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18話 崩壊の世界と御巫候補


 一面雪景色。真っ白で見た目はヤポン王国と似ていますが、明らかに異様な景色です。


「むにゅ? 不思議な場所なの」


「不思議な場所なの」


「ゼロ、エレの真似やめろなの」


 エンジェリア姫とゼーシェリオン様はこんな事態でも楽しそうです。それに反して、フォル様は何やら深刻な顔をしています。


「……雪に異様な魔力、か」


「みゅ? 笑顔が怖いの」


 何かに気づいたのでしょうか。フォル様が笑みを浮かべました。


「エレ、爆弾持ってる? 」


「そんな物騒なもんこいつが」


「持っているに決まってるの」


 エンジェリア姫は当たり前のように収納魔法から爆発魔法具を取り出しました。


「これどうするの? 」


「適当に投げて。できるだけ安全な場所に」


「ぷにゅ。分かったの」


 エンジェリア姫が爆発魔法具を前方に投げました。


 雪に落ちると音がなく爆発しました。


「……地面あるの」


 爆発で空いた雪から下を覗くと地面が見えます。


 エンジェリア姫は落ちないようにそっと穴の空いた雪から離れようとしました。


「ふみゃ? ぴにゃぁぁぁ⁉︎ 」


 エンジェリア姫の足元の雪が落ちました。


「……ぴにゃ? 」


「大丈夫だよ」


「……ふにゃ? 」


 エンジェリア姫が落下した直後、フォル様がエンジェリア姫の腕を掴みました。


 エンジェリア姫を抱くのと同時に、着地するための準備も整えています。


      **********

 

「ぴにゃ」


「……随分と変わっているけど、面影はあるな」


 地面に着地すると、雪の中とは思えないような景色が広がっています。


 建物はほとんど壊れていますが、人が暮らしていた形跡は残っています。


「……ふにゅ? 」


「君は普段外に出る事がないから知らないのか。子供達……大人もそうかな。交流の場になっている場所だ」


「そうなんだ。じゃあ、あの人も交流? 」


 帽子を被ったさらさらとした空色の髪の女性がいます。


 エンジェリア姫は記憶がないので、その女性が誰か分かっていないのでしょう。


「……久しぶりだね。リーミュナ嬢」


「えっ……フォルくん⁉︎ 」


「うん。久々の再会で急にこんな事言うのは悪いと思うんだけどさ、主様ってどこにいるの? 」


 笑顔ですが、再会を喜ぶ顔というわけではなさそうです。


「……向こう、だと思う」


「ありがと。エレ、君は僕の恋人なんだから一緒に行くよ。ゼロはリーミュナ嬢と一緒にいるさ」


「ふにゅ」


 どこへ行くにもエンジェリア姫を連れて行きたいというわけではないでしょう。リーミュナ様を信頼していないというわけではないのでしょうが、フォル様の側がエンジェリア姫の最も安全な場所ですから。


 ゼーシェリオン様は預けようとしている時点で、かなりのが信頼あると思われます。


「……置いてきぼり……泣く」


「ゼノン……ゼロくん、泣かないで。えっと、ケーキ! ケーキ作ってあげるから」


「……なんとなくやだ。エレと似た何かを感じる」


 記憶がないので、見る目があるという事なのでしょうか。


 星の御巫候補であるという点が大きいのですが、リーミュナ様はエンジェリア姫と共通点がいくつもあります。


「えっ⁉︎ 大丈夫だよ。料理得意だから」


「……好きと得意は違うって言っておかないといけない気がする」


 なぜ棒読みなのでしょう。しかもなぜ呆れているのでしょう。なんでも言うようですが、記憶はないはずですが。


「……つぅか、俺普通に料理できるから気を遣わなくて良いよ。エレの世話をするためにって色々と学んだから。エレはフォルにばかり構って俺にはあまり構ってくれないけど。構って欲しいのに」


「……エレちゃんは本当にフォルくんが好きなんだね。でも、ゼロくんの事も大好きだと思うけど……ゼロくんから構われに行ってみたの? 」


「……構ってくれなかったらいやだから行ってない。エレに構って欲しいけど、エレから来て欲しい」


 ゼーシェリオン様はエンジェリア姫の話をする時、寂しそうにしていますが気づいてないのでしょう。エンジェリア姫もゼーシェリオン様に日頃から構ってほしくて見ている事を。


