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2話 王都


 王都へ着いたエンジェリア姫達が目にした景色は酷いものでした。


 かつては、この時代としてはかなり栄えていた場所。様々な建物が並び、人々が笑顔を見せていたこの場所が、たった数年で見る陰もございません。


 人はいない。建物は良くて半壊。本当に数年前までは人が住んでいたのかと疑ってしまうような光景です。


「……」


「エレ、大丈夫? 」


 エンジェリア姫がこの景色を見る事を心配したのでしょう。フォル様がエンジェリア姫を気にかけていました。


「うん。こういう場所もあるんだって、ちゃんと知らないと」


「……うん。そうだね」


 エンジェリア姫は、真っ直ぐと前を向きます。この景色と向き合います。


「魔物なの」


 五十匹くらいでしょうか。魔物がエンジェリア姫達に気づきました。


「五十三か。ゼム、頼める? 」


「オレ魔法」


「……じぃー」


 ゼーシェリオン様が何かを言いたげにゼムレーグ様を見ております。魔法に関して、思う事があるのでしょう。


 ゼムレーグ様が魔法を渋る原因は、ゼーシェリオン様にも関わってくる内容ですので。


「……分かった。やるよ。今回だけだから」


 渋々、ゼムレーグ様が氷魔法を使い、魔物を五十……三匹凍らせました。


「鈍ってはないみたいだな。お疲れ」


「フィル、もうオレ魔法使わないから。フォルにもそう言っておいて」


「それは聞けないお悩みだと思うの。ゼムの魔法、とってもきれいだった。ゼムの魔法だいすき」


 エンジェリア姫の笑顔を可愛らしいですね。それだけで納得するとは思えませんが、エンジェリア姫にそう言わせたというのは、ゼムレーグ様にとって、何かにはなるのでしょう。


「あの」


 赤茶髪の十八歳くらいの女性がエンジェリア姫達に声をかけてきました。その手にはぎゅっと魔法杖と呼ばれる二種類の中でも、魔法媒介用の方でしょうか。それを握りしめております。


「どうしたの? 」


「聞きたい事があります。治癒術師を知っておりますか? できれば腕が良い方を」


「……リーゼ、だよね? 僕らの事忘れた? 治癒術師ならちょうど今いるから紹介するけど、何その他人行儀」


 こんな時だからこそなんでしょうか。この軽い感じで行くのは。


「えっ⁉︎ もしかして、フォル君? それに、ゼロ君? 」


「正解。フィルとゼムに会うのは初めてなんだっけ? この子も」


「うん。リゼシーナです。よろしくお願いします」


 エレシェフィール姫がフォル様の背に隠れます。そういえば、時々忘れそうになりますが、エレシェフィール姫は極度の人見知りです。

 ただ、人見知りできる状況ばかりではありません。こうして隠れるのは、長い時の中から見ると意外と珍しい事なんです。


 エンジェリア姫にとっては初対面ではないはずですが。


「オレはゼムレーグ、こっちがフィル。よろしく」


「……よろしく」

 

「え、え……みゃ……ふぃ……にゃん」


「この子が治癒術師のエンジェリア。人見知りだけど、治癒術師としての腕は良いよ」


 エンジェリア姫は不安げにリゼシーナ様を見つめております。


「えっと、エンジェリアちゃん、お願いできるかな? 」


「うん。お願いできるの」


「じゃあ、ついてきて。詳しい事はいきながら話すよ」


 エンジェリア姫一行は、リゼシーナ様の願いを叶えるため、彼女について行きました。


      **********


「わたしが知っているのは、これだけだけど、大丈夫かな? 」


 歩きながらリゼシーナ様が願いに関して話してくださいました。


 その内容は、眠ったままの恋人を起こす事。大怪我を負った恋人が、傷を治しても眠ったままなようです。


「可愛い生き物にお任せなの……ぴゅぅ」


「ありがとう。エンジェリアちゃん」


「ぴゅぅ」


 そういえば、エンジェリア姫はこの世界がこのようになる前、ある国で本を良く読んでいらっしゃいました。その本の中でも、一番のお気に入りかと思われる本がリゼシーナ様の祖父がモデルとなった絵本。


