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13話 二人の勉強


 フィル様の仕事中、エンジェリア姫はゼーシェリオン様と一緒に勉強をしていました。


「……エレ、三大神聖種って何? 」


「聖星、聖月、聖命なの。ゼロ、魔族の代表種って何? 」


 ゼーシェリオン様がここへきた当日にフィル様が、記憶の一部、かつての呼ばれ方を教え、今では互いに昔のように呼び合っています。


「……ここは広いけど、必要以上にものを置いていないシンプルな場所なの。王宮はもっと煌びやかなのかな」


「そうだろうな。あと、さっきの答え、吸血鬼、淫魔、鬼とかだな」


 エンジェリア姫は現在では聞かない事ばかり知っていますが、比較最近の事は知りません。ゼーシェリオン様はその逆です。


「……久しぶり、エレ。元気にしてた? 」


「ぴにゃ⁉︎ にゃ⁉︎ ぴにゃにゃ⁉︎ 」


 エンジェリア姫が突然挙動不審になります。その原因は、エンジェリア姫の様子を見にきたフォル様です。

 外見は現在のエンジェリア姫と同じくらいです。


「ぴにゃ⁉︎ ぷにゃ⁉︎ ぴんにゃんど⁉︎ 」


「ぴんにゃんど? 」


 挙動不審のエンジェリア姫に、ゼーシェリオン様が戸惑っています。フォル様は、笑顔でエンジェリア姫を見ています。


「フィルは仕事中だよね……二人で勉強していたの? 分からないとこあれば教えてあげようか? 」


「……ここ分かんない……の」


「俺ここ分かんない」


「うん……全部説明すれば良いんだね? 」


 エンジェリア姫とゼーシェリオン様が分からない場所を合わせると全て分からない事になります。この現状にもフォル様は笑顔を絶やさず対応しています。


「……そういう事かも」


「……ふにゅ……」


 事実なので否定はしないようです。


「……今日は時間があるから教えるよ」


 わざとでしょう。フォル様がエンジェリア姫の隣に座りました。


「ぴにゃん⁉︎ ぽにゃん⁉︎ 」


「……この方が教えやすいかなって。いやだった? 」


 必死に首を横に振るエンジェリア姫。その反応も、フォル様は可愛らしいと思っているだけなのでしょう。


      **********


 勉強の時間が終わり、エンジェリア姫はゼーシェリオン様にべったりとくっついています。


「エレ、ゼロ、今度雪国に行く予定なんだけど一緒に来ない? フィルが二人を置いて行くのが心配だっていうから、できればきて欲しいかな」


「……い……行く……いくの……」


 エンジェリア姫がぼそっとそう言いました。


「ありがと。寒いからあったかい格好しておいてよ。それと、これを君に」


「ぷにゃ……あ、ありがと……なの」


 空色の小さな花の髪飾りです。フォル様がエンジェリア姫の髪につけました。


「似合ってる。ついでに、ドレスとかも贈らせて欲しいんだけど、何色が良いかな? 」


「……翠……が良いの」


「……分かった。用意しておくよ」


「……なんでドレス? 」


 一応エンジェリア姫はこの国の貴族という事になっているのですが、表舞台には一切出ていません。エンジェリア姫にドレスというのは想像がつかないのでしょう。


「仕事でパートナーが必要なんだ。だから、エレに頼みたいなって」


「……え……エレで……良いなら」


「君が良いんだけど? 君以外なんて考えたくないよ」


 本心、でしょう。フォル様は本当にエンジェリア姫を想っています。それは長い時を経ても変わらないのでしょう。


 顔を真っ赤にするエンジェリア姫を見るフォル様は、本人ですら気づいていないかもしれませんが、とても楽しそうです。その笑顔はつくられた笑顔ではなく、自然に浮かんだもの。


