ついに明日は中間テスト
注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。
ご了承下さい。
……さて、ついに明日が中間テストなわけだ。
……あぁ、ヤバい、本当にヤバい。こうなると本気で緊張してくる。まだ時間はあるっていうのに。
こうやって図書室で勉強してても、ペンを握る手が緊張で震えて今にも吐きそうだ。
そして、それは何だかんだ共にテスト勉強をしている農もそうだ。息が荒い。
「ヤバい……死にそう。死ぬ、本気で死ぬ……でも手を止めたらまた別の意味で死ぬ……!」
「始めて意見が同じになった気がする……」
「何であっちの奴らは元気なんだ……!」
「あっちは元々元気があり余ってる連中だし。白ちゃんは、真希ちゃんと一緒だから気合入ってるんでしょ」
……そう、実際、盛り上がっていないのは、こっちだけだ。私と、農だけ。
「やっぱり、俺は思うんだよ。何かしらご褒美とかさ、あるとやる気出るよなぁ」
「まあ、それは確かに」
「……つっても自分にご褒美でも買えるくらいの金は無いし。バイト増やしたら元も子もないきがする……」
うーん、どうしよ。
……まあ、一応、そういうことしてくれそうな人に、心当たりはある。
ちらりと、真希ちゃんのほうに視線を向けた。
「あー、やっぱぁ、農ぃ。ご褒美は欲しいよねぇ」
農は私の視線のほうを見て、意図に気づいたのかわざとらしく会話を始めた。
「そーだなぁ。やっぱ欲しいよなぁ。一番の成績のやつにはってこともやればもっと、やる気が溢れるよなぁ!」
よーしそのままそのまま、真希ちゃんはやけに勘が良いんだ。察してくれる、絶対に。
そして、ばっちり視線があった。真希ちゃんとばっちりだ。
「あー、あー、ねぇ農、いろいろ欲しいよねぇ」
「そーだな涼夏、そしたらやる気もぐんぐん溢れて、過去最高得点、更新するんじゃねぇのぉ?」
三文芝居、大根役者、だけど素直に頼むなんて、厚かましいことはしたくない。
なら簡単、あっちから提案してくればいい。建前だけがほしい。建前さえあれば、あとは肯定するだけ。
真希ちゃんなら、きっと。
真希ちゃんはやれやれと言わんばかりに微笑み、そして答えてくれた。
「じゃあ、テスト終わりに皆でどっか、遊びに行きましょうか。ちょうど三連休もあるし、予定が合えば泊まりとかもありかも」
しゃおらぁ! どこに行くのか知らないけど!
「それと、学年総合点数三十位に入った優秀な人には、私からプレゼントがありまーす!」
さらなる報酬来たぁ!
私と農は、喜びのあまり互いに拳を合わせた。
「やったな相棒」
「真希ちゃんの使い方は私に任せろ。あれはそういう部活だし」
友情が育まれる課程としては、ずいぶんと邪な気がするが、まあ良いだろう。
真希ちゃんの性格を、かなり理解してきたからこそ出来た所業だ。友人思い、好奇心旺盛、そして人の扱い方に長けている。それが真希ちゃんだ。
「いつの間に、あんなに仲良くなったんだろ」
真希ちゃんがぽつりと呟いた。それに答えるように、亜美が口を開いた。
「もともと、涼夏は人にテンションを合わせるのが得意だからねぇ。誰とでも話して仲良くなる瞳とはちょっと違うタイプのコミュ強だよ」
「ふーん……。……まあ、瞳ちゃんはどっちかというと、オタクに厳しいギャルっぽさはあるけど……」
「バカにはしないけど興味がないタイプじゃない? 瞳は。だから関わらないし、関わろうともしない感じ」
「あー、そうかも。じゃあ涼夏ちゃんは、ゲームを一緒にやるタイプのギャルってことかな」
「そうそう、そういう感じ」
私の評価、ちょっと過剰じゃない?
