16話 勧誘
一眠りしたエンジェリア姫は、フィル様に手伝ってもらい、ドレスに身を包みました。
「ふにゅ……なんだかはじゅかちい」
「似合ってるよ。僕以外は見てほしくないくらい。仕事の方はゼロにでも女装させて君はここで僕の帰りを待っていてもらうっていうのも良いかな」
笑顔でさらっとゼーシェリオン様を巻き込んでいますね。エンジェリア姫を本当に想っている事は分かりますが、愛が重すぎるようにも感じてきます。
「……その場合は俺にもエレ権をもらう事を主張する」
「女装してくれるなら良いよ。エレ権を与えよう」
「ふぇ? 良く分かんないけど、エレはフォルのなの。ゼロはエレのお世話係なの」
フォル様はフィル様が、ゼーシェリオン様はゼムレーグ様が呆れているのに気付いているのでしょうか。エンジェリア姫はもう少しゼーシェリオン様とフォル様を疑う事を覚えた方が良いと思います。
こんなエンジェリア姫だからこそ、上手くいっているのかもしれませんが。
「……フォル、今回の相手の事は」
「大丈夫。ちゃんと確認済みだ。必ず入ってもらうよ。あの時は誘う事できなかったから」
今回の仕事というのは勧誘です。私も、この時は誰をというのは知りませんでしたが、エンジェリア姫の知っている相手でしたよ。
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「華やかなの。みんなきれいだけど……なんだか怖い場所なの」
「僕の側にいれば大丈夫だよ」
広く金の装飾品で飾られた会場。華やかな衣装に身を包んだ貴族達。エンジェリア姫にはこの場所が楽しい場所とは思えないようです。
「これはこれは、珍しいですね。貴方様がいらっしゃるとは」
「そちらこそ。あの時ぶりですね。こうして言葉を交わすのは」
エクランダ帝国の皇帝エクルーカムです。淵帝というべきでしたか。気難しそうな雰囲気ですが、エンジェリア姫にはかなり甘いんですよね。
それが理由でエンジェリア姫を連れているのかは謎ですが。
「それにしても、随分と可愛らしくなっていらっしゃる」
「姫の転生に合わせているので」
「懐かしい姿の姫と思えば、双子姫でしたか。このような場所にいると疲れるでしょう。外に出ましょうか」
「みゅ? みーみー」
さすがです。エンジェリア姫。淵帝が古代語を使ったのをすぐに気がついています。恐らく、内容も理解していたでしょう。意味までは理解できていなかったとしても。
「……一応挨拶とかしないといけないんだけど。管理者としての繋がりとかあるから」
「姫を預かりましょうか? 」
「それはお願い。エレ、少しだけ彼と一緒にいてくれる? 」
エンジェリア姫は不安そうにしていますが、フォル様の頼みだからでしょう。こくりと頷きました。
「ありがと。仲良く、ね? 」
「ふにゅ」
確実に成功させるために言っているのでしょう。エンジェリア姫にはそれを理解させないようにして。
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フォル様が挨拶に回っている間、エンジェリア姫は淵帝と二人です。かなり緊張している様子。
「……」
「発作は? 」
「……フォルがいるから起きてない、でちゅ……ここにいる人、みんな怖いのに、怖くないの」
「それは光栄だ」
記憶がなくとも覚えているのでしょう。淵帝がエンジェリア姫を散々甘やかしていた事を。
「……フォル、お仕事って言ってたの。エレもお役に立ちたい」
「……では、彼が戻ってきたらこう言ってみると良い。淵帝が管理者になって良いと言っていたと」
淵帝はフォル様の目的に気がついていたようです。
「ふにゅ? 分かったの。それでフォル喜ぶ? 」
「喜ぶだろう。万年人手不足の管理者に新たな人材が入ったと」
「まれにみるブラックきぎょぉに新人……」
エンジェリア姫?
