23話 媒体
「ラーグ! 」
エンジェリア姫は、真っ白い獣の側へ駆け寄ります。
「……ひめ……なぜ……なぜ来るのじゃ」
「なぜって、エレにとって、みんなは大事な人達なんだから、助けに来て当然なの。エレがここから出してあげるの……ヴィー、どうすれば良いの? 」
「……これは、古代に滅んだ術の類と見える」
エンジェリア姫があからさまに驚いた時のポーズをとっています。
そして、そのあと瞳に涙をたっぷりと貯めています。
「……ぴぇ……エレにはどうにもできないの? 」
「……」
「エレができる事……エレも何かしてあげたいの」
「……危険を承知で言っても良いか? 」
ヴィー様もラーグ様もエンジェリア姫の安全が第一です。なので、危険と理解している場所に連れて行くのは躊躇われるのでしょう。
ですが、エンジェリア姫の悲しむ姿を見ていられなかったのでしょうか、ヴィー様が切り出しました。
「ヴィー! 」
「……ラーグ、良いの。エレはラーグのために何かしたいの。いつも助けてもらっているのはエレだから、こんな時くらいはエレに頼ってほしい。だから、止めないで? 」
そう言って、優しく微笑むエンジェリア姫だからこそ聖獣達も姫を寵愛して力を貸すのでしょう。
不安を隠すかのようにエンジェリア姫は両手を握っています。
「……この類の術には恐らく媒体がある。その媒体を破壊すれば術は解かれる。ただ、その媒体を見つけるのと破壊するのが困難という事。それに、道中の安全すら確保できない。そんな中でも、本気で行こうと思うのか? 」
「思うの。どんなに危険でも、エレはラーグのためにそこに行くの! 場所わかんなくても、エレがなんとかするから」
「……その想いは姫の美点じゃ。じゃが、一人でそんな危険な事をするのは賛成できん。その気持ちだけで十分幸せじゃ。じゃから、諦めとくれ」
エンジェリア姫の聖獣であればこれが正しい判断なのでしょう。ですが、エンジェリア姫のみならず、ヴィー様もラーグ様も、これで良いとは思っていない様子です。
「……やなの。エレはとってもわがままなの! 絶対にラーグを助ける! 」
「じゃが」
「それなら僕が一緒にいれば良い? この子一人守るくらいはできるけど、それで満足してくれるかな? 」
相変わらず神出鬼没です。いつから聞いていたのかも、どこにいたのかも不明です。
「フォル、どうして」
「どうしてって、僕は君の監視も仕事の一つなんだ。今回の件は禁止指定魔法に該当する。そんな場所に君一人で行かせられると思う? 」
「……ぷにゅぅ……で、でも……エレが」
エンジェリア姫はフォル様にバレる前に解決しようとしていたからでしょう。悲しそうにしています。
「君一人でどうにかできると本気で思ってんの? 」
「……それは……思ってないの。だからヴィーの手助けを期待していたの……バレないようにしようと思ってたのに……でも、バレたなら諦めるの」
バレたからというより、フォル様が隠れて監視していたのを、自ら明かして姿を見せたという事が理由でしょう。
「エレじゃ、どうにもできないんでしょ? だから、お手伝いして。どうしてもラーグを助けたいの」
「うん。君の大事な聖獣を見捨てる事なんてしないよ。でも、一日だけ待ってほしい。媒体の場所を見つけるから」
「ふぇ⁉︎ い、一日⁉︎ 」
エンジェリア姫が驚くのも無理はないでしょう。どこにあるかの手がかりは全くない媒体をたった一日で見つけると言っているのですから。
「……できるの? 」
「当然だよ。今回は仕事だ。管理者の設備をとことん利用してやれば一日どころか一時間で見つけられるだろうね。流石に通常業務を厳かにしてこっちにだけ使う事はできないから、最低限しか使わないけど」
「……一日が長いみたいに言ってるのが理解できないエレなの」
それはエンジェリア姫だけではありません。全く手掛かりがないのであれば、十日はかかると思っておいた方が良いのですが、フォル様にはそれが通じないでしょう。
「……とりあえず、今日はここにいる? ラーグと一緒にいてあげたいんでしょ? 」
「ふにゅ……フォルも……ぷにゅ……エレが頼んでいるのに邪魔しないの! 」
「……ちなみに、君がそれを我慢してくれれば、一日じゃなくて五時間で終わらせてあげる。五時間離れるか、一日ここで待つかどっちが良い? 」
