19話 贈り物
フォル様とフィル様が創られた特殊空間です。安定しているので、突然消える事もないでしょう。
妖精達の国のような幻想的で自然の温かみが感じられる中に、巨大な建物などの建造物。フォル様の得意とフィル様の得意が合体したかのような空間です。
「ふにゃぁ。とってもすごいの。エレだったら……フォル、あれなに?」
「ん? 仕事関連のものが置かれている場所の事? 主様強制仕事部屋の事? 」
「後者なの」
フォル様はルーツエング様を見つける前にこれを創っていたのですよね。なぜそれでこんな場所があるのかというのも不思議なところです。
「ここ魔法使えないんだ。連絡魔法具も。これは僕から主様へのささやかなしかえ……プレゼント」
「エレはフォルを怒らせないの」
「冗談だよ。主様がこっちで仕事できるようにって用意しといただけ。主様に会いに行かなくて良い分、君らと一緒にいられる時間が増えるから」
「それは嬉しいの。エレもフォルといっぱいいられるのすき。ずっと一緒にいたいの。それにお役に立ちたいの。だからね……エレもフォルのお仲間になりたいの」
管理者に入れて欲しいという事でしょう。もじもじとフォル様の顔色を伺うかのように言っています。
「前から言ってるけど、こんな危険な仕事を君にやらせられない。君が望んでいたとしてもだ。君が本気で望んでいる事も、そのために勉強している事も知ってるけど、それだけで認められない」
「……ぷにゅ。それでも諦められないの、やなの。一緒が良いの。でも、今は諦めるの」
記憶がなくとも同じ事を言っている姫の事です。きっと、転生したとしても諦める事などないのでしょう。
それを思わせるような目をしています。
「エレー、ロスト行こ。ロスト」
「……ロスト……やなの……絶対さむさむさん……行くの! 」
ゼーシェリオン様がとても楽しみにしている姿を見ると断れなかったのでしょう。
ロスト王国の寒さは人が住める寒さではないという事はエンジェリア姫も学んでいます。今のエンジェリア姫がなんの準備も無しにいけば氷になっている事でしょう。
ですが、保温魔法がある。そんなふうに考えているのでしょう。エンジェリア姫のように慣れていなければロスト王国の寒さは、保温魔法ですら耐えられないのですが。
「エレ、あとで保温魔法具渡すよ」
「ふにゅ。そういえば、この前の雪国……ヤポンに行った時、エレ以外保温魔法使ってなかった気がするの」
「ゼロとゼムはロスト出身だから。僕とフィルはそういう場所に良く行くから」
この世界ではゼーシェリオン様とゼムレーグ様はロスト王国出身という事になっています。
ロスト王国出身であれば、寒さに強いという事はエンジェリア姫も理解しているはずですが、理解できないと言いたげな顔をしています。
「慣れてるってなに? 」
「慣れてるから。それより、そろそろ王族の集まりがあるんじゃなかった? もしかしてそれの誘い? 」
「ああ。だからフォルも来て欲しいんだ。エレとフォルがいるとあんしん……ふにゅってなるから」
「ゼロがエレの真似したのー。しゃぁー! ……ってやりたいけど、それより集まり気になるの」
勉強熱心なようです。収納魔法から手帳とペンを取り出しています。
「ロストは現在王位継承権争い中なんだが、それに反対する王族達で定期的に情報交換をしているんだ。それで、そろそろ結構の時なんだが、色々と詳しいフォルにいて欲しくて」
「質問に答えてくれれば考えるよ」
いつもはエンジェリア姫とゼーシェリオン様の前では穏やかな笑顔を見せている事が多いフォル様ですが、今は笑顔が消えています。
「それと、今から君の言動は全て、純ロスト王家の総意と捉えさせてもらう」
「……ああ」
この先のゼーシェリオン様の発言一つで、ロスト王国の在り方が変わるでしょう。その事を、ゼーシェリオン様だけでなく、エンジェリア姫も理解しているようです。
重い空気が流れる中、エンジェリア姫は不安そうに二人を見ています。
