22話 エレとヴィー
ゼーシェリオン様はアゼグ様と朝食作り。フォル様はルーツエング様に報告。
エンジェリア姫は部屋で一人です。
「……ヴィー」
「珍しいな。いつもはヴィー様と呼ぶのに」
「こう呼ばないとヴィーは、エレの騎士として出てきてくれないでしょ? 」
朱色の髪の厳かな雰囲気の青年。彼は、現在はエンジェリア姫の騎士であり聖獣です。
「……暇なの。とっても暇だから相手しろなの」
「ギュレーヴォの弟と喧嘩したか? 」
「お仕事忙しいだけなの。エレが、わがまま言っちゃだめだから、だから、一人で解決するの」
記憶がある程度戻った今だからこそ、やらなければいけない事があるのでしょう。ですが、ゼーシェリオン様とフォル様を巻き込めない。そんな感じでしょうね。
「……ラーグか? 」
「ふにゅ。ラーグもヴィーと同じでエレの聖獣なの。だから、どこかで一人で困っているんならエレがお迎えに行ってあげないと。どこかで一人で悩んでいるなら、エレが助けてあげないと」
エンジェリア姫は、聖獣と契約してその力を借りているのですが、転生の影響なのでしょうか。エンジェリア姫の元には、かつての聖獣達はほとんどいません。
「……ヴィーは一緒にいてくれる? エレのお手伝いしてくれる? 」
「それが姫の騎士になるという事。あの日から、姫のために剣を取ると決めている」
「相変わらずお堅いの。そういう事だから、今からこっそりと行くの。場所は分かっているから」
エンジェリア姫は、一度契約しているラーグ様の居場所を感じ取る事ができるのでしょう。
「……えっと」
「同じ契約者を持つ聖獣。場所は分かる。だが、本当に良いのか? 黙っていって」
「良いの。転移魔法お願い」
ヴィー様が転移魔法を使いましたが、エンジェリア姫が、黙って行く事には迷っている様子でした。
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底が見えない巨大な穴。周囲は木々で囲まれています。
「この中にいるので間違いなさそうなの……間違いであって欲しかったのに」
エンジェリア姫は穴の中に入るのを躊躇っています。
透明な道は魔法車の中では、景色が勝っていましたが、ただ暗く下が続いているこの場所はむりなのでしょう。
「ラーグのためなの。エレががんばらないと」
意を決して、エンジェリア姫は穴の中に飛び込みました。
「……ぴにゃん。がんばるの」
地面が見えないというのは、エンジェリア姫に余計な恐怖心を与えているのでしょう。ですが、もう飛び降りた後、今更引き返す事などできないのでしょう。
「ヴィー、これ落ちた時どうするの? 」
「浮遊魔法でゆっくり着地が一番楽だろうが、姫の場合は風魔法とかで着地の衝撃をなくすのを勧める」
「ふみゅ? 風魔法? 分かったの」
エンジェリア姫も無策でここへきているわけではありません。基本的な魔法は全て使えるように準備してからきています。
着地する前に風魔法を使えるよう、特殊な魔法杖を取り出しました。
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着地寸前で魔法杖の効果を使い、風魔法を発動しました。
「ぷにゅ。ちゃんと着地できたの」
「ところで姫、魔法杖の二種類について説明はできるのか? 最近勉学に勤しんでいる姿を度々目にしてる。少し俺からも試させてもらおうかと」
「当然なの。ヴィーがエレの賢さにびっくり腰抜かしちゃうの。魔法杖は大きく二つの種類に分類されるの。一つは媒体専用の魔法杖。こっちは、媒体として優秀で、自分で使う魔法のお助けになるの。楽なの。もう一つは、媒体としては前者よりは劣るけど、魔法杖に特殊な魔法が込められているの。その魔法を魔力を与えて発動すれば使えるの」
得意げに言うエンジェリア姫。序盤はまるで教科書でも読んでいるかのような感じでしたが、後半になるに連れてエンジェリア姫らしさがどんどん出てきた説明です。