まさかのエンジェリア姫が一緒にいたいと言う前提の一日です。エンジェリア姫は離れたくないのでしょうが、ラーグ様を早く助けたいというのもあるのでしょう。
かなり迷っているようです。
「……一日で姫と一緒にいてくれ」
「了解。フィルがいてくれれば半分くらいの時間で終わるんだけど、フィルは別件で連絡できないんだ。だから、ごめん。もうあと一日はこの状態にして」
「ぷにゅ? エレが代わりはできないの? その魔法機械で調べるんならエレもできるかもなの」
フォル様は魔法機械を起動させています。
「管理者の持つ世界監視用システムを使って探すから君に扱わせる事はできないよ。ゼロがいれば良いけど、これの膨大な情報量を君が処理できるとは思えないから」
「……ぷにゅ。でも、何もせずに待ってるのはやなの。少しでも良いからお手伝いしたい」
「君はラーグと話していれば良いよ。こっちでできる事はないから。もし手伝える事ができたら言うよ」
エンジェリア姫が落ち込まないように言い方を考えたのでしょう。
エンジェリア姫は、フォル様に頼られていると思ったのか喜んでいます。
「ヴィー、奥に行かないように見といて」
「姫もそのくらいは分かっているだろう」
「分かっているの。自分から危ない事はできるだけしないようにしてるの」
できるだけの部分にどこまで含まれているのかというもは疑問ですが、今フォル様達の目の届かないところへ行って危険な目に遭うかもしれない。これについては、大丈夫と考えて良いのでしょう。
何か興味が引くようなものがあったとしても。
「……みゅ? フォル、奥から変な感じがするの。ぎゅぅって感じ。怖くて、引き寄せられそうで……良く分かんないの」
「何かあるのかもしれないね。確認してみるよ」
フォル様が魔法機械をしまい奥を確認しに行こうとすると、エンジェリア姫が不安そうにフォル様の手を掴みました。
「エレも一緒に行く」
「……分かった。側から離れないでよ」
「うん」
フォル様がいないと不安なのでしょう。エンジェリア姫は、フォル様と一緒に奥を確認しに行きました。
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「ここに媒体があれば楽だけど、それやるようなば……」
「……エレは意外とありだと思うの。近くだからこそ気づかれないっていうのがあるかもしれないから。でも、普通はそうでも、エレの聖獣って知っていればそれはやらない気がするけど。本当に助けさせないようにしてるなら」
エンジェリア姫であれば、先ほどのように感覚で気づく可能性が高いです。それを知っているのであればと考えてしまうのは当然でしょう。
聖獣を狙うという事は、エンジェリア姫を危険に晒す行為であるというのは、聖獣を知っていれば誰でも知っている事ですから。
「……分かんないの。でも、分かるのは」
いかにもここに何かありますよと言いたげな怪しい扉。エンジェリア姫はなんとも言えないような顔でじっと見ています。
「……うん。あたりだね。手間が省けて良かったよ。相手があ……君の習性を知らない相手だった事を願うばかりだけど。こんな場所に媒体を置くくらいだからそうなんだろうけど」
「ふにゅ」
扉を開けると、媒体となっているものでしょうか。巨大な氷ようなものが置かれています。
「これ壊せば良いの? 」
「うん……これほんとに相手があ、りえないくらい何も考えてないか、罠かのどちらかだよ。まぁ、こんなお粗末なもん作ってる時点で罠なわけないんだけどさ」
「ここで前者だったらエレは喜ぶの……むにゅ」
フォル様は媒体のあるここへくる前から気づいてたのでしょう。エンジェリア姫が奥に何かあると言った時点で。
それをエンジェリア姫も気づいたようです。
「少しでも隙を見せればその程度だと思ってほっといて誰かに任せようかとの思ったけど、これは無理そうだ」
「でも、様子見みたいな感じなの。ほっとけば良いと思います」
「そうだね。さっさと媒体壊して帰ろうか」
「そうするの」
敵と見られる相手は姿を現す事はありません。フォル様が媒体を破壊して、そのままラーグ様の元へ帰りました。
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星の音 三章 七話 媒体