 エンジェリア姫は、その絵本を読んで、リゼシーナ様を意識しているのかもしれません。


「……騎士様らぶ」


 リゼシーナ様は騎士家系のご令嬢です。祖父はこの世界で英雄と呼ばれる騎士です。年頃の女の子であるエンジェリア姫は、絵本の騎士像に恋心を奪われたのでしょうか。


「……エレ、騎士と僕どっちが好き? 」


「フォル。でも、フォルに騎士要素入ったら……ふにゅぅって感じなの」


 恋する姫は大変ですね。自分の恋心をより一層際立てるような妄想ばかりしています。


「……エレ、僕に騎士を目指せとか言わないでよ。向いてないから」


「エレに対する忠誠心とか見ると向いてそうなのに」


「忠誠を誓っても良いような相手と、全員リーグみたいなのだったらやってやるけど? 」


「……ならエレだけの騎士になれば良いの」


 エンジェリア姫はどうしてもフォル様を騎士にしたいようです。


「断る。僕は君の騎士にもなるつもりはないよ。恋人なら考えても良いけど」


「……恋人なの。と言うか、疲れた。いっぱい歩いた」


 エンジェリア姫は他の皆様と比べると体力がありませんから、ずっと歩いていれば疲れてしまうのでしょう。ですが、それでも歩くだけ成長していますね。

 私の知るエンジェリア姫は歩きませんから。


「もう少しだよ。もう少しだけ頑張って」


「……エレ、抱っこしてやる」


「ありがと。ゼロ優しい、らぶなの」


 エンジェリア姫はゼーシェリオン様に抱っこされて、歩かなくて良くなりました。


「ゼロ、重かったら降ろして良いの」


「重いわけねぇだろ。お前体重平均以下だから。それに、もしお前が仮に重かったとしても、重いなんて言うわけねぇだろ」


「……重いの。ゼロの愛が重いの」


「それはな。どれだけ長い間片想い……じゃなくて妹として大事にしていると思ってるんだよ」


 本音が漏れ出てますね。妹として、今は見られているのでしょうか。


 少なくとも、この時はまだ、妹としてエンジェリア姫を見るのはむりでしたと。


「うん。可愛い生き物が騙されないようにちゃんと見ておくの」


「当然だろ。俺がいつエレの面倒を見てなかったんだ? 」


「見てる。見てなかったら抱っこなんてしてくれないの。だかららぶする」


「……なぁ、お前眠いだろ? 」


 そういえば、エンジェリア姫は眠くなると良く意味もなくこういう事を言うんでした。ですが、本当に良く見ていらっしゃらないと、気づかないと思うのですが。


 普段もこういう事を言うので。暇な時とかに。どちらか判断できるほど、ゼーシェリオン様はエンジェリア様の事を良く見ていらっしゃるのですね。


「うん。眠い。ねむねむさん」


「少し寝てろ。着いたら起こしてやる」


「良いの? ありがと」


 エンジェリア姫が寝ました。


「……ゼロ、いくらエレの暇時間を楽しませるためとはいえ、そういうのはどうかと思う? 」


「俺があの本をエレにあげた事か? 絵本で見て憧れたからって絵本のせいにすんなよ」


「ゼロが渡さなかったら好きになってなかったかも」


 エンジェリア姫が騎士に憧れているのが本当に気に入らないのですね。ですが、エンジェリア姫も年頃の少女。このくらいの憧れは多めに見てあげても良い気がするのですが。


 エンジェリア姫の一番好きな相手はフォル様一択なのですから。


「……そういえば、なんで魔法杖? 君は確か」


「うん。これでも騎士家の娘。剣の方が使い慣れているけど、こんな時代だから、入手に苦労するんだ。わたしが受け継ぐはずだった剣は破壊された邸の中にあるから、取りに行けなくて」


「そうだったんだ。僕が前に買ったので良ければあげるよ? 性能はあれよりは少し劣るだろうけど」


「ありがとう。あっ、見えてきたよ。あそこ」


 小さな集落。結界魔法具は設置されています。あの王都から避難した人々がここに逃れて集落を建てたのでしょう。


      **********


 星の音 一章 二話 王都

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