28話 天界
羽の生えた人達が白い街を歩いています。
ここは天界。天族達が暮らす場所です。
「久々に来たの。フォルのお仕事ってなんなの? お手伝いできる事ある? 邪魔はしないけど」
「そうだね……一緒に観光を楽しむとかかな」
「……ふにゅ。じゃあ、ゼロと遊んでる。ゼロ、ふわふわ飴買いいこ」
何もないと言われると思って、話を聞いていなかったのでしょう。エンジェリア姫は、ゼーシェリオン様を連れて、天界名物ふわふわ飴を買いに行こうとしています。
「エレは大人しくしているの。ゼロ、ふわふわ飴の次は、パンケーキとか、アイスとかが良いの。そのあとは」
「エレもゼロも一緒にいようね? 勝手にどっかに行かずに」
エンジェリア姫とゼーシェリオン様を放っておくと甘いものばかり食べ歩きしているからでしょう。フォル様が笑顔で言いました。
「ぷにゅぅ……というか、冗談抜きにエレはどっかで遊んでいた方が良いと思うの。フォルのお仕事邪魔しちゃうから。それに、エレと天界は合わないの」
「合わないってわけじゃないでしょ。君とゼロを二人っきりにしていたくないから一緒に行くよ。それと、連れて来て邪魔になるって思っていたんならここまで連れて来ていないから」
「……ふにゅ。ついていくの」
エンジェリア姫はフォル様の後ろでちょこんとついていきます。
「エレ、可愛くついていくのは良いけど、今回は君に色々と手伝ってもらうからそのつもりで」
「やなのって言いたいけど、フォルの頼みだからがんばるの」
フォル様の頼みであれば、いきたくない場所にもいきそうです。
「……エレ、いやならちゃんと言えよ」
「ゼロがいるから良いの。なんかあったら、ゼロの後ろ隠れてぷるぷるしてる。そうすればきっとゼロがエレを助けてくれるの。エレは悪い子じゃないんだって」
「エレの可愛さを三時間くらい説いてやる。エレはこういうところが可愛いんだって」
エンジェリア姫が欲しい言葉ではないと思いますが、それでも嬉しいのでしょう。ゼーシェリオン様から顔を逸らして喜んでいます。
「それにしても……なんというか……エレ見られてる気がする。どうして? 」
「君が甘いものばかり買わないようにの監視じゃないの? 下町のエレ人気はいまだに人気が高いから。下町以外でも、君がどれだけ天族のために動いていたか知っている人達には相変わらずの人気だけど。こっちでの人気は知っている人は少ないんじゃないかな」
表向きには裏切り者として知られているので、その人気が表に出ていないのでしょう。今も騒ぎにならないのは、人気だからこその配慮なのでしょう。
「……ゼロ派意外と多くない? この子の恋人僕だよ? 」
「恋人じゃなくて保護者に見られてると思う」
フォル様とフィル様が、わざわざここでは使われない精霊語を使って会話しています。
エンジェリア姫は何も気にしていませんが、天族達が密かに、エンジェリア姫がどちらの恋人になったのか予想しているようです。
手を繋いでいるという事もあってか、今のところゼーシェリオン様が優勢です。
「本当に遊んでいるだけなの。フォルのお仕事なんなの? 」
「一つは情報収集。これはこうして遊びながらの方が楽だから。もう一つはあとで教えるよ」
「ふにゅ。ゼロ、エレは後ろで隠れてるから、クレープとアイス買って」
ゼーシェリオン様を使えば買えるとでも思っているのでしょう。エンジェリア姫が、ゼーシェリオン様の背に隠れています。
「……情報収集の方はもう良いから」
「ふにゃ⁉︎ 」
「宮殿行くよ」
「ぷにゅぅぅ」
宮殿に行くのがいやなのでしょうか。買い物をできないのがいやなのでしょうか。エンジェリア姫がいやそうについていっています。
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白く厳かな雰囲気の宮殿です。エンジェリア姫にとっては、来たくない場所でしょう。
「……にゃぁ。エレはねこさんなの」
「こんな可愛いねこなんていないよ。なにかあっても君の事だけは僕が守ってあげるから行くよ」