「……どこでそんな言葉を覚えてきた? 姫、そういう事はまだ覚えなくとも良い。姫はそれよりも魔法具の知識とかを磨くべきであろう」
「みゅ? ふにゅ。魔法具も魔法機械もいっぱい覚えているの。今度教えてあげる」
淵帝にこんな事を言えるのはエンジェリア姫だけでしょうね。
「では、訓練用に壊れない魔法機械でも教えてもらおう」
「……それは分かんないの。でも、がんばって作ってみる。エレは天才設計師だから」
もう緊張していないようですね。エンジェリア姫が自然体でいられるというのは淵帝としても安心するのではないでしょうか。
「天才設計師か……間違ってはいないな」
「ふにゅ。エレはいつかフィルと一緒に天才魔法具技師として輝くの。それで魔法具いっぱいお家に置いて、ふにゅんふにゅんするの」
ふにゅんふにゅんの部分は良く分かりませんが、天才魔法具技師として輝くというのは本当にあるんですよね。
本来の世界では、有名な魔法具技師ですから。
「フォルが来ないの」
「もう時期来るだろう……姫、もし統率殿の番となりたいのであれば、挨拶をできるようになっておくと良い。必ず必要になってくる」
「……ふにゅ。がんばって覚えるの。お辞儀の次は挨拶……覚える事いっぱい」
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淵帝と打ち解けあったエンジェリア姫が楽しそうに話していると、フォル様が戻ってきました。
フォル様が戻ってくると、エンジェリア姫達は外へ出ました。
白い雪の地面に暗い夜空からは光る星々。建物の明かりが降る雪に反射して輝いて見えます。
「お星様きれい。ふにゃ⁉︎エレはフォルにお話があるの。エクーが管理者になって良いって言ってたの」
「私が姫に言えと言った事であるが、これは姫の手柄と見てもらおう」
淵帝がエンジェリア姫が褒められるようにはからっています。フォル様が無言でエンジェリア姫の頭を撫でているのは、褒めているという事なのでしょうか。
「みゅ? 」
「……あっ、ごめん。エレの撫でやすい頭がそこにあったからつい。ありがと、エレ。君のおかげで面倒な挨拶だけで済んだよ」
「……嬉しいけど、エレは子供じゃないの。なでなでは子供なの」
エンジェリア姫がこんな事を言うとは。頭を撫でられるのが大好きな姫ですから、それを自分からやめるように促す事などあるのですね。
「子供だからじゃなくて、君の頭があると撫でたくなるだけなんだけど。エレって触っていると安心するから」
「……なら思う存分なでると良いの。もっとなでろなの。そしてエレも管理者入れろなの」
「うん。管理者には入れないけど、撫でるのはしてあげるよ」
子供だからではないとフォル様に言われただけで、撫でられる事を喜んでいます。
「……研修とかがあると聞いたが、どうなのだ? 」
「一応あるよ。研修と試験。それに、正式に管理者にするために色々と書類を書いてもらわないと。皇帝と兼業はできるよ。君の国のような特例ならだけど」
エクランダ帝国は色々と特殊です。そんな特殊な国だからこそ、こうして管理者として誘っているのでしょう。
「そちらに専念するため皇帝は引退しよう。優秀な後継者がいるのでな。良い機会というもの」
「君が決めた事なら良いけど、情報提供とかを基本的にして皇帝としていて良いよ? 専念しなくても」
「弟子……後継者を育てるために必要というだけ。あの子には自分で道を選べるだけのものを授けてやりたいのだ」
「そっか。それなら何も言わないよ。でも、その子が悩んでいれば真っ先に助けに行ってあげて良いからね? 管理者の仕事があるからなんて考えずに……エレ? 」
エンジェリア姫がフォル様の手を握って眠そうにしています。
「……ごめん。エレが限界みたい。また詳しい話とかは後日する事にするよ。これだけは渡しておくけど」
小さな丸い魔法具。転移魔法具です。管理者の拠点へ転移できるものでしょう。
「暇があれば一度見学に来ると良いよ。僕がいるとは限らないけど」
「今度伺おう」
「うん。これからよろしくね。エクー」
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星の音 二章 最終話 勧誘




