部活動だよ真希くん! ①
注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。
ご了承下さい。
おや、あの目立つアホ毛は……。
性別不詳の五常真希さん。今日は真希くんらしい。
ホームルームが始まる直前、ギリギリ遅刻だが、彼……彼で良いのか本当に? 真希くんは眠たそうに目こすりながら教室に入ってきた。
「おはよーございます……」
真希くんの肩には三毛猫が乗っていた。右とか左とか、一匹とか二匹とかそういう次元じゃない。
両肩に、それぞれ四匹ずつ猫が重なってキャットミルフィーユ状態になっていた。
よく見てみれば真希くんの足下に猫が集まっており、猫の大群が教室の外の廊下に連なっていた。
マタタビでも体にこすりつけたの!? それとも変なフェロモンでも出てるの!?
「真希さん……!?」
「……遅刻してすみませんでした……」
「いえそれもありますけど……!? なんですかその猫の大群は……!?」
「……え? ……うわっホントだ。いつのまに着いてきたんだこいつら」
「無自覚!?」
先生も流石に驚いているようだ。まあ、当たり前か。
しっかし、何を、どうすれば、こんな状況に……? 謎は深まるばかりだ……。
学校は特に問題無く終わった。観察を続けていたが、今日は真希くんはずっと真希くんだった。学校のチャイムが鳴ると同時にどこかへ行ってしまった。
私も帰ろうとした直後、誰かに首根っこを捕まえられて勢い良く廊下を引きずり回された。
しかし舐めないでもらいたい。この白土涼夏、空手三段である。三段ってビミョーな数とかいうなよ。
首根っこを掴んでいる誰かの手を思い切りひねって、そのまま押し倒してみた。おや、この見なれたお団子ヘアーは。
「痛いいたいイタイ!」
とりあえず特徴的なお団子ヘアーをひっぱり、倒れている彼女の背に座った。
彼女は"加賀美亜美"。小学、中学、そして高校とずっと私の後を追って来る幼馴染である。
「何だあんたか。いきなり襲ってきて、このお団子を食べてやろうか」
「私のお団子はずんだ味だけど食べないで!」
ずんだ味か。ならいいや。あんまり美味しくない。
「それで何の用?」
「真希ちゃん、ああ今日はくんか。真希くんを調べてるんでしょ?」
「そうだけど……まさか知ってるの?」
「いや全然」
私はもう一度お団子ヘアーをひっぱった。
「イダイイダイイダイ!!」
「そーれーでー、真希くんが何なのよ」
「真希くんの、性別を解き明かそうとしているわけなんでしょ!? しかしパンツを降ろすのははしたない。聞いても彼ははぐらかす。じゃあそのためにどうすればいいか!」
「どうすればいいのよ」
「部活動を作る!」
……こいつの脳みそはこのお団子の大きさしかないのだろうか? それとも今握っているこれが脳みそだったりするのだろうか?
「名付けて『五常真希性別を特定しようの会』!」
「頭おかしいんじゃないの?」
「だぁーれが入学者成績最下位じゃ!」
「そこまでいってない。それで? それを作って部員と一緒に真希くんを観察しようと?」
「そーそー。ついでに真希くんにも入ってもらう」
「……頭おかしいんじゃないの?」
バカだバカだと思っていたが、ここまでバカだったとは思わなかった。
「何で真希くんの性別を特定する部活なのに真希くんを入れるのよ」
「部員だった方が色々できるでしょ?」
「……あー……。確かに……? けど真希くんが入ると思う? ……あの性格だと入りそうだなぁ……! 『なにそれ面白そう』っていって快く入ってくれそうだなか……!」
「それに差し入れとして手作りのおかしが……」
「よし作ろう今すぐ作ろう」
亜美が私の手を引っ張って案内したのは、この学校の旧館にある奥の奥の教室。もうボロっちい木材でできており、僅かに桐の匂いがする。
もう授業としても使われずに、ほとんど物置小屋と化している旧館の奥の教室。私達はそこへ入った。
すると、何やら目立つアホ毛が見える。
真希くんがたった一人の寂しい教室で、積み上がった机の上に眠っていた。いやまあ、それだけなら別に良いんだ。
問題は、なぜか逆さまになっていることだ。逆立ちの状態で眠り、しかもその状態で一切の揺れもなく、ずーーっと、すやすやと心地良さそうに眠っている。
「ヨガでもしてるのこれ?」
「いやー……修行? 仏教系の」
結局ヨガに近いのでは?
「……今なら、見れるのでは?」
「何を?」
「アレ」
「……駄目ッ!! ほんっとうに駄目ッ!! それだけは!!」
品もないし道徳もなければ、恥じらいもない! 男子だったらどうする気!? いや女子だったらいいって話でもないけどッ!!