「ふにゅぅ」
諦めたようにエンジェリア姫がフォル様についていきます。
「……誰に会いに行くの? 」
「原初の樹への入り口を開けてもらうだけだよ。権限さえ持っていれば誰でも良いんだ」
「エレでも? 」
「そういう事」
原初の樹。私の仲間とでもいうべきでしょうか。古来より世界を見守る存在です。
その樹は厳重に守られているので、行けるのは一握り。基本的に催事以外では、道が開きません。
「……まだ扉開けてくれるかな? というか、良く考えてみたらエレ以外開けられない気がするの。扉を開けるのは王だけだから」
「王だけじゃなくて君だけな気もしなくもないけど。開けてくれると思うよ」
「ふにゅ。それなら行くの」
エンジェリア姫にとって原初の樹は特別な存在であり我々にとってエンジェリア姫は特別な存在です。
どれだけ時が経とうとエンジェリア姫だけは扉を開ける権限があります。
「確かこっちにあった気がするの。早く行くの」
エンジェリア姫が急いで扉の制御室へ向かっています。急ぐ理由は、ばれたくないからでしょう。
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エンジェリア姫が扉を開けて宮殿の外へ出ようとすると、白を主としたシンプルでありながら高貴さが伝わる格好をした天族達が待っていました。
「……」
「お久しぶりです。姫君」
「……待ち伏せしてなんのつもり? エレを捕まえるの? 」
かなり警戒しています。ゼーシェリオン様の背に隠れています。
「そんなつもりはありません。我々はただ、あなた様に挨拶を」
「……原初の樹に頼まれたから? 」
「自らの意思です……姫君は本当に原初の樹の元へ向かわれるのですか? あそこには」
「止めてもむだなの。エレはフォルのお仕事のお手伝いするんだから。それに、天族の王として、やるべき事だから」
天界の原初の樹の道の中にはエンジェリア姫が天族達から裏切り者とされる事となった原因があります。
エンジェリア姫はゼーシェリオン様の背に隠れたまま少しだけ顔を出しました。
「……姫君、我々があなた様のためにできる事はないでしょうか? 微力でもあなた様の力になりたいのです」
「……ふにゅ。なら、エレのために大量にふわふわ飴とクレープを用意しておくの。ゼロのためにアイスも大量に用意しておくの……って言ってもやってくれないだろうから……ゼロにとっても綺麗なお花を見せてあげたいから調べておいて欲しいの。天界の綺麗なお花いっぱいの場所」
「天界にしか咲かねぇ花とかが良いな。エレが昔あまり詳しくなくて見れなかったから。今度こそ見たい」
宮殿にいるような天族達にとって、ゼーシェリオン様と接するのはかなり気まずいでしょう。もしかしたらエンジェリア姫以上に。
「やって言ったらエレが泣くから」
「言いませんよ。天界にしか咲かない花を必ずや見つけ出して参ります」
「ふにゅ。ついでに、天族は魔族と仲良くするって誓うの。かつて魔族の王が天族を救ってくれたように、天族も魔族がなにか困っていれば助けるって。お互いに助け合う関係なの……ふにゃ⁉︎ 精霊族ともなの。三種族は仲良し関係にあるの」
エンジェリア姫が天族の長であった時に叶えたかった願い。それが三種族が助けあう関係になるという事です。
エンジェリア姫の願いに天族達はもう裏切りはしないでしょう。
「という事で、フォル、早く行こ。ゼロにとっても綺麗な景色見せてあげたいの……天界も天族も、きらいだって思わせたくないの」
「思うわけねぇだろ。俺もあの時のそっちの事情はある程度知ってたからな。けど、楽しみにしてる」
「ふにゅ」
天界へきてからは、笑顔を見せたとしてもやや雲り気味のエンジェリア姫とゼーシェリオン様でしたが、その曇りが晴れた笑顔を見せてくれました。
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星の音 三章 十二話 天界




