愛いが似合うから」
ゼーシェリオン様の好みの問題もあるのでしょう。エンジェリア姫の持っている服は全て、動きやすさと可愛らしさに全振りしています。
「エレはロングスカートとかが良いの」
「エレにはそんなのより可愛いフリフリミニワンピースが似合うから却下」
「……むすぅ。どうでも良いけど、ここの人達の様子をもう少し見るの。魔法多用している人達が何か言っているかもしれないから」
どうでも良くはないと思いますが、エンジェリア姫の中では、今は服に方が重要だったのでしょう。
「そうだね。エレに似合うものを探すついでに調べようか」
「……普通そっちがついでだろ」
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人間の国では貴族達の方が日常的に魔法を使用する傾向があります。そのせいでしょうか。貴族達の間では問題になっていたようです。
「ご覧ください。この新たな若樹が我々を救ってくださったのです! この樹は次代の原初の樹とも呼べる存在となりましょう! 」
フォル様の言っていた擬似的に原初の樹と世界管理システムを開発している組織の者達でしょう。エンジェリア姫とゼーシェリオン様が魔法で元に戻した魔力を、自分達の手柄のように語っています。
「……むすぅ。エレとゼロのがんばりのおかげなのに」
「俺はそれよりフォルの予想が当たっていた事について」
「それはいつもの事だから良いの」
「慣れだよ。管理者の仕事はそうじゃないとできないから」
フォル様が慣れているのは管理者関係ではないと思われますが、それもあるのでしょう。
「とにかく誤解を解く……のできないの」
エンジェリア姫の突然の人見知りで、フォル様の背に隠れています。
「……誤解を解く必要なんてないよ。誤解しているならそのままさせておけば良い。ってわけじゃないけど、主様に全部丸投げー」
「みゅ? 丸投げなの。という事はエレ達は今日はもうやる事ない。フォルとらぶするくらいしかやる事がない気がするの」
「そうなるね。というか、これで今回の件に関しては終了。管理者の拠点の外はやらなくて良いから。お疲れ様、二人とも」
管理者の拠点の外もやる予定だったからでしょう。エンジェリア姫が納得行かなそうな表情でフォル様を見ています。
「……あそこは、君らを連れて行く事はできないんだ。機密事項に当たるというのもあるけど、何が起きるか分からない危険地帯で、万が一の事がないとも言えないから」
管理者の拠点は、勝手に外に出れないような構造になっています。管理者の中でも極一部だけが外へ出る事を許されている危険地帯なので、フォル様でもエンジェリア姫とゼーシェリオン様を守れるとは限らないのでしょう。
というのが表向きな理由のようですが、あそこは我々も視る事のできぬ場所。その真実は知る事ができません。
「なら、これ持ってって。リプセグがエレの代わりに助けてくれるの。フォルは一人で行くんでしょ? エレ、心配だから、持っていって欲しいの。少しでもエレとゼロを安心させて? 」
「……ありがと」
エンジェリア姫がフォル様に魔原書を手渡しました。
「……リプセグ、管理者の、神獣の機密事項に触れる部分もこの子らに教えて良い。ここじゃなくて、この子らが帰ったあとで」
エンジェリア姫とゼーシェリオン様を信頼しての事でしょう。私に外の真実を見せる決心をしたのも、それをお二人に伝える事にしたのも。
「ゼロ、エレがお疲れなの。ここにきて抱っこしてたの止められたからお疲れって事で、次はゼロがエレを抱っこ」
「抱っこする前に転移魔法で帰れば良いだろ。そうすればふかふかベッドが待ってるぞ」
「ふかふかベッド」
早くふかふかベッドへダイブしたいエンジェリア姫のために、ゼーシェリオン様が転移魔法を使いました。
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星の音 三章 十六話 成功魔法