      **********


 エンジェリア姫はフォル様と、主様ことルーツエング様を探しに向かっています。


「……フォル、ゼロが構ってくれないの。昔はエレが何かするたびに構ってくれたのに」


「それあの子からも全くおんなじ内容の相談あったんだけど。エレが僕にばかり構っているとか言われて」


「ゼロがエレを構ってくれないの」


 エンジェリア姫とゼーシェリオン様のこうした行き違いは良くある事です。それでフォル様に相談するのも。


「……君から構ってもらいにいけば? 」


「やなの。なんだか負けた気がするの。ゼロがエレに構って欲しいってきたらいくらでも構うの」


「ほんとに負けずぎらいだよね。ゼロにだけは」


 本当の兄妹ではないからでしょう。上下関係というわけではありませんが、対等にありたいのでしょうね。


「ぷにゅ。ゼロには負けないの。エレはゼロにだけは負けない生き物なんだから」


「……ゼロばっかり」


 フォル様がやきもちを焼かれているみたいです。エンジェリア姫はそれに気づいていなさそうですが。


「……いた! 」


 長い緑髪を編んでいる青年。彼が黄金蝶であり、一つの神獣の組織を束ねる主様であるルーツエング様です。


「主様はいつまで休暇気分でいらっしゃるのですか? 」


「……すまない。ここから出る事ができなくて」


「出る事ができないからと職務放棄に加え連絡すらしてこなかったと」


 フォル様、かなりご立腹なようです。エンジェリア姫が怯えているのには気づいているのでしょうか。


「……まぁ、今ここでそんな事言ってても意味ないので、とっととここから出て仕事してください」


「それは分かっているんだが、出られない上に魔法具もほとんど機能していない」


「は? この子が作った魔法具は……そうか、エレは特別だった」


 そうですね。エンジェリア姫の魔法具は特別です。


 本来魔法具が機能しなくなる場所でも機能する特殊な魔法具ばかり作る事ができるので。それを市場に出せばとんでもない事になるので出してはいませんが。


「ぷにゅ? エレのお話なの」


「……主様、状況と解決法を」


「あの雪が原因であろうというところまでは掴んでいる。雪を解析してみたところ、魔力の塊だった。あの雪がなくなれば解決するだろう」


「エレの魔法具で雪を除去する。エレだったら魔力吸収の魔法具くらい持っていそうだから」


 さすがはフォル様とルーツエング様です。話を進めようとすれば話が早いです。


「魔力吸収……持ってるの」


 そしてエンジェリア姫は、なんでも持っているかと思われるくらい準備が良いです。


「ならさっきの穴から上に出て雪を除去するよ」


「ふにゅ。りょぉかいなの」


      **********


 エンジェリア姫達は、すぐに上に行き、魔力除去を開始しています。


「……アゼグにぃ、どうすればエレに構ってもらえる? 」


「その話何回目? そんなに構って欲しいなら自分から構ってって言いに行った方が良いだろ」


「負けた気がする」


 ゼーシェリオン様はいまだにエンジェリア姫に構ってもらえないという悩みを言っています。


 しかも、アゼグ様まで巻き込んで。


「ロストの王家仲間だろ。なんか良い案よこせー」


「……ロスト行った事ない」


 特徴的な青黒髪はロストの象徴とも言えるものです。例外はありますが、多くは青黒髪で氷魔法を得意としています。


 アゼグ様も、その特徴的な青黒髪です。


「ぷにゃ。ゼロ、魔力吸収終わったの。帰れるの」


「……」


 エンジェリア姫達が戻ってきましたが、ゼーシェリオン様は無反応です。


「エレちゃんお疲れ様」


「お疲れ様」


「ふにゅ……お疲れなの……ぷにゅ……ゼロ……ぴゅにゅ……構えなのー」


 エンジェリア姫がとうとう自分から飛びつきに行きました。


「……構う」


 ゼーシェリオン様は機嫌が良さそうですが、フォル様が不機嫌になっています。


「……フォルも構うの」


「うん」


 フォル様の機嫌が直りました。


「……私の相手、アゼグとウィンで良かった……外に出るんだからエルグってこれから呼ばないとだね」


「俺もリミュとエルグで良かった」


「御巫候補も黄金蝶もあそこまで依存しているのは珍しい。あの三人が特別なだけで普通は二人のような関係だ」

 

「そうだったの? でも、二人と一緒は後悔してないよ」


 リーミュナ様もアゼグ様も他の御巫候補を知りませんから、エンジェリア姫達が普通だと思ったのでしょう。


 エンジェリア姫達の関係は御巫候補と黄金蝶としてはあまりに深すぎます。それは、御巫候補となる前の過去が関係しているのでしょうが、そんな事は誰も知りませんから。


「お疲れだから帰るの」


「うん……あっ、そうだった。エレ、今日からは新しい場所で暮らしてもらうよ。僕とフィルが君らにあげるプレゼントだ。この前十六歳になったから、お祝いだ。主様はそこで仕事三昧だよ」


 仕事三昧という部分がなぜでしょう。一番楽しそうに聞こえたのは。


      **********


 星の音 三章 二話 崩壊の世界と御巫候補

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