「……エレも、フォルのお隣は、エレ以外やだなの。フォルの一番大事な女の子は、エレが良いの」


「僕が一番大事な女の子は今も昔も……これからもずっと君以外ありえないよ」


「ぴにゃ⁉︎ え、エレは、今からお料理の時間だからー」


 顔を真っ赤にしたまま逃げてしまいました。エンジェリア姫は料理できないはずですが、咄嗟に思いついた言い訳がこれしかなかったのでしょう。


「……また逃げられた。僕がいるとあの子は休めないだろうから帰るよ」


「ぴにゃ⁉︎ だめなのー! 」


 戻ってきました。


「フォルここの子。エレと一緒にいる子。だからだめなの」


「俺も一緒にいたいからエレの味方」


「……まぁ、フィルに報告書もらわないとだからいっか。分かったよ。ここにいる」


「……ぷみゅ。フォルはどぉどぉとしてるエレの方が好みなのかも……お隣さんに座って抱きつこっと」


 エンジェリア姫がフォル様の隣に来て抱きついています。先程までのあれはなんだったのでしょうというのには、恋する乙女の努力とでも言っておきましょう。


「僕はどっちも好きだけど? こっちの方がエレって感じで良いとは思うけれど」


「エレって感じがする方なの……お料理忘れてたの」


「俺ここでエレと一緒にいて一度も料理してるところ見た事ない」


「それはそうなの。エレはキッチン立入禁止だから」


 そういえば、エンジェリア姫はフィル様から料理をするなどころか、キッチンに立つなと言われているのでした。怪我するかもしれないからという理由です。


「ただいま。弁当、買ってきた……フォル、エレの勉強見てくれた? 」


 フィル様が帰ってきました。弁当の入った袋を持って。


「うん。ついでにゼロの方も見ておいたよ。歴史はだいぶ覚えてきているみたいだけど、種族の方はまだほとんど覚えてないみたいだね」


「歴史の方が得意だから」


 普段はフィル様が教えていたので、エンジェリア姫の勉強具合にフィル様の得意が強く出ているのでしょう。エンジェリア姫は、歴史に関してはかなり詳しくなってきていますが、種族に関しては、歴史と関わりが深いものしか覚えていないようでした。


「そうだったね。でも、最低限の種族に関する知識は叩き込んでおかないとだからしばらく僕教えるよ。種族に関する知識はエレの身を守る事に繋がるから、ちゃんと覚えるんだよ? 」


「……ぷるぷる……ぴにゅ」


 フォル様は笑顔で言っていますが、そこに恐怖心を覚える何かがあったのでしょう。エンジェリア姫は、ゼーシェリオン様に隠れて頷いています。


「学園に通って勉強も良いけど、エレを一人にさせられないからね」


「……でも、お勉強って、得意を教えて、いろんな人いるって聞いたの。一人で全部教える違うって」


 一人で全ての科目を教えるわけではないという事を言いたいのでしょう。エンジェリア姫は、記憶がないので学園に関する知識がないはずなのですが、こっそり勉強でもしていたのでしょう。

 

「貴族が通う学園とかはそうだね。専門的な知識も学ぶから、その手の専門家のような人が教えるんだ」


「……フォル一人なの」


「僕一人でも基本的な事は教えられるよ」


 基本的な事以上を教えられるでしょう。フォル様の持つ知識は明らかに異様ですから。


 歴史に関しては、読む事のできる歴史書に載っている事は全て覚えていたはずです。調合学と魔法学に関しても、表に出てはいないものまで知っていたはずです。


「……教えるのができるできない関係ないなら、おれもフォルも学園で習う以上を知ってる」


「……ふにゅ? ちゅまり? 」


「教えられさえすれば、学園に通わずとも同等以上の知識を教えられる。魔法学とか、エレの得意分野に合わせて教える事もできる」


 魔法学は教えられる人がかなり少ない事で有名なのですが、フォル様とフィル様なら簡単に教えられるのでしょう。エンジェリア姫には良い事しかないはずです。


「ふにゅ。でも、今日はおやすみなの。もうちゅかれたの」


「そうだね。明日少しだけ勉強しようか。買い物とかも行かないとだから、移動中とかに」


「お泊まりなのー。はーじーめーてーのーおーとーまーりー」


 エンジェリア姫は転生して初の遠出です。準備の時を含めて楽しみなのでしょう。


      **********


 星の音 二章 二話 二人の勉強

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