14話 魔法車
エンジェリア姫はある事情により転移魔法で移動する事ができないため、移動はフォル様が所有する魔法車で向かう事になりました。
魔法車の窓から外を覗くと、青色の空が広がっています。
「ふにゃぁ……これだけ高いともう分かんないの」
「……君はあの三人に混ざらなくて良いの? 」
フォル様の所有する魔法車はいくつもの部屋に別れています。
エンジェリア姫がいるのは、待機用の椅子が並んでいる部屋です。そこには現在、エンジェリア姫とフォル様しかいません。
ゼムレーグ様も加わり、五人できているのですが、エンジェリア姫とフォル様以外は、他の場所を探索しています。
フィル様は、お二人の保護者的な役割で一緒のようですが。
「ふにゅ。ここが良いの」
管理者様達の報告書を確認しているフォル様の隣でエンジェリア姫は座っています。今の時間は誰にも邪魔されないとでも思っているのでしょう。
「仕事しないとだから僕は相手できないよ? それに、かなり長くかかるから遊んでいた方が良いんじゃない? 」
「エレはこうしてゆっくりフォルのらぶをもらっている方がすきなのでちゅ。でも、ひまになるのはなるから、魔法具のせっけいじゅでも考えて待っているの」
「魔法具か……結界魔法具とかってもう作れるかな? 作ろうと思っても時間が取れなくて、もし良ければ作ってくれない? なんでも欲しいものあげるから」
この年齢でもエンジェリア姫はエンジェリア姫です。結界魔法具くらいでしたら簡単に作る事ができるでしょう。
「……ほにゅ……でも……」
「なんでも良いよ? 新しい魔法具? 魔法石? 本とかもあるかな」
「……フォル」
「ん? 」
エンジェリア姫が顔を真っ赤にして俯きました。
「何かちゃんと言ってくれないと分かんないよ」
嘘でしょう。本当はエンジェリア姫が欲しいものを理解しているはずです。
「ぬ、ぬいぐるみ! 新しいぬいぐるみが欲しいの! 」
「嘘はだめだよ? ちゃんと欲しいものを言わないと」
エンジェリア姫の反応を見て楽しんでいるのでしょう。エンジェリア姫はゼーシェリオン様が戻ってくるのを期待して扉の方をちらちら見ています。
「ああ、そうだ。あの三人ならここへはこないよ。フィルにここにこないようにしておいてって言ってあるから。ほんとは仕事の書類をゼロなら理解できるからだけど、邪魔されないのは良いね」
「ふにゃ⁉︎ な、なら、エレが逃げれば」
「一緒にいてくれるんじゃなかったの? 」
エンジェリア姫が逃げづらくなるような言い方をして逃がさないようにしているのでしょう。
その効果は抜群です。エンジェリア姫は部屋から出ようとしません。
「……フォルなの。ずっと一緒が良いの。フォル一緒が欲しいの。それ以外いらないの……わがままエレはきらい? 」
「……何を不安そうにしてるんだか。それをわがままなんて僕が言うと思う? それより、ちゃんと言ってえらいね」
「ふにゃ……え、エレは……みゅぅ……フォルの一番でずっとお隣を独占して……それで……ペットになりたいの! 」
エンジェリア姫はまだ幼く、一番近くにいるためのものがペット以外知らないのでしょう。誰も教えていないというのもあるのでしょうが。
「ペット? 恋人なら……良い、かもしれないけど」
「こいびと? ちっちゃい人? 」
「違うよ。愛し合っている二人が……って分からないか……特別な人? 家族以外で」
「……みゅぅん。エレはフォルが側にいてくれれば良いの」
知識がないからでしょうか。普段のエンジェリア姫では聞けないような言葉です。
エンジェリア姫は結婚を望んでいますから。その過程に恋人になる事も望んでいました。
「それより、お仕事いちゅ終わるの。ねむねむさんまでには終わる? 」
「うん。それまでには終わるよ。暇なら遊んできな」
「遊ばないの。フォルと一緒にいる。でも、ねむねむさんの時、お仕事でいないの悲しいから聞いたの」
寝る時間も一緒にいたいという可愛らしい想いにはフォル様も報告書をおきました。
エンジェリア姫を優しく抱きしめています。
「ふぇ」
「ここなら、こういうのも許されるよね? 」
エンジェリア姫とフォル様の唇が触れ合います。すぐに離れましたが、エンジェリア姫は良く分かっていない顔をしています。
