30話 魔力消失
転移魔法で魔族の国の禁止指定魔法が使われた場所を訪れたエンジェリア姫達。
禁止指定魔法は、薄暗く、人気の少ない場所で使われたようです。
まだ魔法の使用跡が残っているようで、エンジェリア姫が解析しています。
「……ふにゅふにゅ。これは不思議な魔法なの……魔力を奪っているっていうわけじゃなさそう。でも、魔力が消えているのは事実なの……ゼロ召喚」
エンジェリア姫が頼るのはゼーシェリオン様のようです。ですが、ゼーシェリオン様は、突っ立ったまま動きません。
「……ゼロ召喚」
「……」
「……しゃぁーするの。そのあと泣くの。それから、ゼロの言う事何も聞かなくなるの」
「……エレ、ゼロいないよ? さっき急に魔法でそれっぽいの創ってどっか行った」
エンジェリア姫が瞳に涙をたっぷりと溜めてゼーシェリオン様を探しています。
「……ふぇ」
「……悪い! ちょっとそこで……用があって」
「ゼロー。どこ行ってたの? エレ寂しかったの。ゼロ急にいなくなるのやなの……また……」
ゼーシェリオン様が気まずそうにエンジェリア姫の頭を撫でています。
「用って、どうせエレに似合いそうなものでも見つけたから買ってきただけでしょ」
「……なんで知ってんだよ……エレ、これやるから泣くな」
「……やなの。ゼロがここでいなくなるのやなの」
ここでというのがエンジェリア姫には大きいのでしょう。
「……悪い」
「ふにゅ。それより、この魔法を解析するの……じゃなくてしたからどう思うか聞かせろなの」
エンジェリア姫が共有でゼーシェリオン様に魔法について伝えます。
「……これ本当に魔力吸収が目的なのか? それよりも別の目的が……この効果だと、どこかへ魔力を流すのは副産物で大地の破壊が目的と考えた方が良いかもしれねぇな」
「エレ的には……魔力が消えたのは、魔力が爆発しちゃったからなの」
「ソレハイジョウジタイダナー」
エンジェリア姫の考えにゼーシェリオン様が棒読みで答えています。
「……異常現象だけど、あり得ない話じゃない。エレ、もう少し解析してくれる? 」
「任せるの。フォルの頼みならがんばる」
エンジェリア姫がもう少し詳しく魔法の解析をしていきます。
「……ふにゅ。いくつかの魔法が組み合わさっているの。詳しく解析しないと分かんなかったけど、もしかしたらこの魔法の組み合わせで、本来はあり得ない現象を起こしているのかも。分かったのは魔力吸収と爆発」
「……本当にエレの考えがあってた」
「……フォル、エレじゃこれ以上はむずかしいの」
いくらゼーシェリオン様との共有があったとしても、使われてから時間が経っている上、複雑に絡み合う魔法の解析は難しいでしょう。
エンジェリア姫が申し訳なさそうにフォル様を頼ります。
「上的だよ。さすがは僕のお姫様。これの用途に関しても君が考えていたのでほとんど正解。魔力を爆発させて何をしようとしていたのかって部分まで分かったらぎゅしてあげるよ」
「ふぇ⁉︎ ……みゅぅ……爆発させて良い事なんて……良い事じゃなくて目的を考えないとなの……みゅにゃ⁉︎ 爆発させて、魔法を使えなくさせたの! 」
「それなら普通に消失させれば良いでしょ。多分、魔力を爆発させた事により混乱を招きたかったんだろう。魔力消失ならまだ前例がある。今回のような前例のない事態に陥って冷静に判断できる人は少ないだろうから」
エンジェリア姫がきょとんと首を傾げています。もっと詳しくと言わんばかりの目でフォル様を見ています。
「各地で混乱を招く事がこの魔法を使った理由。世界規模だとすれば、いくつか思い浮かぶけど、ここまでするとなると擬似的に世界管理システムと原初の樹を創り出そうとしていた連中かな」
「みゃ? そんな人達いるの? でも、どうしてそんな事するの? 」
