31話 妖精
ゼーシェリオン様の気がかりも消えて、エンジェリア姫達は妖精の国を訪れました。
他では存在しない植物達が生い茂るこの場所は、どこか、私のいる場所と似ています。
「ふにゅぅ。なんだか初めての気がしないの。リプセグのいる場所がこんな感じだからなのかな」
「うん。そうだね。でもエレ、初めての気がしないからって一人で勝手にどっか行かないでよ。ここには危険な植物だって生えているんだ。しかも、他に場所では見ないような」
エンジェリア姫の植物に関する知識は素晴らしいですが、珍しい植物となるとまだ知らないものも多いでしょう。
興味深そうに見てはいますが、フォル様に言われて、近づいて触ろうとはしていません。
「……ここも魔力ないの」
「うん。でも、妖精なら、原初の樹の本来の役割までは知らなくても、これに関して関わりがないという事くらいは知っているはず」
「ふにゅ。とりあえず魔力を回復させるの」
エンジェリア姫はゼーシェリオン様と両手を繋ぎます。
「星の音よ」
「月の華よ」
「その音色を魔と変え、華と共に奏でろ」
「その華を魔と変え、音色と共に舞い散れ」
エンジェリア姫とゼーシェリオン様のかなりまともな呪言により、妖精の国中に魔力が循環します。
「フォル、どうだった? 今回は今までよりも真面目にやったの」
「可愛かった」
「ぷにゅぅ。ゼロ、妖精さん探し行くの」
「だな」
エンジェリア姫とゼーシェリオン様が妖精を探しに向かいます。
妖精は希少種なので、簡単には見つからないでしょうが、エンジェリア姫がいれば、なんとか見つけられるでしょう。
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ガゼボの中で一人、優雅にお茶をしている美しい女性がいます。
「……妖精さんなの」
「あら、お客様なんて珍しい。どこからいらしたの? こんな場所へ何の用? 」
その静かで落ち着きのある声は妖精ならではのものでしょう。
「……えっと、魔力が消えちゃったから生み出してきただけなの」
エンジェリア姫はゼーシェリオン様の背に隠れています。
「それは感謝いたします」
「……ずっとここに一人でいるの? 寂しくない? 」
「そんな感情は遠に忘れてしまいました。わたくしはずっとここにいる定め。一人になろうと」
そうは言っていますが、その表情からはどこか寂しげに見えます。
「……エレなの! 星の御巫候補の一人で、選ばれるためにがんばってるの! エレがお友達になるの! 」
唐突ですが、エンジェリア姫らしいです。寂しそうな彼女を放ってはおけなかったのでしょう。
「お友達、ですか。わたくしには必要のないものです」
「……妖精は他種族と二人で原初の樹を守っていると昔聞いた事があるけど、もう一人がいないのと関係あるの? 」
「お客様には関係ない事でしょう」
「……フォーリレアシェルス・エティンジェッド・ヴァーリディヴィア。妖精の女王の血筋であれば聞き覚えがあるはずだ」
「まさか⁉︎ あなたが⁉︎ 」
とても懐かしい名です。我々は決して口にしてはならない名。
「流石に、彼のお方に無礼を働くわけにはいきませんね。彼がいないのは転生して記憶を失ったからです。わたくしは、今の彼の名を知りません」
「性格とか、特徴とか何か知ってる事ないの? 転生なら、見つけ出せるかもしれないの。会う気はなかったとしても、無事を願っているなら教えて欲しいの」
「……感情を色で読み取れるとおっしゃってました。今は知りませんが、昔は、その色でしか人を見る事ができず、何度も喧嘩していました。ですが、彼がわたくしを大切に想う心は偽りのないものであり、わたくしも彼を想っておりました」
これだけでの特定は困難でしょう。ですが、エンジェリア姫達は互いに顔を見合わせて、答えを確認しあっています。
「そういえば、あいつは過去の事を話したがらなかったな。それに、出会った当初はあれだけに頼っていた。今はいろんな関わりのおかげで少しずつだが、頼らなくなってきてるが」
「ふにゅ。ロストのみんなと仲良くやっているの」
「……エレ、ゼロと二人で話に言ってくれる? 僕は少し彼女と話がしたい」
「任せるの」
エンジェリア姫とゼーシェリオン様が転移魔法を使い、ロスト王国へ向かいました。
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ロスト王国の王宮を訪れると、エンジェリア姫とゼーシェリオン様が探していた人物がいました。
「月夜」
「二人ともどうした? 」
「少しお話がしたいの。ここじゃなくて……ゼロのお部屋で」
迷わずゼーシェリオン様の部屋を選ぶのは理解できませんが、エンジェリア姫達は、ゼーシェリオン様の部屋で話をする事になりました。