「記憶が戻るまででも良いんだ。今回だけ。君が飽きたらやめて良い。だから、その間だけ、僕の恋人でいて? 」
「……分かんないけど、分かったの。エレはフォルの恋人なの」
今回だけというのは、この世界以外では恋人になるつもりはないという事でしょう。エンジェリア姫は、その事を理解していないでしょうが。
記憶がある状態でこの世界の事、フォル様が神獣に選ばれているという意味。それらを思い出さなければ、理解する事はないでしょう。
それが良いのか悪いのかは、エンジェリア姫が知る事でしょうね。
「うん。ありがと。ずっと守るから。僕が、君をずっと守り続ける。君が何も知らずに笑っていられるように」
「みゅ? ふにゃ⁉︎ ゼロがなんだか騒いでいる気がするの! エレに助けを求めてる気がするの! 虫さんいる、怖いって言ってる気がする」
エンジェリア姫とゼーシェリオン様は共有で互いの状況をなんとなく知る事ができます。それでゼーシェリオン様の危機を察知したのでしょう。
ゼーシェリオン様は虫が大っ嫌いと言ってますから。
「……でも、フォルと一緒にいたいの」
「フィルが一緒だから君が行かなくて良いよ。というか、行かないで欲しい。もう少しで報告書の確認終わるから、そのあと遊べるから」
エンジェリア姫がゼーシェリオン様の元へ行かないように必死ですね。そこまでエンジェリア姫の事を思うのでしたら、選択肢にあれはないと思うのですが。
時間というのは残酷なのでしょう。
「待ってるの。ゼロは知らないの」
「……うん。今はゼロの事も忘れて、僕だけを考えて……って、むりかな? 」
「むり違う。エレの頭の中フォルだけ……でも、お勉強もしないとなの。フォル、お仕事終わったらお勉強」
エンジェリア姫が自分から勉強をすると言い出すのは少し違和感があります。私の知るエンジェリア姫は勉強が好きではなかったので。
「今日は何にするか。種族学はある程度やったから……エレ、やりたいのはある? 」
「魔法学。それか……調合学。雪国のお話とかも良いかもしれないの」
相変わらず魔法学と調合学がお好きなようです。ですが、この場合はフォル様は
「雪国の話で良いかな? ちゃんと知っておかないとだと思うから」
「ふにゅ」
「今回行く場所は、ローシャリナと同盟国であるヤポン王国。年中雪が降る国だ」
エンジェリア姫は雪を見た事がありません。今回の転生のあとにという話ですが。
雪と言われても、寒い場所というくらいにしか理解していないでしょう。
「ぽかぽかさんにしていくの」
「うん。それは必要だね。でも、寒いだけじゃないよ。あの大雪だと視界悪い、歩きにくい。エレとか転びそう。転ばないようにずっと手を繋いでいきたいとこだけど……今回禁呪関連あるから面倒見てられないんだよな」
管理者の仕事の一つ、禁止指定魔法の取り締まりですね。これは戦闘になる事が多いので、エンジェリア姫を連れてはいけないのでしょう。
「ふぇ⁉︎ やなの! エレもお役に立てるの! フォルのお仕事をお手伝いするためだけにお勉強とかがんばってるんだから、エレを使えなの! 」
「そんな事でき……ん? ま、まぁ、勉強するなら理由はどうでも良いか。でも、これが危険な仕事だって教えたはずだよ。そんな仕事に君を連れていけると思う? 」
フォル様は連れて行きたくないでしょう。ですが、エンジェリア姫はそれで諦めませんよね。
「いくの。エレいっぱい魔法覚えたの。この結界魔法具が欲しければエレを連れてけなの」
いつの間にか結界魔法具が完成しています。エンジェリア姫は、もの質というように結界魔法具を持っています。
「どこでこんな方法覚えてきたの? はぁ……今回は単独みたいだから、連れていくよ。その代わり、余計な事はせずにおとなしくしておいてよ」
「ぷにゅ」
本当に危険と判断したなら止めるはずですが、エンジェリア姫がいても問題ないと思ったのでしょう。
結界魔法具は、作れないわけではありませんから。
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星の音 二章 三話 魔法車