補足として、後者の魔法杖の方は、相性があるので、手にすれば全ての人が全て使えるというわけではありません。
エンジェリア姫は全ての魔法杖の効果を引き出せるので、それについては気にした事がないかもしれませんが。
「ちなみに今回は全属性持ってきているの。とっても便利だけど……いちいち出し入れするのが面倒だって気づいたの」
「だが、姫は全属性扱えぬわけだ。それは必要な事だと思うが? 」
「それはそうだけど……ヴィーがいれば良いと思ってしまうエレなの。そんなに頼ってばかりいないと思うけど」
エンジェリア姫の強みは支援ですから、ヴィー様に頼りがちになるのは仕方がない事だとは思います。ですが、エンジェリア姫はそれを不服そうにしています。
「……ラーグいないの……ヴィー、ヴィーならどこにいるのか分かるんじゃないの? 」
暗い場所で何も見えない中、エンジェリア姫は手探りで壁を探して歩いています。
「ここは壁なの。行き止まり……」
「姫、前にばかり気を取られていると転ぶ」
「転ばないの。エレは意外としっかりしているから大丈夫なの。そんな心配しなくても平気だって見せてやるもん……というか、光魔法使えば良いだけだった」
エンジェリア姫は光魔法具を取り出しました。
光魔法具を中心にあたりが明るくなります。
「魔法具は魔法杖の効果を応用して作られたらしいけど、魔法杖を作った人はどうやって作ったんだろう」
「興味があるのか? 」
「うん。魔法の事だから興味ある」
魔法杖が作られたのは歴史に載っていないません。調べる術もないので、知っている人物は本当にごく一部なのでしょう。
「きっと天才なんだと思うの。エレの憧れ。そういえば、ノーヴェイズって魔法具技師の人知ってる? 」
「確か、世界管理システムの設計と制作をした人物だったか」
世界管理システムはその当時の技術では到底不可能とされているものです。
世界管理システムの制作者については、名前だけしか書かれていません。他の魔法具の設計図とかは入手する方法があるのですが。
「何も情報ないけど、エレの憧れなの!フォルにお誕生日のプレゼントに設計図をもらうくらい憧れ。きっととっても優しくて、繊細な部分があって、でも、意外と不真面目な部分もあって、集中力が高くて、研究熱心な人なんだと思うの」
ノーヴェイズ様の設計図が本当に好きなのでしょう。それを思わせる表情を見せています。
それにしても、一流の魔法具技師は魔法具と設計図を見ただけでその人の性格とかが分かるとは聞きますが、ここまで多くの事を設計図だけで想像できるとは。
「それに、それに、エレよりも少しだけ年上で、頭が良くて、お勉強とってもできると思うの。魔法なんて知らない場所から来ているのに、熱心に魔法をお勉強して、いろんな知識を使って魔法具を作っていると思うの。魔法具の制作中は徹夜が多そう。きっとエレみたいにお世話してくれる人がいるんだろうね」
見てきたかのように語っていますが、エンジェリア姫に彼の記憶などないはずです。記憶がないうえに、会って話した事すらないので、本当に魔法具だけでそれを感じ取っているのでしょう。
「……魔法具技師の相方もその特技を持っているのか? 」
「フィルはもっとすごいの。魔法具と設計図を見ただけで、年齢とか外見とかまであてるの。流石のエレもあれにはまだ届いてない。いつかはそうなりたいけど。エレもまだ魔法具技師として半人前以下なの」
「……魔法具技師とは? 魔法具を作るものを指す言葉では無いのか? 」
そうなるのも分かります。
「ふにゃ⁉︎ ヴィー、あそこにいる気がするの! 」
「いる気がするの? いるの間違いでは? 」
儀式場か何かでしょう。円型の場所に、真っ白い獣が眠っています。
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星の音 三章 六話 エレとヴィー




