17話 赤い宝石
あれから十年。エンジェリア姫の十六歳です。
エンジェリア姫は魔法の論文を書いています。
「書けたの。見て見て。とっても上手に書けたの」
「お疲れ。俺も書けた。これでご褒美もらえる」
エンジェリア姫とゼーシェリオン様は、フォル様に魔法の論文を書くように言われて書いています。書けばご褒美をもらえると付け加えられているので、かなり気合が入っていたようです。
「エレ、フォルに見せてこよう」
「ふにゅ。早く見せるの」
ゼーシェリオン様が転移魔法を使いました。転移先は管理者の拠点です。
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部屋の扉はなく、廊下が続いています。管理者の拠点は特殊な構造のため、扉が目で見えません。
「えっと、幻覚魔法と結界魔法の二重がけになっているから、扉のところで魔法を使って開ければいけるの」
「ああ。扉の場所は魔力を視れば分かるんだよな」
エンジェリア姫とゼーシェリオン様はまだ記憶が戻っていません。ですが、勉強してきた効果なのでしょう。管理者の拠点の仕組みを理解しています。
「……きっとこの辺なの」
「もう少しこっちだろ」
「もう少しこっちの気がするの」
まだ魔力を視るのに慣れていないのでしょう。手探りに場所を探しています。
「……」
それを後ろで見ているフォル様には気づいていません。エンジェリア姫とゼーシェリオン様が扉を探している間に来て黙って見ています。
「もう少しこっち」
「こっち」
「……」
フォル様が声をかければ解決なのですが、声をかけません。それどころか、気配も魔力の察知されないようにしています。
管理者の拠点にいる時にそれをやっている必要はないと思うのですが。
「もう少しこっちなの」
「……なぁ、これここにいなかったら頑張り損だろ」
「いるの。この辺りにフォルのサボり部屋があるから、そこにいると思うの」
なぜその部屋がこの辺にあるというのを知っているのでしょうか。エンジェリア姫はフォル様に会いに何度か来てはいますが、そこへは行っていないはずです。
「……エレ、ゼロ」
「ぷにゃ⁉︎ 」
「うわっ⁉︎ えっ⁉︎ いつから」
やっと声をかけました。
「少し前から。君らが一生懸命扉を探しているから黙っていようと思ったけど、流石に可哀想になって」
「そんな事良いの。それより褒めて。エレ、論文書けたの。ほら……ふにゃん」
エンジェリア姫もゼーシェリオン様も肝心の論文を持ってきていません。部屋に忘れてきています。
「ふぇ……あのね、本当に書けたの。忘れてきちゃっただけなの」
瞳にたっぷりと涙を溜めてそう言われると、疑っているなどとは言えませんね。
フォル様がそんな事言うわけないのですが。そもそも、嘘ついていれば分かるので。
「今度は気をつけようね。このあと暇なら少し付き合ってくれない? 」
「ふにゅ。お手伝いで名誉挽回するの」
「うん。そういうのは良いから、側にいてくれるだけで」
そういえば、エンジェリア姫とフォル様の恋人ごっこですが、まだ続いています。むしろ、あの頃よりもエンジェリア姫が色々知った事により、より深い関係に……というのはありませんが、続いてはいます。
「ふにゅ。デートなの」
「デートでもないけど、時間ができればやりたいよね。最近は忙しくて会う時間すら減ってるから」
「俺邪魔だろうから帰る」
「ふにゃ⁉︎ そ、それはだめなの! エレをフォルと二人っきりにしちゃだめなの! 」
と思っていましたが、エンジェリア姫はゼーシェリオン様を引き連れているのでそう見えていただけのようです。
「一緒にいて。二人っきりなんて恥ずかしいの。嬉しいけど、なんだか恥ずかしい良く分かんない感じになっちゃう」
「……フォル」
「僕も君が一緒にいてくれると安心するよ。それに、君らは二人一緒にいる方が面白いから」
「……分かった。一緒にいる」
何か言いたそうでしたが、何も言わずに了承しました。