「……まあまあ、ならしかたないしかたない。第二作戦開始だ」
そういって亜美は、制服の襟の中に上から手をつっこんで、大きな胸元をまさぐって何かを取り出した。
明らかにその胸の中にしまうには、長すぎて、なぜあるのかも分からない麻縄だった。
「なんでそんなもん持っとるの!?」
「お、久しぶりに方言聞いた。まあまあ、とりあえず、これで真希くんを縛って、逃さないようにして」
「して?」
「……まあ、まあまあ、行動は起こさないと。あ、それとこれ」
そういって亜美は、また同じようなところから、二つのホッケーマスクを取り出した。
「今日金曜日だったっけ?」
「残念、ここは学校だァ! 封鎖されていたキャンプ場でもなければ、私達は加害者側だァッ!!」
「ジェイソンにはなりたくないんだけど!!」
「これは、やるべきことなのだよ。やるべきこと。さあ、さあさあ!!」
真希くんは目を覚ました。まあ、結構ひどい目にあってるけど。
麻縄で放棄されている椅子に縛られながら、目の前にいるのはどっかのホラー映画に出てくるような、ホッケーマスクを付けている二人。
彼女、いや、今日は彼か。彼の寝ぼけた表情は徐々に涙を浮かべた怯えきったものに変わっていった。
……可愛い。……おっと、危ない危ない。ちょっと危ない扉が開きそうだった。
「お、お金はありません……! ガタガタガタガタガタ!!」
「自分でいうのねそれ」
「……あれ? 涼夏ちゃん?」
「そうそ――」
すると、亜美がその隣で、またもや胸から出したへこんでいる金属バットの先端で真希くんの頬を撫ではじめた。
「やあやあ真希くぅーん。ちょーっと聞きたいことがあるんだけどさぁー?」
「ハイッ何でしょうかッ!!」
「性別ってどっち?」
「……今日は、一日中男のコです」
「そうじゃなくてさ、なんてゆーの? ほら、産まれた時の性別とかさ?」
「あーそういう。……えー……知りたいんですか? どーせろくでもない話しですよ? ……っていうか、誰ですか貴女」
「加賀美の方の亜美」
「あーあのお団子ヘアーの。前はお団子ありがとうございました」
「いえいえ、どうも」
え、何。何、前のお団子って。
「美味しいきな粉味でしたね」
え、亜美のお団子ヘアーって日によって味が変わるの!? そんな日替わり定食じゃないんだから……。
「あの時はツヤが良かったからねぇ」
髪のツヤでそんなに味が劇的に変わるの!? 今日はずんだ味って……あーもうこの空間でまともなの私しかいない!!
「ほら、これやってもどうせ意味ないから、さっさと解くよ」
「ちょっと待って涼夏」
「今度は何よ」
「……見て、真希くんの目」
「あー?」
まだ涙の跡が残っている真希くんの目を覗いたが、特に何も見当たらない。
「……何よ」
「……まつ毛なっがい」
「どっっっっっっでも良いからさっさと解くよ!! 先生に見つかったら色々めんどくさいことになる!」
いじめの現場だって言われたらちょっと否定が出来ない!
縄は簡単に解けた。真希くんもある程度の抵抗をしていたのだろう。まあ、当たり前か。
「えーと、それで何で僕のところに? というか何で僕がここで寝てるってバレたんですか? 一応秘密基地のつもりだったんですけどね……」
「いや、全然偶然。……聞いておきたいんだけど、部活動に入る予定はある?」
「あるけど……料理研究部。どっちかというとお菓子作りたいだけなんだけど」
「……どうする亜美」
亜美は表情を変えずに、満面の笑みのまま、声を出した。
「『五常真希性別を特定しようの会』を設立しようとして、それに真希くんも誘ってる。意味は分かった?」
「なにそれ面白そう」
一言一句間違わずに予想出来るとは、ひょっとして私には未来予知の能力でも持っているのだろうか。
「えーと、つまり? 僕の性別を特定するために、部活動を作ろうと。やっぱり面白そう。けど、確か色々条件があったよね?」
……おっと、そのことをすっかり忘れていた。
「顧問の先生と、生徒会からの許可だったっけ? 予算はいらないとして、これはどうするの?」
「……考えてなかった」
「……そ、そっか……。……うーん、面白そうだしなぁ……。協力したいけど、いやー……あ、でも生徒会からの許可は何とかなるかも」
「本当っ!?」
「多分、多分だけど。ちょっと待ってて! 女のコになってくる!!」
女のコになってくるなんて言葉、私の人生で聞くのは、きっとここだけだろう。多分。
真希くんは走って教室から出て行くと、五分も経たない内に真希ちゃんになって帰って来た。
追いかけるべきだっただろうか。その容姿と、何なら声も全て変わっている。心なしか、身長も低くなっているような?