まあ良い。問題は、瞳が悪い方向でやる気を出しそうなところだ。あいつ性格悪いし。
ふと視線を向けると、やはり悪い笑みを浮かべている。
「……ねぇ、瞳」
「んー、何よ涼夏」
「まさかとは思うけど、これから嘘の方程式を教えたり、勉強をとことん妨害したりとかは、しない?」
「あんたは私のこと何だと思ってるの」
「真希ちゃんファンクラブゴールド会員の性悪ギャル」
「性悪だけは否定したいんだけど」
「事実でしょ、始めにあんな絡みかたして」
最悪洸平に頼めば良い。それに真希ちゃんだったいる。絶対に瞳から勉強を教わらなきゃダメってほどでもない。
ただ、敵には回したくない。こいつには取り巻きが多い。
瞳はため息をこぼしたと思えば、バカにするかのように舌を出した。
「バァーカ。そんな小細工しなくても、この中だと私がトップになるに決まってる。テスト対策だけならバッチリだし。……それに、わざわざ友だちのこと陥れるほどクズでもないし」
「瞳……」
……こいつ、こんな善のギャルだっけ。
「……なんか、ごめん。勘違いしてた。ずっとメガネくんを影でゲラゲラ笑ってイジメてひきこもりを量産する性悪ギャルなんて思ってごめん」
「貴方私のことそんなふうに思ってたの!?」
「いや、本当に、誤解してた。本当はちゃんと、人間の心を持ってたんだ……。ごめん……」
「貴方の前でだけ人間の心を捨てたくなったわ……!! 貴方のイメージ通りになってやろうかァ……!!」
おぉ怖い怖い。刺激しないでおこう。
すると、真希ちゃんがクスクスと笑いながら私と瞳の間に顔を入れた。
「涼夏ちゃんも瞳ちゃんも、お互いのこと誤解しすぎだよ。どっちも、ちゃんと良い子」
何だこいつかわいっ。
やる気にみなぎった私たちは、ペンを止めることもなく、今までにないほどノートを字で埋め尽くした。
いつもより頭が良く回る。やはりモチベーションは大事なのだ。
するすると頭に入る、とまではいかないが、理由もない自信が溢れて気分が良い。……理由もない自信って、ひょっとして惨敗の負けフラグ?
あ、ヤバい。そう思うと逆に自信がなくなりはじめた。
やる気、やる気を途絶えさせるな。こう、何か、この状況ばっちり解決する何か……。
「……真希ちゃん」
「どうしたの?」
「……大変、申し訳無いのですがぁ……もっかいやる気が出そうな言葉を言ってくれると助かります……」
「あぁ……えーと、じゃあ……どうしよ。ここに私が作ったミニテストがあるけど、これで全教科80点以上取れば、明日ご指名のお菓子を作ってあげます。何でもどうぞ」
「……ザッハ・トルテ」
説明しよう!
ザッハ・トルテとは! オーストラリアの菓子職人フランツ・ザッハーが考案し、トルテに属する古いチョコレートケーキの一種である! 時として、チョコレートケーキの王様とも呼ばれるのだ!
ハンガリー国王およびオーストラリア皇帝、晩年には不死鳥とさえ呼ばれたフランツ・ヨーゼフ1世、正確にはフランツ・ヨーゼフ・カール・フォン・ハプスブルク=ロートリンゲンも愛したとされるお菓子である!
チョコレート味のバターケーキを作り、さらに杏のジャムを塗り、表面全体を溶かしチョコレート入りのフォンダンで糖衣掛けするだけである! ……だけであるって言ったけど、ガチの一般人じゃ、まずチョコレート入りのフォンダンなんてどうすれば良いんだろうな!
「ザッハ・トルテかぁ……なかなか、難しそうなものを頼みますね」
「……出来ない?」
まあ、難しいのは確かだ。真希ちゃんの家がいくら広くても、本格的なザッハ・トルテを作るには設備が――。
「いや、全然出来ますけど……うーん、家にある材料で足りるかな……」
設備の問題よりも、材料の心配!? さすが真希ちゃん、不可能はないってこと!?
