21話 ロスト王家の菓子売り
一袋百枚、一枚百ビジュ。エンジェリア姫は、一つ一つ袋に入れ、百枚になるとまとめて袋に入れる作業をしています。
初めは手伝ってもらえましたが、二回目以降は、皆様売りに行っているため一人でやる必要があります。
「エレ、終わったからもう十袋もらえる? 」
「ふにゅ。フォルだけ早すぎて追いつかないの」
「手伝おうか? 」
「やなの。フォル優勝を応援隊だから」
フォル様は一度に持っていく量が多いうえに、完売して新しく入荷するのも早く、優勝間違いなしでしょう。
エンジェリア姫は、十袋フォル様に渡し、売上金をフォル様用の箱型魔法具に入れてもらいました。
「それ便利だね。数えなくて良くて」
「ふにゅ。便利なの……フォル、これ、アゼグにぃに教えてもらって作ったお弁当。お暇な時にでも」
アゼグ様とリーミュナ様、ルーツエング様もこちらへきています。売り子ではありませんが、掃除や料理といった事を手伝ってくださっています。
ルーツエング様は、仕事が忙しいため、何かあった時の護衛のためにここにいるようですが。
「がんばってね」
「うん」
「……エレ、フォルが優勝したら、ほっぺにちゅってするの。フォルだけご褒美はないって不公平だから、エレがご褒美あげる」
頬を赤く染めて、フォル様を見つめています。
エンジェリア姫の発言が意外だったのでしょうか。少しの沈黙の後、フォル様が口を開きました。
「それならこっちの方がご褒美感あって良いんだけど。恋人感もあるかな」
フォル様が人差し指でエンジェリア姫の唇に触れました。要求はこちらのようです。
「恋人感……ふぇ……が、がんばるの。だ、だから、フォルもがんばれなの! 」
フォル様が喜ぶためならという感じでしょうか。エンジェリア姫は、胸の横で両手で拳を作り、真っ赤な顔でいます。
「うん。がんばるよ」
柔らかい笑みを浮かべるフォル様。
これが偽りではないと信じて良いのでしょう。
「エレ、俺も終わったから、五十袋くらいほしい」
「やなの! 」
タイミングが悪かったのでしょう。ゼーシェリオン様が売り終わってきたのが。
エンジェリア姫は、そそくさと完売と書いた紙を机に貼り付けています。
「ふっふにゅ」
「……なぁ、なんでこんなに機嫌悪いんだ? 」
「君が空気読まずにきたからじゃない? それか、エレ的にはゼロに勝ってほしくないから」
「両方なの。ゼロのくる早さが想像以上に早いの。あと、二人が早すぎて生産追いつかないの。少し考えてほしいと思っているエレです……じぃー」
机の上には五十袋も置いてありませんね。純ロスト王家は十人以上いるので、エンジェリア姫一人では対応しきれないのでしょう。
「え、エレちゃん、私達も手伝うよ。掃除とかは終わったから」
「らぶなの。らぶエレなの。ゼロ、少しだけ待ってて。すぐに用意するから」
リーミュナ様とアゼグ様が手伝いに来てくれました。エンジェリア姫は、バイトのお二人と一緒に生産量を上げて急いで袋詰めしていきます。
「バイト代はお菓子なの」
「ありがとう。バイト代だからお礼ってわけじゃないけど、ケーキ作ろうと思うけど、フルーツタルト? 」
「ふにゅ」
アゼグ様はここの皆様の自主的に作っているくらい料理は得意なようです。ロスト王家の皆様は料理得意率が多い気がします。
ゼーシェリオン様やルーヴェレナ様も得意と聞くので。
話しながらでも、手も動かしているので、五十袋完成しました。
「ゼロ、これ。売上金ちゃんと入れていってよ」
「お前が袋詰めしてる間に入れた。ありがとな。がんばってくる」
「ゼロはほどほどで良いのー」
フォル様に勝ってほしいという素直なエンジェリア姫は、笑顔でそう言っています。
「エレが応援してくれない」
「早く行くの。目標金額稼ぐまでは毎日寂しい時間続くんだから、早く終わらせてエレと一緒にふにゅふにゅすごせなの」