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「……リミアは怒っていた? 」
エンジェリア姫が月夜様にここへきた経緯を話すと、月夜様は、少し聞きづらそうにしてそう言いました。
「ううん。怒ってないよ。それに、多分会いたいと思うの」
「多分じゃねぇよ。俺もお前と似たような事ができるから分かるが、あいつはお前と一緒にいたそうだった。それができずに心を閉ざしているって感じだったな」
ゼーシェリオン様はエンジェリア姫が気づいていない部分に気づいていたようです。
「……妖精の国の原初の樹を守る場所。リミアはまだそこにいる? 」
「ふにゅ。まだそこにいるの……月夜、後悔しないように動く事も大事だと思うの。誰かのためを想って動かないんじゃなく。たまには、エレの戯言と思って聞き流すんじゃなくて、行動してみるのも良いと思うよ? 自分勝手でも良いと思う」
エンジェリア姫も原初の樹を守る存在。彼女と似たようなものです。だからこそ、月夜様がやろうとしている事も、それを踏みとどまる理由も理解できるのでしょう。
諭すように言うエンジェリア姫の言葉で覚悟が決まったのでしょう。月夜様が転移魔法を使いました。
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「急にびっくりなの。一言くらい言えって思います」
「悪い。急ぎたくて」
「……うん。ちゃんと伝えるの。逃げないようにエレ達が見といてあげるから」
エンジェリア姫達は、再び彼女のいる場所へ向かいます。
今度は彼女の大切な人を連れて。
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ガゼボの中で、彼女はフォル様と会話をしています。
「リミア! 」
「まあ、どちら様でしょう? ……なんていじわるですね。お久しぶりです。ジェオ。彼のお方から伺いましたが、現在は月夜と呼ばれているそうですね。あなたにお似合いだと思います」
「リミア……色々と悪かった! それと、今から言う事に対しても! 俺と一緒にこの国を出よう! 」
これが、月夜様の言えなかった言葉です。
「……なりません。わたくしは」
「原初の樹を守る存在だから外へ出る事なんてできない? そんな事ないと思う。原初の樹は、普段言葉を交わさない。だから考えている事なんて知る事ができない。でもね、原初の樹は、自分を守ってくれる人の幸せを願ってるの。縛られる事は願ってないの」
「そんな事、分かるわけないでしょう」
「そうだね。原初の樹と言葉を交わせる人じゃないと分からないよ。だから分かるの。原初の樹が、あなたが大切な人と結ばれる事を願っているのが。ここにはたまにきて欲しいけど、縛られて欲しくない。世界を見て欲しいと思っているのが」
さすがと言うべきでしょう。それは、この場所に存在する原初の樹の想い。それを言葉にしたものです。
「なんで、そんなに堂々と言えるのですか」
「エレには、原初の樹の想いが聞こえるから。ありがとう、ずっと縛ってごめんなさいって言ってる」
「この子は原初の樹の代弁者とも言える存在だから、聞こえても不思議じゃないよ」
「……本当によろしいのですか? ここを離れて、彼と一緒にいても」
ぽたっぽたっと彼女の瞳から涙がこぼれ落ちます。エンジェリア姫はこくりと頷いて答えました。
「……月夜、わたくしをあなたのいる場所へ連れて行ってください」
「……う、うん」
「月夜、急にロストの気候がとか思い出すのやめようよ。エレも行けたんだから保温魔法でなんとかなるよ。ちゃんと連れ出してあげなよ」
月夜様の歯切れの悪い答えに、ゼーシェリオン様とフォル様が笑って、エンジェリア姫だけが突っ込みました。
「そんなに大変な気候なんですか? 」
「とっても寒いの。でも、保温魔法で大丈夫だと思うから」
「そうなのですね。月夜、もう一度言います。わたくしを連れて行ってください」
「うん」
今度はしっかりと答えました。
「妖精は彼女だけだから、ここはこれで完了っと。次は精霊の国だね。まぁ、今日は休むけど」
「ふにゅ。フォルとゼロと一緒にねむねむなの。それで、フォルにいっぱいご褒美もらうの」
「……エレ様、少しこちらへきてくださいますか? 」
エンジェリア姫が不思議そうに彼女の元へ行くと、彼女は小声で
「お互い頑張りましょう」
と言いました。
「ふにゅ。フォル、帰ってぎゅぅなの」
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星の音 三章 十五話 妖精