「いや、うん、分かりました! ただし、80点以上取らないとご褒美は抜きですからね!」
……ああ、良い。その一言だけで良い。食欲は、人間の糧だ。その欲には忠実であれと、亜美が言っていた。
「……ミニテストはいつやるの? 今すぐ?」
「どれくらい必要ですか? 準備にも結構時間かかりますし」
「……一時間、いや、四十分あれば充分」
「やだカッコいい」
……やっべぇ。
ついその場のノリでカッコつけたけど、四十分じゃやっぱムリかも。
いや、あくまでミニテスト。真希ちゃんのことだ、テスト範囲から出題する。なら……イケるか?
なにはともあれ、やる気は湧いてきた。
真希ちゃんはすぐにミニテスト制作を始めた。……私もやらないと。ザッハ・トルテが待っている……!!
「亜美ちゃん亜美ちゃん」
「んー、何、真希ちゃん」
「涼夏ちゃんって、ザッハ・トルテ好きなの?」
「ざっは……何? なんて?」
「チョコレートケーキみたいなやつ」
「あー、涼夏はチョコ好きってだけだと思うよ。バレンタインとホワイトデーでコネある人に片っ端からチョコせびるくらいだし」
「ふーん……そっか……ふーん、そうなんだぁ」
四十分経過、そろそろか。
真希ちゃんは、この状況を楽しんでいるようだ。まあ、分からないでもない。
私の前に、いや、それどころか四十分で問題を作り、わざわざ人数分コピーしてきてみんなの前に置いた。用意周到というか、なんというか。
「えー、と。制限時間は三十分。それでは、始めっ」
それと同時に、本番のテストのようにペンを握った。
ある程度目を動かし、問題を読めば……うん、真希ちゃん、容赦がない。ミニテストとは言っても、全教科ちゃんとした応用問題の数。
三十分、なるほど、少しでもサボれば一気に振り落とされる、ギリギリの時間配分。本当はこんなことも考えてる暇がない。
……瞳が教えてくれた、真希ちゃんも教えてくれた。洸平は……どうだっけ、確か教えてもらったけど、あんまり印象に残っていない。
だからこそ、すらすらとまではいかずとも、問題の意味と意図は理解出来る。勉強の成果だと受け取ろう。
あとは、私の実力だ。頭の細胞フル回転で、やる気の炎でさらに加速させれば良い。
三十分間、ようやく終わったが、脳をフル活用したせいか、私の頭には熱がこもっていた。もう立ち上がることも出来ない。
真希ちゃんはさっきから採点に集中している。ご丁寧にメガネまでかけている。ああいうところ、形から入るタイプだろうしねぇ。
「採点、終わりました」
本番は明日なのに、緊張感は全く同じだ。真希ちゃんのたった一言で全ての会話が止まった。
「肝心の涼夏ちゃんは……そのー、本当に、残念なんだけどね」
ああ、もう次の言葉が予想出来る。
「一教科、英語だけ60点ですね」
「ぐっはっぁ……!! まさか、まさかそんなことが……!!」
「いやー、見返す時間もありませんからね。最後の問題一単語だけ間違えてます」
「最後の一番得点稼げる文章問題で……!」
「一問20点の問題ですからね。気が緩みましたか?」
「いや、どうせラクショーだろって思ってた節はあるかも……」
……ザッハ・トルテは無しか。
そう残念に思っていると、真希ちゃんはやれやれと言わんばかりにほほ笑んだ。
「まあ、細々としたミスや、ミスじゃないけど正解……? みたいなものもありますが、ここを重点的にやればそうとうな点数が取れそうですね。うっかりさんさえなくせば。それさえなければこのミニテストでも80点は取れたので、特別ですよ?」
「それってつまり?」
「ええ、作ってあげます。ザッハ・トルテ」
「しゃぁおらぁ!! やったァ!! ザァッハァァ、トォルテェー!!」
「狂喜乱舞……以上ですね」
最後まで読んで頂き、有り難う御座います。
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