最高のザッハ・トルテ
注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。
ご了承下さい。
「ザッハ・トルテを作る練習ぅ?」
僕の伯父さんは目を丸くしてそう言った。
「はい! 今度みんなに作るんです! だから作り方を教えてください伯父さん!」
「……いや、お前、知ってるだろ」
「僕が知ってるのは普通のザッハ・トルテ、けど僕が作りたいのは最高のザッハ・トルテ! 伯父さんなら出来るでしょう!?」
「まず何だよ最高のザッハ・トルテって」
「それはまあ、最高のザッハ・トルテですよ」
「お前なぁ……こっちはこっちで色々大変だったってのに、帰って来たらいきなりザッハ・トルテの作り方を教えろって……」
伯父さんはそう言いながらも、渋々ピンクのハート柄のエプロンを着けてキッチンへ向かった。僕もすぐにその後を着いて行った。
「ザッハ・トルテって言ったら、アレだろ? チョコケーキみたいなやつ」
「そうそう、それ」
「んー……って言っても、最高のザッハ・トルテって言うのが分からん……とりあえず作ってみるが」
伯父さんは慣れた手付きで、いったいどこから出しているのかも分からない材料を使って超高速でザッハ・トルテを作りあげた。
待つこと約三十分。……え、三十分!?
ケーキって三十分で作れるものだっけ!?
まあ、今は驚かないでおこう。伯父さんってたまに物理法則を無視する動きを見せるし。
出されたザッハ・トルテは、まさしく王道、チョコケーキの王、いや、もはやこれは皇帝と言って差し支えないだろう出来栄え。
チョコレートの黒は金属のような光沢を見せ、切り分けられた断面を見ても一切のブレもなく、見事なバランスで層が別れている。
完璧、完璧を通り越して超越している。さすが伯父さん、なんでも出来るスーパー人類。
「じゃあ早速、実食」
「はーい召し上がれ」
一口分だけフォークで切り取り、それを口の中に運んだ。
舌の上に広がるチョコレートのほろ苦さと甘さ、バターのクリーミーな風味、そしてジャムの酸味、これは決まったレシピ通りに作ったとか、そういうものじゃない。
その日、その場所の気温、湿度、環境でそれぞれ判断して決めた完璧な分量。三星シェフみたいなことをしているのが口の中で分かる。……けど――。
「これはッ! 最高のッ!! ザッハ・トルテじゃァ!! ナイィィ!!」
「じゃあ逆に何だよ最高のザッハ・トルテって!! これ以上のものは俺もう作れねぇよ!!」
「何か……なんていうか、最高のザッハ・トルテっていうのはさぁ……!! こういう美味しいって意味じゃなくてさぁァ……!」
「これだけでもう妻に出したいくらいなんだが……えー、何だよ、本当に……」
すると、僕の叫び声で気になったのか、お母さんがキッチンをのぞいてきた。
「……何か、悲鳴みたいなのが聞こえたんだけど……」
扉から顔をひょっこり出して様子をうかがっている白髪の人が、僕のお母さん。つまり伯父さんの妹にあたる。
美人なんてものじゃない。三十代だというのに、たまに高校生からも告白される人だ。人妻に告白する勇気だけは、振られた幾千人もの方々に送りたい。
「なぁー、真希が変なこと言ってるぞ」
「へぇ。何このケーキ。おにぃさんが作ったの?」
「食べてみろ。舌が肥えて安いものが喉を通らなくなるぞ」
「さんざんおにぃさんの料理は食べてきたけどね」
お母さんは一口だけ口に運ぶと、みるみるうちに顔色が明るくなっていった。
「うん、メチャクチャ美味しい。おにぃさん何度でもいうけどパティシエにでもなったら?」
「もうなってる」
「また副業?」
「まあそんなところだ」
「これの何が不満なの真希、全然美味しいけど」
いや、美味しいのは分かっている。それは僕も認めている。
「だけどそれは、最高のザッハ・トルテじゃないッ!!」
「……本当に変なこと言ってる。えーと、まずさ、何、最高のザッハ・トルテって」
「チョコケーキの王じゃなくて、覇王みたいな。皇帝じゃなくて、神みたいな、そういうの」
「要望が厳しい……。出来る? おにぃさん」
伯父さんは難しそうな表情を浮かべながら、体を横に捻っていた。捻りすぎて逆立ちを始め、さらに捻ってまた両足で立った。
「……何のために作るのかに、よるな。みんなに作ると言いながら、普通のザッハ・トルテじゃなくて特別なものを用意したいとなると――」
すると、お母さんが目を輝かせながら僕の顔をのぞいた。
「好きな子でも出来た?」
「……別に良いでしょそういうのは」
「すぐにでもお父さんに連絡しないと……!!」
「……そういえばお父さんは?」
「さあ? あの人影薄いし、帰ってきたのかよく分かんない。まあ、いつもどおり夕食ごろに見えるようになるでしょ」
さらに伯父さんは頭を悩ませ、ついには頭を抱えた。
「俺は……俺はなぁ……だいたい金で解決出来ると本気で思ってる人種だからなぁ……。最高のザッハ・トルテを望むなら、それこそ全ての素材を最高品質にするくらいしか……。……試してみるか、一回」
