15話 雪国
一面真っ白な場所。エンジェリア姫はフォル様に抱きついています。
「ぷるぷる」
「ぽかぽかさんしているとか言ってなかった? 」
「こんなにさむさむさんだって知らなかったの」
エンジェリア姫にはこの気温は寒いのでしょう。一般的に雪の降る気温は寒いので普通の反応ではあるのですが。
エンジェリア姫の周りがそうでなかったので、こっちの方が珍しい感じになっていますね。
「魔法使えば? 保温魔法くらい覚えているでしょ? 」
「ふみゃ⁉︎ そ、その手があったの⁉︎ 」
「……フィル、もしかしてこの子に魔法の実用性を教えてない? 」
魔法学を習っていれば、魔法の実用性についても覚えているはずなのですが、エンジェリア姫は知らないようです。
原因は、フィル様がエンジェリア姫が魔法を知る事に喜びを覚えているのを知っているためです。それを見たいがためだけに魔法を教えまくっていたようですが、肝心な実用性についての話は何もしてこなかったようです。
「そのくらいは自分でも覚えられるから」
「それは否定しないけど、初めのうちは教えておいた方が良いって自分が言ってなかった? 」
「……可愛かったから。新しい魔法を覚えて喜んでいるエレの姿が」
エンジェリア姫は、魔法を教わる時、本当に楽しそうにしていますから、分からなくもないですが。
「ふにゅ? ゼロとゼムがいないの……エレもいなくなろっと」
遊びたいのでしょう。ゼーシェリオン様とゼムレーグ様だけ遊びに行っているので。
エンジェリア姫は、フォル様とフィル様に黙って、遊べそうな場所を探そうとしています。
ですが、エンジェリア姫は外で遊ぶという事に慣れてないため、遊べそうな場所が分かっていないようです。
「……こうなったら適当に」
「エレ、どこ行こうとしてんの? 迷子になるからここいて」
「しゃぁー! しゃぁー! 」
エンジェリア姫からしてみれば、ゼーシェリオン様は良くてエンジェリア姫だけだめというのは納得いかないのでしょう。
ゼーシェリオン様は、ゼムレーグ様がついているので何も言っていないだけかと思われますが。
「エレは僕と一緒にいてくれるんじゃなかったの? 」
「……みゅぅ……一緒にいるの」
遊びに行きたそうではありますが、フォル様と一緒にいるようです。
「フィル、昨日話した事だけど、場所の特定までできていないから別れて探そう。エレは僕が引き取るから、君は何も気にせずに探して」
「分かった。見つけたら連絡する」
「うん。エレ、一緒に行こっか」
エンジェリア姫はフォル様と一緒に行動するようです。その方が安全でしょう。
現状、エンジェリア姫を守る事ができるのはフォル様とフィル様だけ。フィル様よりもフォル様の方が守る事には長けています。
エンジェリア姫の近くにいて普段から守ってきたからなのでしょう。
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「……なんでこっちに」
フィル様の向かった方向の方が本命だったのでしょう。ですが、禁止指定魔法の使い手は、エンジェリア姫とフォル様の前に現れました。
エンジェリア姫は不安そうにフォル様の背に隠れています。
「おんなだぁ……血を……よこせ」
「……報告にあった通り吸血鬼か。エレ」
記憶のないエンジェリア姫には刺激が強かったのでしょう。目の前で血に飢えた獣のような吸血鬼を見るのは。
フォル様にしがみついて震えています。
「……大丈夫だ」
落ち着いた声です。エンジェリア姫を安心させようとしているのでしょう。
「血をよこ」
「……エレ、もう大丈夫だよ」
「ふぇ……ふぇ? 」
エンジェリア姫は目をぱちくりと瞬かせています。目の前にいたはずの吸血鬼はいません。手で目を擦り、もう一度目の前を見ています。
「……ふぇ? 」
何が起きたのか理解できていないようです。フォル様が転移魔法を使って管理者の拠点にある牢に転移させただけなのですが。
突然いなくなっていれば信じられなくなるでしょう。