「それでは行きましょう! 生徒会長が帰る前に!」
「本当に大丈夫なの!? こんな何のことも決めてないのに!」
「多分大丈夫です! 多分!」
真希ちゃんは明るく、そして活発に動き私と亜美の手を握り引っ張った。
そのまま新館へ一直線。生徒会室へ殴り込みにでも行くのだろうか。
「「たーのもー!!」」
真希ちゃんと亜美はそう言った。こいつらに恥じらいというものはないのだろうか。
生徒会室には、一人しかいなかった。三年生の先輩の、女子だ。
The 堅物というべきその眼鏡の生徒会長は、少々不思議そうな目でこちらを睨んだ。
「入る時はノック、そして巫山戯ずに、そして静かに、そして礼儀正しく、そして何より、『たーのもー』なんて生徒会室に入る時の言葉には不相応。やり直しなさい」
先生かよ。何だこの人、だっっっっる。この言葉を口に出さなかった私を褒めて欲しい。
しかし私の友人たちは、そんなことを気にもとめずに、まるで小学生のように騒いでいた。いや、この表現は小学生に失礼だろうか?
ならば訂正しよう。近所の悪ガキみたいにピーチクパーチク騒いでいた。
「かいちょー!!」
「煩い。静かに。見て分かる通り、生徒会長としての業務に追われている。要件は手短に、そして簡潔に頼む」
「部活動を作りたいんです!」
亜美のその言葉に、生徒会長はぴたりと手を止めた。
「……はぁ……またか」
ため息と同時に出た息は、僅かな憤怒が混じっているようにも聞こえた。
「一年生の君たちが、そうしたいのはよく分かる。この学校は相当自由だからな。自由が行き過ぎている節もある。同じ考えになっている者は、何人もいる。だが、大体は特に何の活動も決めていない仲良しグループの申請だ。流石にそんなテキトーなものまで許可するわけにはいかない。……まあ、活動内容を聞かずに却下するのは論外だろう。聞こう、活動内容は何だ」
「ここに真希く……ちゃんがいますよね?」
「ああ、いるな」
「今は女のコですけど、男のコになったりもするんですよ」
「ああ、有名だからな」
「だから性別を特定しようとする部活動を作ろうと思っています」
「よし、却下だ。帰れ」
うん、そうだと思った。むしろ許可が降りる未来が見えなかった。やはり諦めるか。どうせ部活が作れなくても、大した問題にはならない。
「……分かりました。涼夏ちゃん、亜美ちゃん。ちょっと外で待ってて下さい。私が生徒会長を説得するので」
「ちょ、ちょっとどうするの!?」
「説得ですよ。説得」
真希ちゃんは太陽のようににっこりと笑うと、そのまま私たちを追い出して扉を閉めた。
説得なら私たちがいても良いはずだ。つまり――。
「いかがわしい何かが……!」
「んなわけないやろバカ」
「私の前だとすっごく方言が出るねぇ……。だけど、なんか変な声が聞こえるよ?」
「……まっさか」
亜美のように扉に耳をぴたりとつけると、何だか生徒会長の甘い声が聞こえる。
「しらっ、知らないこんなこと! やめ、ああやっぱり、ああぁぁぁ!! あたまおかしくなりゅぅぅぅ!!」
そんな声が聞こえる。……何やってるんだろ本当に。
「……開けてみる?」
「それはそれで鶴になって飛び立ちそうだから辞めたほうが良いんじゃない?」
「……けどちょっとぉ……これはぁ……」
最終的には悲鳴のような声まで聞こえた。そこから、不気味なほど静寂が流れた。それから程なくして、その扉は開かれた。
真希ちゃんは何一つ変わらない様子でにっこりと笑っていた。
「説得完了です! 許可してくれるそうですよ!」
生徒会長の方を見ると、疲れ切った様子で椅子にもたれかかっていた。顔がやつれているような、しかし紅潮しているような……。
「……本当に、何したの?」
「説得ですよ?」
「いや説得にしては色々あれじゃない?」
「いえ、本当に説得ですよ? それ以外のことは何も」
「……あ、そう……ありがとう」
「どういたしまして」
生徒会長は床に落ちている眼鏡を拾い、そのまま何事もなかったかのように姿勢を正した。どう見繕っても色々手遅れな気もするが。
「……えー……こほん。熱烈な説得に、説得だぞ。説得だからな! 説得により、許可せざるをえない。必要な書類に、必要事項を書いて、提出するように。顧問の先生も必要だからな。その先生のサインもあってようやく受理される。分かったな?」
「それは勿論」
「……それと、もう一つ。五常真希くん」
「今はちゃんです」
「……また……。……いいや、何でもない」
本当の本当に何をやったの真希ちゃん!?
……っていうか別に部活動を作る必要もないのでは!? 今更だけどさ! 今更だけどさ!! 今更すぎて頭から抜けてた!!
「……真希ちゃん。何で、そこまで部活を作ろうとしてるの?」
「面白そうってだけですよ? 本当に、それだけです」
……やっぱり真希ちゃんは不思議だ。
最後まで読んで頂き、有り難う御座います。
ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。
真希ちゃんと真希くんだと、私としては真希くんの方が好きです。
いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……