「ほとんどの人は世界管理システムが世界を守り、原初の樹があるから魔力が循環していると思っている。これで混乱を招き、擬似的に創られた原初の樹が魔力を戻してくれたと言われれば真実を知らない人は信じるだろう」
原初の樹の本来の役割など、我々ですら半数以上が忘れています。それを知っている人の子は限られているでしょう。
「……原初の樹が魔力を戻したと思われるように早急になんとかすれば」
「そんな簡単な話じゃないよ。そもそも魔力消失の原因が原初の樹にあると思っているだろうから、そこからどうにかしないと。ただ真実を伝えただけで信じてくれるとは限らないから」
「……ぷにゅぅ。エレは、原初の樹の誤解を解きたいの。どうにかしてできないの? 」
原初の樹を大切に思うからこそ、この誤解を解きたいのでしょう。エンジェリア姫は、俯いてフォル様の手を握っています。
「……難しいとは思うけど、君の頼みだ。必ずとは約束できなくても、出来る限りの事はするよ」
「仕事だからじゃねぇのかよ」
「それもあるけど、エレの頼みの方が重要だよ」
フォル様がエンジェリア姫を優しく抱きしめています。
「……とりあえず、魔力を元に戻す事からだ……ゼロ、エレの代わりにいつものやってくれる? 僕、エレの慰めやらないといけないから」
エンジェリア姫を慰めるという理由にでしょうか。呆れた表情を見せるゼーシェリオン様。ですが、頼まれた事はやってくれるそうです。
「……魔の華よ、舞い散れ」
「……なんか、だんだん呪言短くなってない? 」
「なんでも良いの。最低限の決まりに則っていれば。エレもめんど……すぐに使えるように短縮に短縮を重ねて必要最低限しか言わないから。効果下がるけど」
今回のような場合は違いますが、エンジェリア姫とゼーシェリオン様がこの魔法を使う際には、急いで唱えなければならない事が多いため、長々と言えないのでしょう。
たとえ効果が弱くなったとしても、普通の魔法を使うよりかは効果がありますから。
目には見えませんが、周囲に魔力が生まれています。
エンジェリア姫が、手で魔力に触れようと一生懸命上下に振っています。
「……ぴぇ」
「うん。可愛いけど……可愛いけど、できないから」
「……これであとは原初の樹の誤解を解くだけだよな? どうするんだ? 」
「そこは主様に任せるよ。主様の影響力の高さとかあるけど、この前の事とかあって丸投げしとけばなんとかしてくれるだろうから」
まあ、適材適所と言いますから。フォル様の場合、面倒毎の押し付けにしか思えませんが。
エンジェリア姫はまだ魔力を手に取ろうとしています。
「……魔の音色よ、響け」
エンジェリア姫までかなりの短縮をしています。ゼーシェリオン様のと合わせて本来の効果くらいにはなっているのでしょう。
「魔力が戻っているの。これでみんなも魔法使える……お疲れだから今日は帰るの」
「うん。そうだね。あれを毎回使わないととなると、一日中に一箇所が限界か……ごめん、使うと疲れるって言っているような事を何度もやらせる事になって」
「フォルは気にする事ないの。エレは、フォルのためにがんばるだけなの。だから、フォルは……その……ご褒美にぎゅぅとかちゅぅとか……してくれて良いの」
して欲しくても、直接してとは言えなかったのでしょう。顔を真っ赤にしてフォル様を見つめています。
「うん。君が欲しいだけしてあげるよ。他にも色々。君が望むなら」
「ぴにゃ……フォルと一緒に……いっぱい考えておくの。とりあえずちゃんと休まないとだから、一緒にねむねむしたいの。ゼロも」
「よっしゃ。早く帰ろうぜ」
ゼーシェリオン様が嬉しそうに転移魔法を使いました。
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星の音 三章 十四話 魔力消失