「エレ、あとは夜だけだから。今は楽し……寝た方が良いか。夜に寝むくなるから」
「ぷにゅぅ。分かったの」
「向こうに管理者が所有する宿があるからそこに行くよ。ここに滞在する間はそこに泊まるんだ」
エンジェリア姫には初めての泊まり。目を輝かせています。
「エレ知ってるの! 宿に二人で泊まった女の子と男の子は、良い感じになって仲良しなの! 」
恋愛小説でも読んだのでしょう。エンジェリア姫がまだ知らなくて良い事は理解していないようなので安心です。
「二人っきりじゃないから。でも、そういうのを期待するなら……ベッド一つに二人で寝る予定だから……僕と寝ても良いよ? その場合ゼム一人にするから」
「ぷにゅ。フォルと一緒にねむねむさんなの。ついでにゼロも誘ってやるの。三人で一緒」
ゼーシェリオン様の事をいつでも忘れないのですね。エンジェリア姫は。
これが御巫の絆というものでしょうか。
「……うん。迷子にならないように手、繋いでいくよ」
「ふにゅ。おててぽかぽかさんなの」
エンジェリア姫の手は暖かいです。前に私に触れた時に感じました。フォル様は、少し冷たかったです。
なんて、体温ではありませんよね。
「そうだね。君の手は暖かいよ」
「ぴにゃ⁉︎ ぷにゃぁ」
「ふふっ、ほんとかわいい。こんな反応ばっかくれると遊びたくなるよ」
本当に楽しそうで、愛おしそうで、エンジェリア姫を愛しているのが伝わってきます。
フォル様はどれが素なのか分かりづらいですが、少なくとも、今見せている表情だけは嘘ではないでしょう。
「ベッドふかふか? エレベッドふかふかさんが良いの」
「うん。ふかふかだよ。普通に泊まるとかなり高い場所だから。僕らは安いけど」
管理者特権というものでしょう。管理者は仕事で宿泊する事が多いですから、宿を格安で泊まれるようにしているのでしょう。
「ゼロは楽しそう。エレはフォルと二人っきりでらぶ……こっちの方が良いのかも」
「僕と二人っきりが良い? なら、もう一部屋借りて君と僕だけ別に部屋にする? そうすれば一人一つのベッドで寝られるから」
「それはやなの。夜のお時間はみんなで一緒が良いの。それに、ゼロが寂しがるのがやなの。エレは、ゼロが寂しいとなんだかぷにゅぅてなっちゃうから……なんなんだろう」
共有の事はエンジェリア姫は理解していないのでしょう。フォル様もフィル様も今はまだ詳しく教える気は無いようです。
不思議そうにしているエンジェリア姫はすぐに別の事を考えています。
「それよりも、フォルと一緒にお昼寝がじゅぅよぉ案件なの。ドレスを着てフォルとらぶするなんてとっても良いの」
「……エレ、お辞儀できる? 」
「ふにゅ」
フォル様が手を離すと、エンジェリア姫はお辞儀をしました。フィル様に最低限教わってはいるので、こういった作法はできるようです。
「……これなら問題ないか。何も喋らなければ」
「ふぇ⁉︎ え、エレ、喋っちゃだめなの? 」
「僕以外とは喋らないで。それと、万が一逸れた時は知らない人についていかない事。声をかけられても無視する事。君がどこにいても僕が絶対に見つけてあげるから」
いつにも増して真剣です。エンジェリア姫を守るための事ですから当然なのでしょう。
エンジェリア姫の真面目に聞いています。人見知りが激しいので、知らない人についていくというのはないと思いますが、上手い言葉に惑わされてという事もありますからね。
「……エレ、ここが滞在中泊まる場所だよ」
「……お高そう」
高級宿ですから、見た目も高そうでしょう。新築と変わりない綺麗な建物。外から見える宿の中は、赤い絨毯が引いてあります。
「早く入るの」
「うん」
エンジェリア姫とフォル様は一足先に宿の中に入りました。
受付を済ませたあと、部屋に向かい、夕方まで眠りました。
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星の音 二章 四話 雪国