「どこ行くの? 」
「淫魔の国の近くの禁止指定区域。そこに赤い宝石が突然降ってきたみたいで、調査に行くんだ。もし危険があっても僕が守るから、一緒に行って欲しいんだ」
「みゅ。一緒に行くの」
エンジェリア姫はフォル様と一緒にいられるというだけで嬉しそうです。
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本来禁止指定区域に行くには、入り口で身分証や許可証を見せなければなりません。ですが、フォル様は、直接禁止指定区域の中に転移魔法で行く事ができます。
禁止指定区域は森の事が多いです。この場所も、森です。
「普通の森なの」
「こういう場所は魔物が多いから、禁止指定区域になりやすいんだ。魔物は暗い場所の方が多いって教えたでしょ? 」
「教えてもらったの。暗いところは危ないからだめって言われているの」
エンジェリア姫はフォル様から教えられた事をしっかりと覚えていると自慢しているのでしょう。フォル様がエンジェリア姫の頭を撫でています。
「そういえば、ゼロは魔法具作れるようになった? 」
「ふぴゃ⁉︎ もっともっと」
「ああ。少しだけだけど。エレより時間もかかって、効果も低いけど」
「この子を基準にしちゃだめだよ。この子は魔法学と調合学においては、天才と言って良いからね」
フォル様に褒められているのですが、エンジェリア姫はもっと頭を撫でてもらう事に必死で気づいていません。
「……けど、俺は兄だから」
「……兄だからってなんでもできる必要なんてないよ。フィルやゼムだって、なんでもできるわけじゃないんだ。なんでも妹よりできるようになるんじゃなくて、一緒にいて、ここぞって時に頼られるようになれば良いんじゃない? 」
フォル様とフィル様の関係はまさにそれでしょう。能力的にはフォル様の方が優れています。ですが、フォル様は本当に悩んでいる時に頼るのはフィル様です。
「……おにぃちゃんって大変そうなの。エレは末っ子気質だから関係ないけど」
「そうだね。僕も末っ子だから、兄の苦悩なんて分かんないよ……主様も、突然できた義弟に苦悩していたのかな」
多くの神獣達を束ねる主様。フォル様の義兄でもあります。フォル様はある事情により現在の家に引き取られているので、それまで末っ子だった彼は初めての弟にどんな反応をしていたのでしょう。
私の知る限りでしたら、かなり勉強していましたが、他にも色々悩みとかあったのでしょう。
「みゅ? 」
「なんでもない。とにかく、君はエレに頼られているんだ。兄として。だからそんな事で落ち込まなくて良いよ。もっと胸を張って、エレの自慢の兄なんだって言えば」
「そうなの。エレのお世話はゼロの仕事なの。ゼロはエレのおにぃちゃんなんだから。だからもっと自慢して良いの……ぷにゃ⁉︎ フォル、あれ、あれがきっとあれな気がするの」
エンジェリア姫が突然木の上を指差して、腕を上下に動かしています。
「……どこ? 」
「あそこなの! 木の上なの! 」
「……ほんとだ。エレ、ありがと。連れてきて良かったよ」
真っ赤な宝石が木の枝に引っかかっています。これがフォル様の探していたものでしょう。
「ちょっと待って。今取るから」
フォル様が宝石を枝から取ってきました。見た目は普通の宝石です。
「……みゅ? なんだろう。普通なの。普通にしか見えないの」
「……普通だな。これが回収対象……調査対象なのか? 」
「うん。そのはずだよ」
エンジェリア姫達は、不思議そうに宝石を見ています。ですが、おかしなところなどありません。
という事になりそうでしたが、突然宝石が眩く光出しました。
「ふきゃ⁉︎ 」
宝石の光はすぐに消えましたが、エンジェリア姫達が目にした景色は、森ではありません。
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星の音 三章 一話 赤い宝石