エンジェリア姫に促され、ゼーシェリオン様とフォル様はお菓子を売りに向かわれました。
「……ぷしゅぅ。リミュねぇ、恋人って何なの? アゼグにぃとリミュねぇって恋人なんでしょ? 」
「違うよー。アゼグは私にいまだに勝てないから恋人ではないよ」
リーミュナ様の種族は、女性は恋人や結婚相手は自分より強い相手でなくてはならないという掟があります。
リーミュナ様は、同年代だけでなく、種の中で挑まれた相手には負けた事がないようなので、アゼグ様には難しかったのでしょう。
「……戦闘種族が理由に実らない恋なの。エレはアゼグにぃを応援します。フォルにもっと恋人っぽい事やりたかったのに分かんないの」
「えぇっと、デートした帰りに、手を繋いで愛を囁くとか? 」
「……エレにはちょっと早いみたいなの。エレはエレができる範囲でがんばる事にするの」
フォル様もエンジェリア姫ができる範囲でやっているので、エンジェリア姫はそれで良いのでしょう。
フォル様がの事を考えているようですが、手はずっと動いています。作業の事を考えずにやっているというのに、むしろ、今まで以上に早いです。
「……ふにゃ⁉︎ 大問題発生。なぜか、二百袋達成してる」
エンジェリア姫がほぼ一人でやっていたのですが、やはり無意識だったのでしょう。
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目標金額達成にかかったのは三日間です。
王家の皆様を噴水前に集めて、エンジェリア姫による売上金発表です。
「ぷにゅ。それでは売上金一位の発表です。なんと、なんと、売上金一位の座に輝いたのは、なんとー、なんとー……まだ? 」
「できたよ。エレちゃんの予想通り」
「ふにゅ。優勝はフォルなの……じゃなかった……その……エレの……フォル、なの」
エンジェリア姫が恥ずかしそうに発表しました。そして、フォル様の前に行き、唇を重ねます。
「……ご褒美」
「ありがと。僕が優勝って事は、明日一日神獣式訓練を行うって事で良いね? 了承したのはそっちなんだから、誰も逃げ出さないよね? 」
神獣達ですら脱走者が後を経たないような訓練です。フォル様は笑顔で聞いています。
「……フォル、エレはとっても寂しかったの。だから、だから……今日は一緒にねむねむさんしたい。ゼロを抱き枕にして」
ゼーシェリオン様と一緒に寝るのは当然のようですね。エンジェリア姫は、フォル様の手に触れて、不安そうにしています。
「うん。良いよ。というか、仕事がない時なら毎日でも寝てあげる」
「ぷにゅぅ。すきなのー」
エンジェリア姫がフォル様に抱きつきました。
「ああ、それと、君らがこの国と同じ志しを持つ仲間をほんとに大切にしている事は知ってる。だから、僕が守るよ。この国で自らの欲を満たそうと支配する輩から」
「……エレも守るの! エレはこの国のしょぉちょぉなんだから、この国を悪い人達のすき勝手になんかさせないの! 」
エンジェリア姫は、自らの発言の本当の重さについて理解していないでしょう。その重みを知っていたとしても、この発言は変わらなかったと思われますが。
「ところで、これお金稼いだけどどうすれば良いの? 」
「そこは僕の優秀な部下にお願いしてみんなと協力して建て直しをって感じかな。エレのおかげで優秀な部下が手に入ったから」
エクルーカム様の事でしょう。エンジェリア姫の手柄をあげようという事もあり管理者に入った。
「ふにゅ? エクーなの。エレは何すれば良いの? 何かお手伝いできる? 」
「君とゼロは帰るよ。あとは他のみんなに任せる。君らには君らのやるべき事があるだろ? 」
「……ふにゅ。そうなの。みんなと一緒にお手伝いしたいけど、エレ達のここでの役割は終わりなの」
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星の音 三章 五話 ロスト王家の菓子売り