「君が思うロストはなに? 」
「……誰もが笑って暮らす事のできる平和な王国。そのために王が必要だとすれば喜んで王を選ぶ。けど、その王がいるのが原因で生まれる闘争があるなら、王はいらない」
これはゼーシェリオン様だけの意見ではないからこそ、慎重に答えているようです。
「王は国をまとめる役割をになっている。その王がいなくなる事で国がばらばらになる可能性は考えてないのか? 」
「……それは、ロストが特別というわけじゃねぇが、純ロストの王族は一丸となって国を支えられる。俺らは昔からそうやってきたんだ……えっ? 昔? 」
「……そう。君らは昔から一人の王を選ばず、玉座に誰もいない状態でやってきた。同じ志を持つもの同士だからこそ、それができたんだろう。だが、今回のように王になろうとする者が現れれば? 一度止めたから、解決したからと言って、二度目がないとは言い切れない」
記憶がない中で出てきた言葉に戸惑うゼーシェリオン様に、フォル様は、一度頷くと質問を続けました。
「それは……俺一人で解決法なんて見つかるわけねぇだろ。みんなで考えて、それで、一番良い方法を使う」
総意という言葉に惑わされていたようでしたが、三つ目の質問でようやく、ゼーシェリオン様らしい答えが出てきました。
不安そうにしていたエンジェリア姫も、少しだけ安心しているようです。
「もし、民衆が王を望んだら? 」
「そんな事はねぇよ。あの国は閉鎖的な国だ。だからこそ、王族達の願いについてきてくれる人達しかいない」
記憶がないのでそういう事になっているのでしょう。なぜ、そんな事がありえないのか。その理由は、少し違いますが。
ですが、フォル様は、その回答で満足しているようです。表情には出していませんが、そうでなければ、途中でやめているでしょう。
「これで最後だ。君は僕になにを望んでいる? 」
「……見届け人。俺らの今後を見てもらいたい。それで、できれば一人の王族として、今後について話をしたい」
「ふふっ、君らしい答えだ。良いよ。付き合ってあげる。管理者……世界を監視、管理する神獣として」
フォル様が、左手を胸に当てると、少しだけ楽しそうな表情を見せました。
「黄金蝶、フォル・リアス・ヴァリジェーシルとして、純ロスト王家の決意の先を見届け、かつての姿となるよう協力する事を誓おう」
「……え、エレも、エレも協力するの! エレにそういうのないけど、協力するの! 」
置いてきぼりにされているとでも思ったのでしょう。エンジェリア姫が必死に言っています。
「君は一番重要だと思うけど? ロスト建国者が大事にしている姫は現在に至るまで象徴となっている。そんな姫がいれば、ゼロ達も少しは有利になるんじゃない? 」
「そう、なの? エレもお役に立てるの。とってもがんばる」
エンジェリア姫が一人で意気込んでいるのを、フォル様が眺めています。
「……ルー達のためにも、蓋を開けられるようにするべきか……エレ、ゼロ。僕からのもう一つのプレゼントだ」
エンジェリア姫とゼーシェリオン様は見た事のない魔法でしょう。ふんわりと地面から淡い金色の光がエンジェリア姫とゼーシェリオン様を包み込みました。
「……」
「……ぴにゃ……ふにゃぁなの」
フォル様に不都合な記憶は全て封じたままでしょう。ですが、ここでエンジェリア姫とゼーシェリオン様にやってもらいたい事についての記憶だけは全て思い出せるようにしたようです。
「一応、もう一度聞いておくよ。この質問の答えは純ロスト王家の総意とみなす。で、君はロストをどうしたい? 」
「変わんねぇよ。みんなが笑っていられる争いのない国。そんな世界にしたいならまずは国からだ」
同じ質問に同じような答えですが、慎重になっていた最初と違い、ゼーシェリオン様らしく、堂々と笑顔を見せて答えました。
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星の音 三章 三話 贈り物