伯父さんはおもむろにスマホを出し、誰かと通話を始めた。
「ああ、ん、俺。俺、俺。ちょっと今すぐ用意してもらいたいものがあるんだけどよ。おお、おお、あー、分かった。何とかする。んじゃー頼んだぁ」
そういって伯父さんはそそくさとどこかへ行ってしまった。
一時間ほど待ってみると、伯父さんは大荷物を両腕と背に抱えながら戻ってきた。珍しく伯父さんも息を切らし、人間アピールをしている。この人は人間というより新たな人類の進化系と思ったほうが良い。
言葉を考えずに言うなら、ニュータイプだ。
「ひどい目にあった……。ということで、家でストックしてた最高品質の材料と、取り寄せてもらった諸々、準備出来たぞ。これで一度作ってみる」
そしてまた待つこと三十分、いや、四十分。
完成したものは、前のザッハ・トルテと比べて、上品さと高品さが目立つ。美味しいには美味しいが――。
「最高って言うより、最高値」
「だよなぁ……」
実際に、最高のザッハ・トルテっていうのがなんなのか。それが僕にもさっぱり分からない。
僕は何を作ろうとしているのかもはっきりとしない。
「……愛、愛を入れるか、もう。平時だと歯がゆくて恥ずかしくなるレベルでハートでも入れるか」
「それが許されるのはバレンタインくらいだよ伯父さん……」
「じゃあどうするんだ」
「そこを考えてくれるのが、百戦錬磨の伯父さん」
「とはいっても、俺は別に恋愛経験は一回しかないからな。一目惚れのやつと結婚したし。他は勝手に惚れてるだけだし」
「夜の男子が聞いたら全勢力を持って伯父さんを討ちに来るから発言には気をつけて」
「ふっ、もう何度も襲撃されたあとだ」
この人はこの人で、いろいろ大変そうだなぁ。
しかし、ハート型か……。……うーん、うーーーん……。
「ハートはなぁ……」
「んじゃもう面倒臭いから材料全部一から作るか。チョコレートはカカオから」
「それ今日で終わらない気がするんですけど伯父さん」
「じゃああれだな。飾りに力を入れるか」
「あ、それ良いかも。材料が普通でもスゴイいい感じになる。じゃあご指導ご鞭撻お願いします! フォルムチェンジします!!」
お母さんが空気を読んで僕に布を被せると、その一瞬の間に僕は私に変わった。
「いつ見てもスゴイなそれ」
「伯父さんも大体似たこと出来ますよね?」
「いや、俺は声だけ。流石に体型はムリだ。何で性別まで変わるんだお前は」
伯父さんの疑問の眼差しはお母さんに向いた。
「いや、私も知らない」
「お前の娘――息子? だろ?」
「産まれたときからずっとあんな感じ」
「それは確かにその通り。っていうか俺も真希の性別知らないんだけど」
お母さんは意味深な笑みを浮かべている。まあ、お母さんも分からないのだろう。
ザッハ・トルテの作り方は知っている。問題は、どんな飾りをつけるか。
「……チョコレートオーナメント、かな」
「チョコレートオーナメント手作りか……本格的にパティシエにでもなるつもりか? 俺のところで修行するか?」
「将来的にはそれもアリですけどね」
伯父さんはまず、お手本としてぱぱっと十数秒で、バラの形のチョコレートオーナメントを完成させた。しかも立体的な、花びらの一枚一枚を丁寧に作り組み合わせている高度なオーナメントだ。
「これとか」
「うん、全然見えませんでした」
「んじゃこれも」
伯父さんは立体的な五芒星のチョコレートオーナメントを完成させた。
「俺達一家はやけに星と縁があるからな」
「本当に何でなんでしょうね」
「次はこれ」
今度は可愛らしいクマさんのチョコレートオーナメント。しかもリボンまでついている。
「一番難易度高そう」
「実際作るのに三分かかった」
「カップラーメンの待ち時間で作れるのはもうさすがですね」
「はい次これ」
伯父さんは薄いチョコレートの板を僅かに溶かし、あっという間にそれを結んでリボンの形にしあげた。
「これでザッハ・トルテを巻く」
「あっ、スゴいメチャクチャおしゃれになりそう」
「もうこの際フルーツも特盛にするか。色んな切り方を教えてやろう」
「お願いします師匠!!」
もともと、料理づくりの先生は伯父さんだ。最初はお母さんに習ったけど、お母さんも伯父さんから習っている。つまり伯父さんはこの分野でも最強。
ほとんど私の上位互換、つまり伯父さんは、私の正当進化形態の一つなのだ。
「ほんと、仲良いよね、二人」
お母さんがぽつりとそうつぶやいた。
最後まで読んで頂き、有り難う御座います。
ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。
完全上位互換、物語が行き詰まったらだいたい伯父さんに任せればなんとかなるジョーカーです。
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